第434話 釣り落とした魚は大きい
サンタ服の試着を終えた
これ以上は特に用事もないと言うので、それなら帰宅しようかと話し合っていると、広場の辺りに差し掛かったところで、彼は見覚えのある顔を見つけ手足を止める。
「あれ、
「……あ、お兄さん」
彼女は
何やら悲しそうな顔をしていると思って近づいてみると、足元に落ちているのが割れてしまった水風船……いや、ヨーヨーであることに気が付く。
ちょうど尖った石の上にでも落としてしまったのだろう。唯斗とこまるは無言のまま目を合わせると、その元ヨーヨーの欠片を拾い集めた。
「お、お兄さん……?」
「今日、お兄さんは一緒?」
「……ひとりです」
「そっか。じゃあ、今日も僕が代わりになってあげるよ」
「そんな、迷惑に……」
「ならないから大丈夫。だよね、こまる」
「こども、面倒、見る。お姉さん、役目」
鈴乃とほとんど変わらない背丈で胸を張るこまるお姉さんが何とも可愛らしいが、了解も取れたということで当初の予定を変更することに。
2人は彼女を近くのゴミ箱まで連れていくと、その手のひらにヨーヨーだったものをそっと乗せて目線の高さを合わせた。
「割れちゃったものは元に戻らないからね」
「バイバイ、必要」
「新しいのを手に入れる前に、お別れをしよっか」
「……わかりました」
こくりと小さく頷いた鈴乃は、「ばいばい」と小声で呟いてから全ての欠片を丁寧にゴミ箱へと落としていく。
それが終わると、今にも涙が零れそうな潤んだ瞳を拭いながら、こちらへと顔を向けてにっこりと微笑んでくれた。
「すみません、鈴乃……その、みっともなくて……」
「みっともないなんて小学生が使う言葉じゃないよ」
「大丈夫、こまるたち、ついてる」
相手が誰なのか、こまるは知らないだろう。それでも熱心に不安を取り除こうとしてくれているのは、彼女の優しさゆえだろうか。
そんな光景に少し胸が温まるのを感じた唯斗は、鈴乃の頭を撫でながらヨーヨー釣りの屋台を探した。
「ヨーヨーが割れた時、急に一人でいることが悲しくなったんです。お兄ちゃんと一緒に来た時のことを思い出してしまって……」
「甘えたい年頃だから仕方ないよ」
「お姉さん、甘えて、いいよ」
「お姉さん、ですか?」
「どう見ても、お姉さん。ちがう?」
「……そ、そうですね。お姉さんです」
優しさと言うより、鈴乃の『え、同い年じゃないの?』という気持ちを感じ取った瞬間に溢れた威圧感で涙が引っ込んだ気もするが、とりあえず泣き止んでくれたのなら良かった。
サンタ&トナカイの服も見栄を張って自分の軍資金から支払ったため、財布の中身はツンドラ地方状態だが、ヨーヨー釣りをするくらいの金額は残っている。
こまるに抱きしめられている鈴乃を眺めながらそっと財布の中身を確認した彼は、心の中でホッとため息をこぼしつつ2人を出店の方へと連れていく。
「へい、らっしゃい!」
「1回お願いします」
「じゃ、200円ね!」
店主のおじさんに200円を渡し、代わりに鈴乃が先端に釣り針の付いた紙製のこよりを受け取る。
彼女はそれを割れてしまったのと同じ水色のヨーヨーを狙って垂らすと、深呼吸をしてからそっと引き上げた。しかし。
「……あっ」
完全に持ち上がるまでにこよりがプツッと切れてしまい、水色の玉は再び水の中へと戻ってしまう。
それを見つめたまま固まる鈴乃の後ろ姿に、唯斗は最後の200円を差し出すことしか出来なかった。
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