第32話 妹は来客に厳しい

「第二の我が家だー!」

「僕の家だけど」


 唯斗ゆいとが玄関を開けて中に入ると、その後に続いて夕奈ゆうなもやたら楽しそうに入ってくる。

 もう3度目ということもあってかなり堂々としているように見えるが、トイレのドアを開けながら「あれ、洗面所改装した?」と聞いてくるあたり、記憶力は相変わらず残念なようだ。


天音あまねちゃん、こんちゃ!」

「師匠だぁ!」


 リビングにいた天音は、夕奈が入ってくると興奮気味に駆け寄ってきて再会のハグをする。

 唯斗はその光景を見ながら、「お兄ちゃんには?」と聞いてみるが、「それはいいかな」とあっさり断られてしまった。


「ふふん♪さすが夕奈ちゃん、女児の心を鷲掴みやで!」

「お前ウザイよ」

「どこの忍者や!」


 ドヤ顔を見せつけてくる夕奈を軽くあしらってリビングに入ると、コップにお茶を注いで運ぶ。

 2並べて机に置いてから、唯斗はドアの向こうでオドオドしている人物に向けて手招きした。


花音かのんもおいで」

「ひゃい!お、お邪魔します!」


 彼女はトコトコと歩いてくると、おそるおそるソファに腰かける。緊張しているのか、背もたれに背中をつけようとはしない。

 この前は自分から乗り込んでくるということをされただけに、唯斗からすれば少し意外だった。今回は誘われて来たからなのだろうか。


「どちら様?」

「天音、花音だよ。夕奈の友達」

「ふむふむ、兄がいつもお世話になってます」

「い、いえいえ!私こそお世話になってますぅ……」


 無邪気にじゃれついていた姿から一転して、丁寧に頭を下げる天音の姿に、花音も一度立ち上がってお辞儀をする。

 唯斗は買い物に出かけている母さんに心の中で『あなたの教育は間違っていませんでした』と報告しつつ、花音の隣に腰掛けた。

 それを見た夕奈は、少し不満そうな顔をしたものの、大人しくお茶の置いてある前に腰掛け、それにくっつくように天音も腰を下ろす。


「ところで、カノちゃんさんはどうして我が家へ?」

「さ、誘われたのでせっかくならと。迷惑でしたか……?」


 申し訳なさそうにする花音に、天音は「むしろ歓迎だよ!」と笑って見せた。


「でも、一応お兄ちゃんの家なわけだし。カノちゃんさん、もしかしてお兄ちゃんのこと好きなの?」

「ふぇっ?! ち、違いますよ!あ、違うというのは嫌いって意味じゃなくて……その……えっと……」


 一度否定した天音は、唯斗を気遣って別の言い方をしようとするも、逆に混乱してしまって訳が分からない状態に。

 彼女は3分ほどひとりあたふた劇場を上演した後、深呼吸を促されてようやく落ち着きを取り戻してくれる。


「唯斗さんのことは、お友達として大好きです!」

「ふむふむ、カノちゃんさんは妹審査合格!」

「やりました!わーい!」


 ハイタッチをして喜びを分かち合う天音と花音。

 唯斗からすれば、いつの間にそんな審査制度を取り入れたのか聞きたいところだが、合格したのなら深く気にする必要も無い。

 そもそも、何があったら不合格になるのかも分からないし。質問的に兄を好きな人なら落とされるのだろうか。なら、世界で誰一人落とされないけど。


「師匠ってゲームも上手いの?」

「もちのろんよ!夕奈ちゃんに不可能はない!」

「どの口が言うんだか」

「唯斗君?ちょっと黙ってて」

「それ、僕が常日頃思ってることだけど」


 夕奈は「わーわー!何も聞こえませーん!」だとか言って唯斗の声を無視する。耳元でもう一度言ってやろうかと思ったけど、面倒臭いからやめておいた。


「カノちゃんさんは?」

「わ、私はあまり……ゲームにもよりますけど……」


 言われてみれば、唯斗にとって花音のゲームの強さは未知数だ。性格的にもあまり上手そうには見えないが、人は見た目に寄らないと言うからね。

 事実、ゲームばかりしてそうな夕奈があそこまで下手なわけだし。


「じゃあこれにしよ!」


 そう言って天音が取り出したのは、某有名ぶっ飛びアクションゲーム。その名も『大乱争マッシュルームブラザーズ』。

 通称『マシュブラ』と呼ばれているやつだ。前から思ってたけど、語呂が悪すぎるよね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る