第25話 ゲーセンはぼっちにとって墓場

 全員が御手洗を済ませると、一行は次の目的地へと足を運んだ。

 そこは機械音やら金属のぶつかり合う音などが、一日中鳴り止まない場所。唯斗ゆいとの様な人にとっては、もはや魔王城のような領域である。


「ゲーセンなんて久しぶりだな」

「騒がしさがいいよね〜♪」

「わかる」


 慣れているのか、スタスタと中へ入っていく3人。思わず躊躇ちゅうちょしてしまう唯斗と花音かのんの手を、夕奈ゆうなが引っ張って連れていく。


「ひぅっ?! な、なんの音ですか?!」

「コインが落ちる音だよ」

「ひぃぃ……あ、あれは……?」

「ボタンを連打する音かな」

「じ、地獄ですぅ……」


 大きな音が聞こえる度、体をビクッとさせて頭を抱えてしまう花音に、さすがの夕奈も少し手こずっているらしい。

 唯斗が「大きい音は怖いよね」と声をかけたら、「わかってくれるんですか!」とキラキラした目で見られた。

 しかし、やはりゲームセンターの輝きには勝てないようで、「うっ、眩しいです……」と言いながら目元を隠してしまう。


「あ、さっきのサングラス貸してよ」

「いいけど……かけるの?」

「僕じゃなくて花音がね」


 そう言って受け取った百均のサングラスをかけてあげると、花音はキョロキョロと辺りを見回してから、「大丈夫になりました!」と手を叩いて喜んだ。


「夕奈の108円にようやく意味を見い出せたね」

「ま、まあね!これを見越して買ったんだし!」

「本当は?」

「……みんなを笑わせたかった」


 小さくため息をついた夕奈が花音に「それあげる」と言うと、彼女は「プレゼントですね♪」と照れたように笑った。


「何だか強くなった気分です」

「夕奈にパンチしてみて」

「で、出来ないですよ……」

「優しさは強さだね」

「おお! いい言葉です♪」


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「じゃんけーんぽん!」


 夕奈ゆうなの掛け声で、6本の腕が突き出された。これからやるレースゲームが4台しかないということで、観客役の2人を決めるためのジャンケンだ。


「私の負けかー」

「負けましたぁ……」


 負けたのは瑞希みずき花音かのん。2人は後ろからゲーム画面を見ることになる。

 夕奈が「助手席に乗るかい?」なんてカッコつけてたけど、両方に断られて寂しそうにしてたなぁ。

 そもそもマ〇カーの世界に助手席は存在しないけど。


「じゃあ、負けたら観客役の2人にジュースおごりりってことで!」

「公平でいいね〜♪」

「りょ」

「……」


 夕奈の提案に全員が了解したところで、1人100円ずつ投入する。みんなでプレイを選択して4人で通信開始。それが完了すれば、次はキャラ選びだ。


「私はヨッピー一択よ!」

「やっぱり桃姫よね〜♪」

「赤ヒゲ」


 ほか3人はすぐさま決定して、写真まで撮り終えたらしい。慣れていない唯斗には、どのキャラがいいかなんて分からないから無駄に悩んでしまう。

 すると、瑞希が横から「PIOピオがいいんじゃないか?」と教えてくれた。軽量級で加速するのが早いらしく、壁にぶつかりがちな初心者には優しいキャラらしい。


「ありがとう」

「おう、がんばれよ」


 彼女が言うなら間違いないと、すぐにそのキャラを選んで写真をパシャリ。キノコ頭で鼻から上が隠れているけど、そんなことは気にしない。

 あとは言われるがままステージを選択し、レースがスタートした。


「2が表示されたら0.3秒待ってアクセルを踏め、スタートダッシュできるぞ」


 耳元でこっそり教えて貰った知識をもとに、手探りでやってみる。雲に乗った変なやつがカウントを始め、2つ目より気持ち遅めで右側のペダルを踏み込んだ。

 すると、スタートの合図とともにカートが勢いよく前に進み、右下に1位と表示される。


「いいぞ、小田原おだわら

「瑞希、唯斗君に知識吹き込んだなー!」

「そりゃ、初めてのやつが不利じゃ可哀想だろ?」

「ぐぬぬ……ならば私も手加減しないから!」


 夕奈はそう言うと同時にアイテムボックスを手に入れると、出てきた金色の甲羅を前に向かって投げた。

 追尾型のそれは防御アイテムを持たない唯斗に命中し、彼の順位は一気に最下位まで落ちてしまう。


「ふふふ、会員カードを持っていないと使えないアイテムで無双してやるもんねー!」


 性格の歪んだ笑い声を上げる夕奈に、花音が「大人気ないですぅ……」と呟いたのが聞こえた。

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