第223話 夜と強面の組み合わせは恐怖でしかない

 その後も王様ゲームを何周か続け、暫しの団欒だんらんの後に食器を洗って片付けた頃。


 ピンポーン♪


 12時を過ぎてすぐにインターホンが鳴った。

 こんな時間に誰かと確認してみた唯斗ゆいとは、思わずその場で固まってしまう。映っていたのが怖そうな人だったから。


「……あ、よく見たらひろしさんだ」


 暗いせいで見えづらかったが、画面を明るくするボタンを押してみれば見覚えのある顔がうっすらと見えた。

 インターホンの画角の下の方に何か跳ねているものが見えると覗き込んでみれば、そちらはこまるのお母さんであるマコさん。

 そうと分かれば居留守を使う必要も無いというか、いることは確実にバレているので足早に玄関へ向かって鍵を開けた。


「こんばんは」

「唯斗君、久しぶりだね♪」

「えっと……お久しぶりです」


 目が会った瞬間に飛びついてくるマコさん。相変わらずこまるにそっくりなのに中身は正反対だなんて思いつつ、じっと睨んでくる寛さんを横目で見ながら彼女をそっと引き離した。


「マルちゃんったら、最近唯斗くんのことばかり話すんだよ? だからパパも不機嫌なの」

「……別に不機嫌ではない」

「大の大人が娘の好きな人に嫉妬なんてみっともないよ、ドンと構えておかないとね?」

「だがしかし……」

「言い訳は『めっ!』だよ! パパだって、唯斗くんになら任せられるって言ってたのに」

「それはそうだが……」


 娘が離れて言ってしまうのは、父親としてすごく悲しいことなのだろう。

 唯斗も天音あまねが離れてしまうことを想像すると悲しくなるし、きっとそれと似た気持ちなのだ。


「寛さん、今が大事なんですよね」

「唯斗君も分かるのか?」

「幸せを願うなら引き止められませんし、だからこそ今という時間の大切さを感じます」

「……やはり娘の相手は君しかいないな」

「いや、それは気が早いと言うか……」

「嫌だって? こまるのどこが不満なんだ!」


 娘のこととなると言葉に力が篭もってしまう寛さんは、マコさんに「パパ、めっ!」と怒られるとしゅんとして後ろに下がってくれる。


「ところで、何をしに来たんですか?」

「みんなを家まで届けるの!」

「あれ、泊まるんじゃないんですか?」

「それは唯斗くんたちだけだよ♪」

「……どうして僕が泊まることを?」


 彼女は『しまった!』という表情をすると、慌てて誤魔化すように「みんな帰るよ〜♪」とリビングの方へと入っていった。

 それから数十秒して、仮装姿のまま出てきた瑞希みずき風花ふうか花音かのんが靴を履き始める。

 確実に何か知っているであろう落ち着きの夕奈とこまるはその後ろ姿を見つめ、何も知らないらしい晴香はるかは首を傾げていた。


「じゃあ、いい夜を過ごせよ」

「お先に失礼するね〜♪」

「Tシャツは洗って返しますね!」


 それぞれ一言ずつ残してから、寛さん&マコさんに連れられて車に乗り込み、見送りも待たずにそのまま行ってしまう。


「マコさんたちが来たのに、こまるは残るんだね」

「唯斗、残った。私も残る」

「もしかして何か企んでる?」

「……たかいたかい」

「こまる、本当に好きだね」


 そのために残ったなんて言われれば、してあげないわけにはいかない。

 唯斗はとりあえず彼女の体を数回持ち上げた後、「続きはまた後でね」と伝えてリビングへと戻った。


「私も残ってよかったんですか……?」

「ハルちゃんがいいなら大丈夫だよ」

「パジャマを持ってきていないのですが……」

「それくらい夕奈が貸してくれるよ」


 直後に「いや、勝手に決めないで?!」という言葉が飛んできたが、結局は大人しく貸してくれる。

 ただ、こまるサイズのパジャマはないらしく、かなり大きめのものを貸すことになってしまい、彼女は無言の苛立ちを積もらせていたのだが。


「ダボダボな感じって嫌いじゃないよ」

「ほんと?」

「可愛いと思う」

「……なら許す」


 夕奈だって優しさで貸しているだけで、身長のことを言うために貸しているわけではない。

 こまるがコンプレックスを刺激される気持ちも分からなくはないが、これで怒られるのはさすがに理不尽だからね。


「これで貸し1つ分ね」

「なぬっ?!」

「僕だって善意で助けてるんだから」

「ぐぬぬ……」


 まあ、ただ助けるだけだと気を遣わせて余計なことをしでかしかねないから、貸しとしてカウントすることにはしておいたけど。

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