第433話 反射的に出る言葉の6割は本音
「じゃーん」
店の奥に消えてしまってからどれくらいが経っただろう。ロートーンな効果音を口にしながら現れたこまるに、
それも仕方ないことだと思う。だって、彼女の今の服装は決してオシャレでは無いものの、クリスマスの訪れを感じさせてくれる可愛らしいものだったから。
「トナカイ?」
「いえす」
「いいね、似合ってるよ」
「よかった」
全身茶色くてモコモコしたトナカイの衣装に身を包み、すっぽりと被ったフードには2本のツノまでついている。
これを見てわしゃわしゃと愛でたくならない男がいるだろうか。いや、居ない。
少なくとも唯斗はそんな衝動に駆られた。何とか理性がブレーキをかけてくれたおかげで、角をツンツンと触るまでに留まったけれど。
「もしかして、
「そう。サイズ、測って、作って、くれた」
「莉子さん、器用なんですね」
「そんなことないわ。こんなん、今時の中学生ならみんな出来る程度やし」
「もしそうなら、今時の中学生が恐ろしいですよ」
「ははは! それもそうやな!」
ケタケタと笑う莉子さんの姿は、やはりこまるにそっくりだが同時に全く似ていない。
マコさんとも似ていない辺り、やはり声を聞かなければ見分けられない気がする。
某アメリカに行くクイズ番組の双子クイズに出てきても、きっと騙し通せるレベルだろうから。
「唯斗の、ある」
「僕の分まで? でも、サイズなんて教えてないと思うけど」
「大丈夫、確認した」
「確認って、まさか……?」
親指を立てるこまるに、彼はふと数日前に洗面所で見かけた光景を思い出した。
今日も洗濯を手伝ってくれているのかと特に気にはしなかったが、今思えばやけにコソコソしていた気もする。
もしかするとあの時、こっそり服のサイズを確認していたのではないだろうか。まあ、聞かれても隠す理由なんてないから、真実がどうであれ結果は同じだっただろうけど。
サプライズにしたかったこまるの気持ちを考えれば、間違った行動はしていないと自分を納得させられた。
「ちなみに、どんな服なの?」
「おばさん」
「はいはい、唯斗くんのはこれやね」
「サンタクロースですか、付け髭まで」
「トナカイ、サンタ、いつも、一緒」
「確かによく出来た衣装だけど、まさかこれを着てイヴに出かけるつもりじゃないよね?」
「……イヤ?」
「嫌というか、自分のキャラじゃないからさ」
「こまる、一緒。だから、平気」
「赤信号みんなで渡れば怖くないみたいに言われても、赤信号渡ってたらみんな
「せっかく、作って、もらった……」
「そんな顔されても困るなぁ」
家の中だけというのならいくらでも着るし、髭だって付ける。ただ、ここ数年の唯斗はクリスマスにカップルで出歩く人を見るのが嫌いだった。
どうしても彼らの姿を、自分と
自ら傷つきたいという願望を持つ人で無い限り、わざわざまだ癒えていないような古傷を抉ることは苦でしかないだろう。
彼自身も例に漏れず、古傷はそっとしておきたいと思ってしまうタイプだったのだ。
「唯斗、似合う、絶対」
「ありがとう。だけど……」
「何なら、首輪、付ける?」
「それはいいよ。本物ならともかく、こまるに首輪なんて罪悪感しか生まれないし」
「そう? こまる、唯斗に、飼われる、嫌じゃない」
「僕は嫌だよ。ペットの立場が下ってわけじゃないけど、人間をペットにするのはどうしてそういうイメージがあるから」
「……そっか」
こまるが少し落ち込んだように視線を落とした瞬間、莉子さんが手に持っていた何かをそっと背中に隠した気がした。
おそらく、OKが出た時のために用意していた首輪かなにかなのだろう。
無駄になるのは申し訳ないが、友人とは対等な立場でいたい彼からすれば、了承する訳には行かないことだと言うことを分かって頂きたい。
「じゃあ、サンタの服はちゃんと着るよ。その代わり首輪は無しね」
「わかった」
粘っていた割にはやけに聞き分けのいいところを見るに、こまるの場合はあえて難題である首輪を出すことで、本来の目的であるコスプレを許してもらう作戦だったのかもしれない。
ただ、真実は探りようがないし、この程度の騙されなら可愛らしいと思えるので、唯斗も追求はせずに大人しくサンタの服を受け取るのであった。
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