隣の席の美少女が何故か憐れむような目でこちらを見ているけど、僕には関係がないのでとりあえず寝る ―――ひとりが好きなぼっちだっているんですよ?―――
第404話 成長とは新品のスニーカーを履き古して汚していくようなものである
第404話 成長とは新品のスニーカーを履き古して汚していくようなものである
正直、
兄として、『背、伸びたね』だなんてことを言いながら、しみじみと背中を流してあげよう。
そんな少し先の未来を想像しながら、「準備できたらしいわよ」と母親から告げられ、軽い足取りで脱衣所へと向かった。そして。
「
浴室用のプラスチックのイスに腰を下ろしている
どうして夕奈がここに? いや、天音がそんな酷い嘘をつくはずがない。ということはこれは突然成長した天音? それにしてはアホ面だ。
脳内を駆け巡るそんな考えでフリーズしていると、急ぎ足で脱衣所の扉を開けて入ってきた天音が「お兄ちゃん、早すぎるよ!」と文句を口にする。
「天音、何してたの?」
「おトイレだよ。行きたくなっちゃって」
「居なかった理由は納得出来た。けど、どうして夕奈がいるのかな?」
「どうしてだろうね?」
「……夕奈がいるなんて聞いてない」
「いないとも言ってないよね♪」
我が妹ながらずる賢い。というより、更に夕奈に似てきた気がした。
どうせ師匠に似るなら、
そうは思うものの、圧倒的に夕奈といる時間の方が長いので、こればかりは仕方の無いことなのだろう。
天音自身も夕奈に懐いているし。子供っぽいところはあれど、いい遊び相手兼お姉さんの役割を果たしてくれているから今更引き離せない。
しかし、いくら向こうが先回りして卑怯な手を使おうとも、唯斗にも切り札があった。『逃げ』だ。
「夕奈がいるなら入らない」
「天音、お兄ちゃんと師匠と3人で入りたいの……」
「……わかったよ、今日だけね」
「やった、お兄ちゃん大好き♪」
切り札、一瞬にして破れる。
どれだけ心を冷酷にしようとしても、妹の悲しそうな上目遣いには勝てない。
結局、可愛いは正義でそれを拒絶する者は悪。それこそ世の理なのだ。唯斗はこの数分の間にそれを痛感した。
「じゃあ、先中に入ってて。お兄ちゃんでも脱ぐところは見られたくないから」
「そうだね」
いくら小学生と言えど、5年生にもなれば羞恥心なども人並みに感じるものなのだろう。
唯斗はある意味での成長を噛み締めつつ、後ろ手に扉を閉めて待ち続けていた夕奈に歩み寄る。
そして「やってくれたね」と呟くと、「まあ、天音ちゃんの提案だけどね」と言う言葉に短いため息を零した。
「まあまあ、お泊まりの思い出ってことで!」
「別に今更いいけどさ。せっかく天音と2人でお風呂に入れると思ったのに……」
「どうせお兄ちゃんらしいことをしてあげようなんて思ってたんでしょ」
「……なんで知ってるの」
「夕奈ちゃんにはお見通しなのだよ」
ありもしないメガネをドヤ顔でクイッとやる夕奈に、41度のお湯をぶっかけてやろうかなんて思っていると、「お待たせ!」と天音が入ってくる。
「2人とも、もうどこまで済ませた? あえて着替え中は2人きりにしてあげたんだから、何かあったはずだよね!」
「いや、何も起きてないけど」
「なんだって?! お兄ちゃん、それでも男?」
「天音、誰から聞いたかは知らないけど、男がみんな女の子とお風呂に入ったら何かすると思ったら大間違いだよ」
「学校の男の子たちはするって言ってたもん!」
「よし、今からそいつらを殴りに行こう」
「ちょ、唯斗君?!」
可愛い妹に変な話をした奴に生きる価値はない。そんな怒りの炎を燃やしながら浴室を出ようとする唯斗を、夕奈が慌てて引き止める。
その際に思いっきりお尻を掴まれたが、今はそんなことを気にしている余裕はない。純粋無垢な妹がもう戻らない悲しみに暮れているから。
「別に直接言われたわけじゃないよ? 偶然聞いちゃっただけだから!」
「それでも許せない」
「そもそも、今時の小学生は高学年になればみんなそういうこと知ってるもん。男の子たちに言われなくてもね」
「じゃあ、天音も前から……?」
「……もう、女の子にそういうこと言わせないで」
「あ、ごめん」
確かに小学5年生にもなれば、そういうことを知っていたり興味を持っていてもおかしくはない。
偶然聞いただけなら、男の子たちを責める権利もないだろうし、唯斗はこれも成長だと思うことにしてこの話題は終わりにするのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます