第38話 早朝にかかってくる電話は出るといいことがない

 終業式の翌日。ゆっくり寝ようと思っていた唯斗は、早朝に電話の着信音で起こされた。

 どうやらRINEの着信のようで、見知らぬアカウントからだ。無視しようとも思ったが、しつこく電話してくるせいで眠れず、仕方なく電話に出ることに。


『ようやく出てくれました!』

「……誰?」

花音かのんです!』

「キャノン? 大砲を頼んだ覚えはないけど……」

『か・の・ん・です!』


 『小学生の時のあだ名を掘り返さないでくださいよぉ……』という言葉を聞いて、唯斗はようやく意識がはっきりとしてきた。


「ああ、花音ね。ごめん、寝ぼけてた」

『朝早いですからね。仕方ないです!』


 そう言われて時計を見てみるとまだ朝の5時。外も薄暗いくらいで、普通起きる理由なんてないはずなんだけど……。


「そもそも、どうして花音が僕の――――――――」

『今日は夕奈ちゃんが山に行く日です! 一緒にお見送りしましょう!』

「あれ、やっぱりスピーカーしかついてない?」


 第二の歩く騒音機モードを発動した彼女は、『すぐに着替えてください!』だとか『間に合わなくなりますよ!』だとか言ってくるが、唯斗はとりあえず適当に返事をして通話を切った。

 そして気持ちのいい二度寝をしようとした矢先、コンコンと言う音が鼓膜を震わす。

 音の発生源はドア……じゃない。窓だ。


「……」


 風で窓が揺れただけだろう。そう思い直して、起こした体をもう一度ベッドへ沈め込む。が、またすぐにコンコンと窓を叩かれた。

 しかし、鍵さえかかっていれば何人たりとも入ることは出来ない。唯斗はそんな安心感とともに眠りに落ちようとして―――――――――。


「3、2、1……」


 聞こえてきたカウントダウンに何かの危険を感じ、慌てて窓を開けた。

 視界に写ったのは制服姿の花音。どうやらベランダから降りようとしていたらしく、振り返りながら「おはようございます!」なんて呑気に挨拶をしてきた。


「ここ、2階だけど。どうやって上がったの?」

「投げてもらいました!」


 そう言いながら彼女の指す下を覗いてみると、制服姿の3人が立っているのが見える。女子の力で人を2階まで飛ばすとは、さすがのコンビネーションだ。

 先程のカウントダウンは、飛び降りた花音を受け止めるものだったらしく、窓を割ろうとしているのかと思ってしまった唯斗は、まだ寝ぼけているらしい頭を軽く叩いた。


「……行かなきゃダメ?」

「ダメです!」

「行きたくないんだけど」

「無理矢理連れて行きます!」

「随分と積極的だね」

「えへへ♪ それほどでもです♪」

「……褒めてないよ」


 唯斗が小さくため息をつくと、下にいる瑞希みずきが「残念だな」と呟いた。


「帰りにアイスでも奢ってやろうかと思ってたんだが。嫌なら無理にとは――――――――」

「すぐに準備するよ」

「おう、待ってるぞ」


 そういうわけで、アイス……じゃなくて夕奈のために見送りに行くことにした。天音のためのテイクアウトもできるのかな? チョコもあるといいな。

 唯斗はそんなことを思いながら、制服に着替えること5分。玄関を開けて外に出たところで瑞希に洗面所まで連れ戻され、丁寧に寝癖を直されること10分。

 説得時間も合わせて約30分ほどかかり、ようやく一行は山行きバスの出発場所である学校へ向けて歩き出したのである。


「夕奈、喜ぶだろうな」

「泣くかもね〜♪」

「それな」


 朝焼けが屋根から顔を出し始めた通学路。唯斗は少し前を歩く3人と隣の花音を順番に眺めた後、呟くように言葉を零したのだった。


「みんな、いつでもこのテンションなんだね」

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