第303話 結局ド〇クエの中で一番魅力的な技ってあれなんだよね

「私、先生の隠し事知ってるもんねー!」


 夕奈ゆうながそう言った瞬間、先生の眉毛がピクリと動いた。それと同時に唯斗ゆいとの視線が突き刺すように細められる。

 だって、彼女の言うところの隠し事とは、今朝教えられたことは秘密にすると約束したはずの『先生の妹』に関することだろうから。


「私の隠し事ですか。一体どれのことでしょう。Fカップだと言っていますが、実はGカップなことですか?」

「それは知りませんけど……というか、私の前でそれ言います?」

「あっ。そう言えば、佐々木ささきさんは胸のことで私のところまで相談に――――――――」

「しーっ! それは秘密って約束じゃないですか!」

「私の秘密を握っているようなので。目には目を、秘密には秘密を、ですよ♪」


 そう言ってウィンクする先生を不満そうに見つめた夕奈は、「まあ、別に気にしてませんけど!」といいつつ地面に落ちていた缶を蹴り飛ばした。

 それは勢いよく飛んでいくと、置かれていたゴミ箱の角で跳ね返って彼女の脳天へ直撃する。


「いてて……」

「大丈夫ですか?」

「ぐぬぬ……サイコキネシスか、やりおる!」

「いえ、私は何もしていませんが……」

「とにかく、私が秘密を握っている以上は先生も逆らえないんです! 指導もなしにしてください!」

「私から楽しみを取り上げるんですか?」

「人を苦しませてまで楽しみたいんか!」

「男子生徒はとても喜んでくれるんですけどね」

「ふっ、陰キャと一緒にしないで欲しいZE✩」


 先程までどう見ても顔を赤くしてドキドキしていた人間の言葉ではないなと思いながら、先生は「なるほど、彼らは陰キャなのですね」と頷いた。

 そして様子を見守っていた瑞希みずきたちの方へと近付いてくると、その中から唯斗を引っ張り出して連行する。


小田原おだわら君は佐々木さんの言う陰キャの部類だと思いますが、彼も喜んでくれるということですよね?」

「……ほぇ?」

「では、小田原君を使って証明してみましょう」

「いや、僕が許しませんよ?」

「どうしてですか、先生の何が不満なんです?」

「不満は無いですけど、何となく嫌です」

「先生はこんなにも真っ直ぐに気持ちを伝えているというのに……」

「僕にはものすごく曲がりくねって見えますけど」


 唯斗の言葉に先生は「あと数年経てば魅力が分かりますよ」と言うと、突然見せつけるような仕草で胸元のボタンを外し始めた。

 嫌な予感を覚えた彼が逃げ出そうとするも、腕を掴まれて先程の夕奈と同じように壁に押し付けられてしまう。


「安心してください。これは保健体育の課外授業、愛情表現の仕方についてですから」

「どちらにも愛はありませんけどね」

「担任として小田原君を大事に思っていますよ?」

「それはどうも。でも、本当に大事ならこんな風に巻き込まないと思いますよ」

「仕方のないことじゃありませんか。私は今、『秘密をバラすぞ』と脅されているのですから」


 先生に「協力してください、秘密をバラした人」と耳元で囁かれると、唯斗も確かに自分にも非があったなとあっさり抵抗を諦めた。

 そもそも、彼女の目的は夕奈に秘密を秘密のままにしておかせることであり、自分にあれこれしようというものでは無い。

 夕奈さえ折れてくれれば発破はっぱをかけるだけで済むのだから、大人しくしている方が断然消費カロリーが少なくて済むのだ。


「では佐々木さん、好きな方を選んでください。秘密を心の内に留めておくか、それとも小田原君がぱふぱふされて保健体育の課外授業を終えるのか」

「なっ?! ぱふぱふ……だと……?」

「そうです。選ばれし者しか出来ないと言われる、あの選ばれしぱふぱふです」

「そんなことされたら唯斗君が落ちるだけじゃなく、全国のぱふぱふが出来ない女子たちが精神的ダメージを負ってしまうじゃないか!」

「ふふふ、選ばれし者でないのなら滅びればいいんです。貧爆戦争に終止符を打つ時が来ました」

「くっ、ぱふぱふ大魔王の思い通りにはさせない!」

「ならば抗ってください。抗えるなら、ですが♪」


 2人がそんなよく分からない世界観の話をする中、先生の谷間を目の前にしている唯斗が、『一体何を聞かされているんだろう』と思ったことは言うまでもない。


「唯斗、こっち」


 話がヒートアップしてきた頃、谷間を眺めながら小学生の時に行った鳥取砂丘を思い出していると、クイッと服を引っ張られた。

 目を向けてみれば、いつの間にか先生の意識から抜け出していたこまるではないか。


「今のうち、交代」


 彼女は先生の気が逸れている内にと彼を引っ張り出すと、代わりに連れてきた花音かのんをその位置に立たせて満足げに頷く。


「これ、大丈夫なの?」

「いける。多分」

「多分で花音入れるのは心配なんだけど」

「私、お役に立てるように頑張ります!」

「……そっか。期待してるね」


 一体何を頑張るのかすら分からなかったものの、キラキラした表情で「任せてください!」と言う彼女を見てしまえば、何も言わずに瑞希たちの所へ戻る他なかった。

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