第425話 特別な日、特別な意味

 お仕置きと称したグルグルを終え、トランプは飽きたからと一緒に猫の動画を見ていると、部屋にやってきた天音あまねがゲームのお誘いにやってきた。


「さっきまで師匠たちの友達とオンライン対戦してたんだけど、用事があるからって抜けちゃった」

「友達?」

「ほら、かっこいい人とユルい人」

「ああ、瑞希みずき風花ふうかのことか」


 かっこいいで瑞希はともかく、ユルいで風花だと分かってしまうのは本人に失礼な気もするが、間違いでは無いのでそのまま流しておく。

 それにしても、2人がゲームをしてくれるような仲たとは知らなかった。今度会ったら、お礼を言っておこう。


「用事ってなんだろ」

「ケーキがどうとか、飾り付けがどうとか言ってた」

「ということは、クリスマスパーティーの準備だろうね。今からだと忙しくなりそうだけど」

「お兄ちゃんは行かないの?」

「こまると過ごすって約束したからね」

「え、夕奈ゆうな師匠は?」

「パーティーに行くんじゃないかな」

「師匠の気持ちを知りながらそんな……酷い!」

「そんなこと言われたって、夕奈からは誘われてないし。別にクリスマスじゃなくても一緒にはいれるでしょ」


 彼の言葉に天音はやれやれと首を横に振ると、「我が兄ながら、世間とズレすぎだよ」とため息をこぼした。


「じゃあ、お兄ちゃんはハルちゃんさんともクリスマスを過ごさなかったんだ?」

「……なかなか痛いところを突くね」

「ウキウキで1週間前から服の用意とかしてた記憶があるなー?」

「天音、お兄ちゃんは心を改めます。クリスマスは大事な日であると」

「わかってくれればいいのだよ。で、夕奈師匠と過ごすんだよね?」

「それは無い。こまるとの約束は破れないし」

「くっ……ごめんね、夕奈師匠。弟子は役目を果たせなかったよ……」


 悔しそうに床を叩いた彼女は、「あとは師匠の努力次第かな」とケロッとした顔で部屋を出ていく。

 我が妹ながら薄情と言うか、割り切っていると言うか。ただ、これ以上粘られてもどうしようもないことなので、唯斗からすれば諦めてくれて助かったところではある。


「こまるも行こうか」

「……うん」

「どうかした?」

「唯斗、私を、選んだ。嬉しい」

「約束は約束だからね」

「それだけ?」

「どういうこと?」

「……ううん、なんでもない」


 こまるは小さく首を横に振ると、彼の横を通って1階へと降りていった。

 絶対に何でも無くはない目だったことは気になるが、落ち着いて考えてみれば予想は出来たので、問い詰めるようなことはしない。

 答えも自分から伝える必要は無いだろう。きっと、疑問に疑問で返した時点で『夕奈よりこまるを選んだ』という可能性は否定されているだろうから。


「悪いことしちゃったかな」

「お兄ちゃん、早く来ないと始めちゃうよ!」


 後でそれとなく謝罪を伝えるか……いや、プリンでも買ってあげた方がいいかもしれない。

 金欠のお財布には安物でも痛手だが、無意識に傷付けたことに比べれば、その程度かすり傷だろう。

 唯斗は自分にそう言い聞かせるように心の中で呟くと、「はいはい、すぐ行くよ」と声をかけてから部屋を出るのだった。


「ふふふ、カノちゃん師匠には勝てないけど、この2人なら勝つる!」

「大乱争?」

「そうだよ! マルちゃん師匠、やったことない?」

「数回だけ。夕奈に、付き合わされた」

「夕奈師匠とじゃ、天音の足元にも及ばないね!」

「……なんか、燃える」

「ふっ、本気でかかってきてもいいよ」


 自信満々な天音がその後、「ハンデとして強キャラ教えたげる!」と言いつつ、操作がいちばん難しいキャラを教えたところで、強制的に兄ストップがかかったことは言うまでもない。

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