第64話 JKはナメるな危険
「ファイアー〇ルネード!」
「ドラゴン〇ラッシュ!!」
「ゴット〇レイク!!!」
「メテ〇シャワー!!!!」
14本目のサーブが放たれ、ナンパ男は「それはドリブル技だろうが!」と言うツッコミを入れながら砂の上に倒れた。
着地した夕奈は「ふぅ」と一息つくと、パンパンと手についた砂を払って得点板に目をやる。
「14対0、マッチポイントだねー?」
そう言いながらニヤリと笑う彼女に、ナンパ男たちは思わず後ずさりした。
自分たちはこんなにも疲れ果てていると言うのに、目の前の女子高生たちは呼吸すら乱れていないのだから。
「私なんてまだ一歩も動いてないんだぞ? 男ならもう少し踏ん張れ」
「っ……せめて1点くらい……」
「あ? 15点取るつもりで来いよ」
しかし、誰の目から見ても彼らの敗北は必至。観客も
「いくよ!」
夕奈はそう言うと、一本目の時と変わらない美しいフォームでサーブを放った。そして、そのボールは見事ラインぎりぎりの位置に落ちる。
これで彼女らの勝利、この場にいる誰もがそう思ったであろう。しかし、男たちは認めなかった。
「アウトだ、アウト!どう見てもそうだろ!」
唯斗も夕奈たちも見逃さなかった。片方の男がガヤガヤと騒いで観客の視線を集めている間に、もう一方の男がコートの少し外側にボールの跡をつけていたのを。
男は何事も無かっかのように立ち上がると、「これが証拠だ!」とまさに今つけたばかりの跡を指差して言う。
「お前、それは――――――――」
「夕奈ちゃん、最後にドジっちったー!」
「……夕奈?」
夕奈は怒ろうとする瑞希を止め、いつもと変わらない笑みを浮かべながら後ろ頭をかいた。
「次で決めるよ、次で!」
「ふっ、物分りが良くて助かるぜ」
「まあ、君たちが
こっそりと「こいつ、もしかして馬鹿なのか?」と囁き合う男達に「がるるる!」と威嚇した夕奈は、始めてコート内でボールを受ける準備をする。
「おらよっと!」
男によって放たれたサーブは勢いよく夕奈の足元に飛んできて、彼女はそれを転びそうになりながら高くレシーブ。
「夕奈、任せた!」
それを両手で作った三角で受け止め、的確にネット前へと飛ばす瑞希。
慌てて立ち上がった夕奈は、思いっきりジャンプして指先にボール触れさせると、上から思いっきり叩きつけるように力を加えた。しかし……。
「あっ……」
力をかける角度が悪かったのかボールは少し右に逸れ、着地したのはコートラインよりも少し外側。
それを確認したナンパ男たちは、「アウトだ、アウト!」と砂の上についたボールの跡を指差しながら騒ぎ立てる。
「あちゃー!夕奈ちゃん、ミスっちゃったかな?」
彼女はヘラヘラと笑いながら、チラッと審判である
その行為一つだけで、
「着地地点、見せてもらえる〜?」
「これだ、明らかにアウトだろ」
審判席から飛び降りた風花は、男が指差す場所を覗き込んで首を傾げる。
そしてあろうことか、彼女は足でそこに砂をかけると、わざとらしくキョロキョロと周りを見回してにんまりと微笑んだ。
「え〜、跡なんて見えないけど〜?」
「ちょ、おい!」
「こっちじゃないかな〜?」
「それはさっきのボールの跡だろ!」
「ん〜?さっきっていつのことかな〜?」
「……あっ」
風花が示したのは、『本当はインだったサーブによってついた跡』。そして先程消したのは偶然か必然か、『男が偽装した跡に重なっている、直前にアウトになったボールの跡』。
この跡の存在を認めている時点で、彼自身も先程のサーブはインでしたと言っているのも同然なのだ。
夕奈があえて反抗しなかったのは、このタイミングで嘘を認めさせるためだったんだね。赤点保持者の割に賢い作戦だよ。
「選ばせてあげるよ、どっちのインを認めるのか。今のスパイクか、さっきのサーブか」
ニヤニヤと笑いながら男に近付く夕奈。してやられたことが余程悔しかったのか、男は彼女に向かって掴みかかろうとする。しかし……。
「審判に逆らったら退場、そう警告したよね〜?」
風花が背後から蹴りを入れてよろけさせ、サッと身をかがめた夕奈が足を引っ掛けて男を転ばせた。
もう一方の男も飛びかかってきたものの、瑞希が連続で放った寸止めパンチに怯えて腰を抜かしてしまう。
「拳で争う気は無いって言ったよー?」
「既に勝負は決着しただろうが」
「今さら変わらないよね〜」
3人の女子高生に冷たい目で見下ろされ、周囲の観客からも冷ややかな声をかけられる男たち。
これでトドメとばかりに夕奈は、「報酬の命令権だけど……」と悪魔的なほほ笑みを浮かべながら舌なめずりをした。
「二度と嫌がってる子にナンパをしないこと。それと私たちの視界に二度と入らないで」
「「は、はいぃぃぃぃ!」」
「さっさとどっか行ってよ、私たちの夏休みが台無しになるじゃん!」
「「す、すみませんでしたー!」」
ようやく自分たちではどうにもならないと分かったのだろう。ナンパ男たちは何度も謝りながら、観客をかき分けてどこかへ走り去って行った。
「これでビーチの平和は保たれた、的な〜?」
「
「いいことすると気持ちがいいねー!」
思いっきり伸びをする夕奈に駆け寄り、「ありがとうです!」と抱きつく花音。
「よし、次の相手は唯斗君とマルちゃんね!」
「……殺す気なの?」
「……むしろコ〇す」
その後、こまるに水着という防御障壁を狙われて社会的に殺されかけていた夕奈は、しばらくビーチにいた少年少女たちにビーチバレーの特訓をしてあげていたそうな。
「ふふん♪ 弟子が増えてしまったようだね!」
「弟子、私だけじゃないの?」
「あ、天音ちゃん?! な、泣かないで!」
「じゃあ、ポテト奢ってくれる?」
「奢る奢る!めっちゃ奢るから!」
「……ふふ、騙される方が悪いんだよ♪」
まあ、天音との関係を見た大半の子供にナメられてたけどね。さすが夕奈師匠、見た目と運動神経以外小学生レベルなだけあるよ。
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