隣の席の美少女が何故か憐れむような目でこちらを見ているけど、僕には関係がないのでとりあえず寝る ―――ひとりが好きなぼっちだっているんですよ?―――
第282話 人間として完璧であることは、完全無欠とイコールではない
第282話 人間として完璧であることは、完全無欠とイコールではない
「あ、
「……おはよ」
「なんだい、元気がないねぇ。ほれ、完璧美少女JKでも見て元気出しな?」
「分かった、そうする」
気だるそうに朝食の席に腰を下ろした唯斗は、そう言いながら
彼女は納豆をかき混ぜていた手を止めると、何度か背後を確認してから「わ、私か?」と首を傾げた。
「完璧と言えば瑞希かなって」
「そ、そんなことないぞ? この前だって一番くじに3000円注ぎ込んじまったし……」
「たまの楽しみくらい必要だよ。その点、
「なっ?! その話は関係ないでしょうが!」
「夕奈は完璧でもJKでもないってこと」
「完璧はともかく美少女JKではあるしぃ!」
「精神年齢が10歳低いよ」
「むっ、失礼な!」
「確かに。ごめんね、7歳児のみんな」
「そっちちゃうわ!」
ツッコミと同時にペシッと背中を叩かれた唯斗は、地味に痛む箇所を擦りながら未だに気だるそうな顔で箸を手に持つ。
修学旅行、しかも今日は自由行動の日。そんな日の男子高校生のものとは思えない表情に、夕奈は心配になって「大丈夫?」と覗き込んだ。
「夜寝れなかった?」
「いや、寝れたよ」
「ならどうしてそんな元気ないのさ」
「目覚めが悪かったんだよ、とてつもなくね」
それは今から30分ほど前のこと。普段より早めの時間に鳴った目覚まし時計に少し不機嫌になりながら、唯斗はベッドの上で目を覚ました。
そして着替えて朝食を食べに行く準備をしようと、ベッドから降りるべく体を右向きに転がした瞬間。
「……ん?」
柔らかい壁にムニュッと顔をぶつけた。寝ぼけた頭では何が起きたのか分からず、1分ほど壁とにらめっこしていると、上から声が飛んでくる。
「おはようございます、
一体誰なのかと顔を上げてみれば、先生がにっこりと微笑みながらベッドに横たわっているではないか。
その光景を認識して、唯斗はようやく壁だと思っていたものが先生の体であることを理解した。
つまり、ずっと顔を埋めていたのは彼女の『女性』を主張する部分だったわけで。
「目が覚めると美人なお姉さんが目の前にいる。最近の男子高校生はこういうシチュエーションが好きなんですよね?」
「はい、大好きです。でも、出来れば20代前半の方がお姉さん感があるので――――――――」
「何か文句がありますか?」
「……いえ、なんでもないです」
「ふふふ、初めから素直でいればいいんですよ♪」
「――――それから5分間くらい解放してくれなかったから、目覚めが悪かったんだ」
「いや、3:7で唯斗君が悪いよね?」
「先生、ああ見えてもう三十路だからね。さすがにお姉さんと呼ぶのは違和感があるよ」
「女性に年齢のことでとやかく言うのは良くない! ていうか、何朝からラノベ主人公みたいなことしてくれちゃってんの?」
「別に僕が誰と何しようと関係ないじゃん」
「先生と禁断の関係なんてだめだよ!」
「本音は?」
「どうせなら夕奈ちゃんが代わりにやりたい!」
欲望を包み隠そうともしない彼女に「本当に壁だとしか思わないかもね」と言ったら、「明日の朝迎えに行ってやるかんな」と犯行宣言された。
とりあえず、男子エリアに侵入したとなれば夕奈の身が危険なので、「先生に教えとくね」と脅して未然に防いでおく。
「あ、あの担任にだけは……」
「怒ったら怖いもんね。秘密にして欲しい?」
「お願いするざんす」
「なら、夕奈の分のプリンくれたら考える」
「デザートを寄越せと?! この外道め……」
「言われてもいいんだ?」
「こちらが約束のブツであります!」
余程先生のことを恐れているのか、ペコペコしながらプリンを差し出してくれる彼女。
それによって無事に取引成立したはいいものの、あまりに羨ましそうに見つめてきたため、唯斗は仕方なく最後の一口だけを分けてあげるのだった。
「うんめぇ!」
「はいはい、よかったね」
一口でこんなに喜んでるなら、全部食べてたらおかしくなってしまったんじゃないだろうか。
唯斗は取り上げて正解だったなと思いながら、空になったカップを重ねてトレーの上に置いた。
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