第366話 朝イチの来客には気を付けよう
「唯斗くん、おはよう♪」
「……」
「あれ、立ったまま寝ちゃったのかな?」
「いえ、起きてますけど……」
「じゃあ、お姉さんは無視されてたってことなのね。しくしく」
「違いますよ。ここにいるはずのない人がいることに驚いてただけです」
「それもそうだよね、失敬失敬」
リビングの人影の正体である
「陽葵さん、
「いえいえ、とんでもないです」
「もう、謙遜しなくていいの。唯斗、こんなべっぴんさんと知り合いなんて泣いて喜ぶことよ?」
「お母様ったら、褒められすぎるとお茶もまともに飲めないですよ〜♪」
「あらやだ、おばさんの悪い癖が出ちゃったわね」
今お茶を出したということは、おそらく家に上がってそう長い時間が経ったわけではないのだろう。
それなのにここまで仲良くなっているというのは、我が母親が取っ付きやすい人間なのか、それとも陽葵さんのコミュ力故なのか……。
ぼっちの唯斗にはその辺の判断は付けられないので、脳みそがショートする前に思考回路を断ち切って視点を現状に引き戻した。
「ところで、何か用があって来たんですよね?」
「そう生き急ぐんじゃない。とりあえず座ってお茶でも飲みたまえよ」
「いや、それ陽葵さんが口付けたやつですよね」
「そういうこと気にしちゃうんだ?」
「そりゃ、相手は彼氏がいる女性ですから」
「安心して、今回はまだ続いてるよ」
「聞いてませんけど、とりあえず良かったですね」
唯斗からの祝福の言葉で満足してくれたのか、陽葵さんは差し出していたコップを机の上に置くと、「目的についてなんだけど……」と話し始める。
「この前、夕奈ちゃんの看病に来てくれたよね?」
「行きましたね」
「その時にお姉さんとした約束って覚えてるかな」
「……ああ、巨乳のお姉さんと温水プールに行く機会をプレゼント的なやつですか」
「そうそう。ちょうど予定もないし、唯斗くんの都合さえ良ければ今日行こうかと思ってるの」
「それは律儀にどうもって感じですけど、結局巨乳お姉さんって陽葵さんのことなんですよね?」
「なるほど、私では物足りないと」
「そういう意味じゃないです。彼氏持ちの女性と2人でプールに行くのは気が引けると言うか……」
唯斗がそう言うと、彼女は「大丈夫大丈夫、彼氏にも了承貰ったから」と親指を立てて見せた。
確かにOKが出ているなら少しは安心して出かけられるが、正直なところ陽葵さんと2人というのは少し心配でもある。
異性としての魅力だとか、何か問題に巻き込まれるのではないかとかそういう意味ではなく……単純に2人きりで最後まで楽しめるかが不安なのだ。
「というか、そもそも2人きりじゃないからね」
「……ん?」
「もちろん夕奈ちゃんも連れていくよ? 私たちだけで行っても何も生まれないし」
「いや、夕奈がいても何も生まれませんよ」
「赤ちゃんが産まれるかもしれないでしょうが!」
「いや、何を期待してるんですか……」
何やらよからぬ事を考えているらしい陽葵さんを引いた目で見つつ、やっぱりお出かけは遠慮しようと適当な断り文句を頭の中で検索する。
しかし、既に3人分の入場チケットを予約してしまったと聞かされ、渋々行くことにするしか無くなるのだった。
「帰ったら夕奈に勉強させてくださいよ」
「唯斗くんも夕奈ちゃんと一緒に保健体育のお勉強をしてね♪」
「だから何を期待してるんですか……」
「私の弟なら分かるはず!」
「勝手に人の未来を決めないでください」
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