15-2
「再スタートはミスった奴からでいいよな?」
「そうね。問題ないわ」
「よし」
俺はボールを手の中でしゅるしゅると回しながら、冷静に考える。
まず玲にスパイクを打たれたら簡単には受け止められない。仮に受けられたとしても、きっとボールはリング外へと出てしまうだろう。それでは俺の負けになる。
ならばもう戦略は一つ。
玲のところに低いボールを出す。これだけだ。
俺はボールを浮かせ、指先で軽くトスを上げる。
本来の競技の中だったら間違いなく非難される高さのトスは、真っ直ぐ玲の下へと向かっていった。
「うっ……」
思った通り、玲はスパイクを打てない。
レシーブの構えを取り、彼女は腕でボールを高く弾く。高さがあると分かりにくいが、間違いなくリング内には入っていた。
それを追いかけるのは、一番近くにいたカノンである。
「りんたろー狙い……悪くないじゃない! 瀕死のやつを狙うのは基本よね!」
「はぁ⁉」
とんでもないことを口走った彼女は、走りながら片腕でボールを弾いた。
再び宙を舞ったボールは、今度はミアの立っている場所へと落ちていく。
「まあ、ボクは自分の残機が減るまでは様子見かなっと」
軽いタッチでミアが浮かせたボールは、適当に放った割には的確にカノンの下へと戻っていく。
やばい、これじゃあいつにとってはただのスパイクチャンスだ。
「はっ! いいトスありがと!」
そしてそれは俺にとっての大ピンチということになる。
玲があれだけのスパイクを放てるのであれば、他の二人にも近いことができるというのは想像に難くない。
勝てるだなんて一瞬でも思ったのが間違いだった。
体を大きく反らし、今まさに想像通りの強烈なスパイクが放たれようとしている。
彼女が狙う先には、間違いなく俺の体があった。
「これで終わりよ! りんたろー!」
「あ。そう言えば、カノンの胸のサイズって確か――――」
「何を言っとるんじゃぁぁぁあぁぁああああ! この馬鹿ミアがぁぁああ!」
予想だにしていなかった挑発を受けたカノンは、器用なことに空中で照準を変える。
方向は、もちろんミアの方。
派手な音と共に弾かれたそのボールは、顔面を吹き飛ばしかねない勢いで彼女へと向かっていった。
しかし――――。
「やっぱりカノンは扱いやすいね」
ミアはそのボールを軽く首を横に倒しただけで回避してしまう。
ボールの勢いは当然弱まらず、リングの外の砂に音を立てて叩きつけられた。
リング外にボールを落としてしまった、つまりはカノンのミスである。
「は、嵌めたわね⁉」
「人聞きの悪いことを言わないでくれよ。ボクはふとカノンのスリーサイズを思い出しただけだよ?」
「言わないでよ⁉ 絶対に言わないでよ⁉」
「ん? それはフリかい? ならご期待に応えて、上から7————」
「フリじゃないってぇぇえぇぇぇええ! やめて! 助けて!」
何故命乞いをしているのだろうか。
とりあえず頭を抱えて苦しむカノンは置いておいて、俺はミアへと視線を送る。
「挑発に乗らせる前提でライン際に立ってたのか……やるな」
「ふふっ。ゲームが速く終わってもつまらないからね。君もせいぜいボクの残機を減らせるように頑張っておくれよ」
「言うじゃねぇか。最終的には吠え面かかせてやるからな」
ともかくカノンが挑発に弱くて助かった。
後は玲とミアがまだ残機を二つ残しているわけだが――――それを減らすには、俺だけの力じゃどうにも突破口が見えてこない。
「りんたろー! ここは協力してあげてもいいけど⁉ ていうかしなさい! あいつらを野放しにしちゃ駄目だわ!」
「丁度同じ提案をしようと思ってたところだ。頼むぜ、カノン」
「そっちこそいいトスを頼むわね!」
そう、一人で駄目なら、協力プレイだ。
俺たちは残機が一つしかない同士。ここで下手に争えば、睨めっこからの共倒れだってあり得る。
まずは玲とミアの残機を俺たちと同じにしなければならない。そうすることで、勝負はある意味振り出しだ。
「協力プレイって、アリ?」
「あたしがアリって言ったらアリなのよ!」
あまりの暴論と共に、カノンの手からボールが離れる。
向かう先は、同盟相手である俺のところ。
トスの上げやすい絶好の高さと速さだ。これならこっちからもいいところに返せる。
「行け! カノン!」
さっきのミアの動きを参考にしたトスを上げる。
初めての割には、我ながらいいところに飛んだ。
「でかしたわ!」
砂を蹴って跳び上がったカノンは、さっきと同じように大きく体を反らして反動をつける。
彼女の体が向いている先にいるのは、ミアだ。
どうやら自分の胸のサイズをバラされそうになったのが尾を引いているらしい。
しかし、彼女はすぐにはスパイクを打たなかった。
「————悪いわね、りんたろー」
そう口にすると共に、カノンは空中で体を捻る。
「結局あたしが罰ゲームにならなきゃいいのよ!」
そしてしなりを効かせた腕で、
驚異的な跳躍力と体の柔らかさが生んだあり得ない姿勢からの強烈な一撃は、初見ではまず受けきれないだろう。
ただし、心構えができていれば話は別だ。
「
俺は最初から裏切られる前提でトスを上げていた。どう考えてもあと一度のミスで負ける俺を狙った方が効率がいいのだから、そもそも協力するメリットなどないのだ。
いくら彼女のスパイクの威力が高かろうが、さすがに正しい姿勢から放たれたものよりは見劣りする。来ることさえ分かっていれば、俺でも返せるはずだ。
「はぁ⁉ 何よそれ⁉」
「裏切り者には死を――――くらえ!」
腕の芯でスパイクを捉える。このまま真っ直ぐ弾けば、カノンの足元に着弾するはずだ。
ただ、そう上手くもいかないわけで。
「ぐっ……」
さっきのスパイクよりも威力が低いはずなのに、俺の体は衝撃を殺しきれなかった。
おかしな方向に弾かれてしまったボールは、強い回転がかかったままあらぬ方向へと飛んでいく。
その方向は、奇しくも玲とミアの丁度間の辺りだった。
「「私(ボク)が――――」」
あまりにもとっさのことで、二人とも同時に声を上げてしまう。
その結果両者の足が止まり、地面すれすれまで迫っていたボールはそのまま誰に邪魔されることもなく砂浜へと落ちた。
「……これって」
「あ……間に落ちたから、二人とも残機一つずつ消費! でかしたわりんたろー! これぞ協力プレイの賜物ね!」
「裏切った癖に」
「な、何のことかしら?」
ジト目で睨んでみれば、カノンはそっぽを向いて下手くそな口笛を吹き始める。
まあ許してやろう。結果的に一番厄介な二人の残機を減らせたのだから。
「んー、これはやられたね。あのタイミングはどっちが打つか判断できなかったよ」
「悔しい……」
ここからは誰が失敗しても敗者が決まってゲームが終わる。
玲もカノンもミスする可能性を考えて迂闊に強いスパイクは打てないだろう。
俺の方針は変わらない。
徹底的に防御して、三人のミスを待つ。
罰ゲームなんぞ受けてたまるかってんだ……!
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