第289話 応えられる無茶振りは無茶なのだろうか

 店を出て瑞希みずきたちの並んでいるという店に向かう途中、夕奈ゆうなが「何か話してよ」と無茶振りしてきた。


「そういうの得意じゃないんだけど」

「うん、知ってる」

「性格悪いね」

「なんでもいいからさ」

「なんでもいいなら自分で出しなよ」

「たまには唯斗ゆいと君から欲しいやん?」

「はぁ、わかったよ」


 こまるも景色を眺めながら歩いているし、どうせなら静かなまま移動しようと思っていたが、無視しても夕奈はきっとしつこく頼んでくるだろう。

 彼は心の中でため息をつくと、実際にもため息をつきながら話題になりそうなものを頭から引っ張り出した。


「そう言えば、あの3人ってモテるの?」

「瑞希たちのこと?」

「うん」

「夕奈ちゃんの方がモテるかな!」

「それは聞いてないし聞きたくもない」

「嫉妬しちゃうから?」

「こんな見た目だけの人間に騙される男子たちがたくさんいるという現実に絶望するから」

「そこまで言う?!」


 夕奈は「これでも4年に1人の美少女なのに……」と文句を言いつつ、仕返しのつもりか唯斗の頬を掴んで引っ張ってくる。


「……痛い」

「私の心の痛みよりかはマシたい!」

「どうして急に博多弁なの」

「博多女子って可愛いって言うじゃん?」

「言葉だけで可愛くなれるならみんな博多に住むよ」

「夕奈ちゃん移住しちゃおっかな」

「ほんと? 引越し祝い送るね」

「嬉しそうにすな」


 ツッコミと同時にぺしんと叩かれた衝撃で思い出した4年に1人の美少女というワードに、心の中で『橋本○奈の250分の1の確率だ』なんて思った唯斗。

 彼が叩かれた場所を撫でていると、夕奈は「まあいいや」と満足したように両手を払いながら先程の質問に答えてくれた。


「瑞希と風花ふうかは影で何人かに告白されたって聞いたかな。可愛いし背も高いからモテるんだろうね」

「花音は?」

「カノちゃんは2人ほど多くないけど、何回かは告白されてたね。でも、未だに彼氏いない歴イコール年齢」

「夕奈もでしょ」

「唯斗君だって…………いえ、なんでもないれふ」

「自分で気付いてくれてよかったよ」


 唯斗はもちろん彼女がいたことがあるが、あの1回をカウントして良いのかが自分でも分からないのだ。終わり方があまりにも残酷すぎたから。


「あれ? よく考えたら、告白されたのに彼氏出来たことないって矛盾してない?」

「カノちゃんの性格知ってるっしょ。男の子と対等に話すなんて無理で、自分を彼女にしたら相手の株が下がるって思い込んでるの」

「ネガティブ過ぎて断ってるってこと?」

「そゆこと。みんな説得したんだけど、あの子は私たちがいれば彼氏はいらないって」

「呆れるほどいい子だね」

「幸せにしたいんよ、あの笑顔は」

「結婚したら?」

「それは瑞希に任せる」

「あのふたりなら本当にしそうだけど」

「祝うっしょ♪」

「祝わない理由がないね」


 いつか同性婚が許される時代になったら、婚姻届を持って2人のところに向かおう。

 そんな未来の光景を思い浮かべていると、夕奈が「ちなみに……」と3本の指を立てながら顔を覗き込んできた。


「瑞希たちが密かに何て呼ばれてるか知ってる?」

「密かなら知るわけないよ」

「夕奈ちゃんは知っちゃったんだなー♪」

「へぇ、こまるは知ってる?」

「知らない」

「マルちゃんの二つ名もあるけど教えだけよっか」

「いらぬ」

「そうだよね、知りたいよ――――――って、え?」

「僕も知らなくていいや」

「ちょいちょい、そこは聞く流れじゃん!」


 彼女は唯斗たちの前に立ちはだかると、両手を広げて「聞きたいよね!」とキラキラした笑顔を見せてくる。

 どうやら聞かない限り、この先へ進ませるつもりは無いらしい。瑞希たちから『もうすぐだ』という連絡も来てるし、急ぎたいところなのだが……。


「わかった、聞くよ」

「旦那ならそう言うと思いやした♪」

「もはや言わされたんだけど」

「唯斗、諦め」

「そうだね、諦めよう。相手は夕奈だし」

「どういう意味やおら」


 あと数分もすれば入店できるらしいので、唯斗とこまるは歩きながら二つ名とやらを聞くことにした。

 どうせ心が中学生な男子高校生が考えたものだろうから、聞くに値しないだろうけど。


「ふふふ、まず風花はね――――――――」

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