11. 命がけのスニークミッション
◇◆◆◇
「こちら、フェアリー
「バレバレなコードネームじゃね? プリンス了解」
卓上にいるミューンが索敵をしている。僕はそのテーブル直下にて隠密中。や、遠くで会話する手段ないし。
現在我々は、潜入任務遂行中である。
手のひらサイズの妖精を視線代わりにして目標地点まで潜入しなければならない。非公式の極秘任務だ。誰にも見られず、知られずに失敗は許されない。恐らくは歴代王家全員が最も利用したであろう隠し通路を伝って最短で進めたが、今日は催し物のせいで目的の部屋は人が多く出入りしており、今は様子を伺う為に死角にて身を潜めていた。ミューンの報告で行けるかと思われたが、また人の気配を感じたので体を引っ込め、今度は僕も覗き見る。
両手で大きな鉄製の蓋をされた物を抱えた者が数名、部屋へと入っていくのを観察出来た。抱えていた物が今回の
「つまみ食いをする者共が現れるかもしれん。忙しいが各自警戒を厳とせよ」
「ハッ!」
そして、また料理の仕込みに戻るべく、規律よく駆け足で隣の厨房へ戻っていく。軍隊かよ。敬礼をしそうなんだけど。
とりあえず周りに誰も居なくなった今が好機だ。扉は備え付けられてないので、素早く、羽虫のように誰にも気に留まらないまま中へと辿り着くのだ。あ、調理場で虫は無視出来んわ。
バレるのは嫌なので隠密に極振りをしたいと思いましたみたいな、我ながら見事なしゃがみ走りをかまし部屋に潜入を果たす。ふう、今日は中々の
部屋には先ほど持ち込まれた鉄……正確にはそうじゃないらしい、いわゆるピューターの大型皿に同じ材質の蓋をした物が幾つもの卓上に置かれていた。
複数のテーブルに並べられて他にも寸胴鍋や、サラダが盛られているのか布巾を被せた木製器等も見える。壁回りには食器棚や調理で扱う物を収納している箱が置いてあったり、隅には椅子が重ねて積まれていた。
僕たちが入ってきたのとは違う別の方に繋がる出入口も奥に見える。
あっちの方は城の大広間へと繋がっていて準備で忙しいのか張り上げる声がここまで聞こえてくる。人の往来がある為、そちらからは潜入を諦めたのだ。そして僕たちが入ってきた方は厨房へと繋がっている。
此処は調理場にとっての多目的利用出来る部屋みたいな感じかな。
普段は備品や素材置き場、スタッフの休息場等に使われており、今日みたいな催しで、料理を大勢の人に振舞う為に沢山仕込まねばならない場合、熱い料理やメインディッシュはともかく、付け合わせや前菜、冷めてても問題ないものなど予め作っておかないと到底間に合わない。そういった品々をここに一時保管している。後は
そんな感じで見事に並べられた料理が入っているピューター皿は、さながらダンジョンで隠し部屋を見つけて宝箱が複数有った時のよう。ここは絶好のおつまみ部屋。ここはつまみ食いの楽園なのであーる。
ここで手掴みで食べるのは衛生上と世間のコンプラが厳しいので、貴族らしく
「さて、お宅の晩御飯を突撃しますか」
「自分ちだよね」
はやくっはやくっとマイスポーフを掲げながらミューンが催促してくる。どっから出したんだよ。よしでは仕切り直していきましょう。トレジャーオープン! 僕は料理を保存している半円型の蓋を外した。
「おおー、これはミノ牛ロースト」
「ミノ牛」
……ひょっとしてミノタウロスか? まあ確かに牛っぽい人型だけど。即座に料理を言い当てる妖精は置いといて続けて他の蓋を開けていく。
「
「ねえなんでそんな詳しいの?」
「月刊妖精だよりでビビッとネ」
ツッコミどころ満載なんだけど。
豚ちゃんてオークのことか? ミノちゃんといい、もはや魔物が家畜扱いである。お城ダンジョンでウチの騎士達が戦利品で肉ブロックをよく持ち帰ってくるが、すっげー手強いはずなんだけどなあ。
後、僕が知る限り、ミューンが本を読んでるのを見たことがない。たまーにアホっぽい表情を空に向けて停止してたので、それを可哀想な子みたいに思ってたんだが、まさかそれで怪しい波動を介して妖精同士で交流してんの? 王族も知らない情報を持ってるの怖いんだけど。今度それで帝国内部情報リークしない? いやコイツアホだから逆にリークされそうじゃね? 何匹繁殖してるか分からないけど妖精全部がアホでありますように、と願いつつ自分とミューンの分も皿に盛り付けていく。
ビュッフェ用の大皿に多く盛り付けされた料理だから少しづつ取っても判らないだろう。
取った部分をトングで直したりして誤魔化す。そうやって全部蓋を再度閉じた後、テーブルクロスが床近くまで掛かって死角になりそうな場所を陣取り、隠れるように座って二人して早速料理をつまむ。我が国が誇る王宮料理長が
冒険者を引退した料理長は、元々この街で料亭をしていたのを父さんがお忍びで馳走になった時、旨さに感嘆し王宮料理人として招聘されたそうな。料理長となっても魔物料理の味の追求は止まらず、それは日々王族が食す料理や今日のような夜会で振舞われることによって称賛へ取って代わるに違いない。僕達の前にある垂涎たらしむるお宝が盛られた皿。
これはまさに、モンスター料理の集大成やー!(やー!)
いつバレるやも知れない、ハラハラとした背徳感を抱きながら食べると味覚も影響を受けるのか何時もより美味しく感じる。
これがドラゴンが襲ってきて、見ず知らずの男女が抱き合いながら回避するとドキドキ勘違いで恋に墜ちる”ドラゴンダイブ現象”という物語の定番みたいなものなのか? や、恋をしたことないのでわからんけど、恐怖心の方が強くならないかな?
「それよりグリムオールを追わなくていいの? もぐもぐ」
「追ってるから此処に居るのだよ」
「ほーん。つまみ食いしたいだけかと思ったわ。もぐもぐ」
「それは否定しない。つかミューン、食い過ぎだかんね?」
「しないのかーい。もぐもぐ。これは毒味なのよー。従者様は見ていた、みたいなことにならないために。もぐもぐ」
「既に一緒に食べてるし、現場を見ていたなら止めるか、即報告しろよな」
コイツ、人形サイズなのにヒトの大人並に食べるんだぜ。食べた後は体丸くなってるし、妖精の生態系が謎過ぎる。神は何故、妖精に
それからグリムオールの件は忘れてない。いくらペンダントがあるとはいえ、闇雲に追っても透過で逃げられてしまうし、此処に来るまでに悪戯をしたと思われる喧騒が聞こえたがどうやらヤツも姿を見せないようにしているっぽい。探し回ればそれだけ僕の姿が目撃される。もしかしたら自分に悪戯の疑惑が持たれるかも知れない。まあ冤罪だと信じてくれると思うけどね。思うけどね?
だったら如何にも現れそうな地点に一点張りを狙ったほうが良い。
隣の厨房は大勢の料理人が今も存分に腕を振るっているので入り込める隙がない。外も往来があって上手く悪戯が出来ないかもしれない。内も外も忙しい最中に生まれたこの静寂の場。悪戯し放題の舞台という賭けに、つまみ食いを上乗せすれば、一発大逆転大勝利間違いないのだ。
(アル兄さんは賭け事で大抵、悪因悪果になるんだから止めときーよ)
昔、妹はジト目で忠言してきたが失礼な。この前シャスとの遊戯に覚えたての
こうやって張り込みしながら、
そんな時、不意に首に掛けていたペンダントに光が灯った。
初めはぼんやり円いままだったが段々と線の如く細く伸びる一筋の光に変わっていき壁の方へと指し示すと、ほとんど間を置かずに、青白い丸まったモノが浮き出るように、壁なんて無かったかのようにすり抜けてきた。
そう、
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