隣の席の美少女が何故か憐れむような目でこちらを見ているけど、僕には関係がないのでとりあえず寝る ―――ひとりが好きなぼっちだっているんですよ？―――

第18話 善意100％の敵

｢確か、カノって呼ばれてたよね｣

｢は、はい！名前が花音（かのん）なので！｣

　唯斗（ゆいと）の質問に対して、花音は緊張しながらもしっかりと自己紹介してくれた。こういうタイプの人の名前は、唯斗はあまり忘れなかったりする。

｢どうして敬語なの？｣

｢そ、それは……なんででしょう？誰に対してでもこうなので、理由はあまり分かりません｣

｢僕も誰に対してでもこんなだから、ある意味仲間だね｣

｢な、仲間……ですか？確かにそうかもですね！｣

　花音がここで初めて笑顔を見せると、強ばっていた彼女肩からスっと力が抜けた。きっと、初めて会話する相手の様子でも伺っていたのだろう。

｢聞いていた通り、唯斗さんは面白い人ですね！｣

｢聞いていた？｣

｢はい！夕奈（ゆうな）ちゃんから色々と話を聞いていて、いつかお話したいなと思っていたんです！｣

｢そう言って貰えると嬉しいよ。落ち着いた時の花音は夕奈みたいに騒がしくなさそうだし｣

　その言葉にカクッと首を傾げた彼女は、唯斗に少し歩み寄ると抱えていた疑問を口にした。

｢唯斗さんは夕奈ちゃんのこと、あまり良く思ってないんですか？｣

｢だって、隣にいると騒がしいんだもん｣

｢確かにそうですね。でも、私は夕奈ちゃんが大好きですよ？｣

｢それはまた変わった趣味をお持ちで｣

｢べ、別に恋愛対象って意味じゃないですからね?!｣

｢安心して、勘違いしてないから｣

　何やら1人で慌てて1人で弁解する花音に、唯斗は未だ半開きの目で頷いて見せる。

　出来れば早く帰って寝たいという気持ちが感情の半分を閉めていて、話がいまいち頭に入ってこないのだ。

｢私、ひとりぼっちだった時に夕奈ちゃんが仲間に入れてくれたんです。みんな私のことを分かってくれて、いい人たちなんです！｣

｢うんうん、それで？｣

｢だから、夕奈ちゃんのことを嫌わないであげて欲しいです。夕奈ちゃんは唯斗さんのこと、気に入ってるみたいなので……｣

｢多分、それは僕が一人でいるからじゃないかな？｣

　夕奈は唯斗に対して、時々憐れむような目を向けてくる。話しかけてくるのも、きっと1人で可哀想だと思っているからだろう。そう彼は考えていた。

　それを花音に話したところ、彼女は｢じゃあ、私の時もそんな目を……？｣と俯くと、落ち込んだようにその場にしゃがみこんでしまう。

　自分の言葉でこんな反応をされると、なんだか悪いことをしたような気分になっちゃうなぁ……。

｢見たわけじゃないから分からないけど、花音は僕とは違うんじゃないかな？｣

｢ど、どうしてそう思うんですか？｣

｢だって、カノちゃんって言ってたし。親しいと思ってない相手に、あだ名なんて使わないよ｣

｢……確かに！｣

　ぼっちの思考は単純である。

　パリピ(友達がいる人)の思考を知らないが故に、あだ名やボディタッチだけで、仲がいい・気がある証拠だと勘違いするのがぼっちなのだ。

　そして、その域を超えに超えまくったのが唯斗のように、全く興味を示さない選択ぼっちなのである。

｢僕は夕奈の暇つぶしのおもちゃなんだと思うよ。でも、花音はちゃんと友達でしょ？｣

｢はい、友達です！でも、それだと唯斗さんが可哀想です……｣

　落ち込んだ姿から元気を取り戻したものの、今度は唯斗に向けて悲しそうな顔をする花音。

　そんな彼女に対して、唯斗は首を横に振って見せた。

｢僕はひとりが好きだから、気にしなくていいよ｣

｢いえ、そういう訳には行きません！私が唯斗さんも夕奈ちゃんの友達にしてみせます！｣

｢ひとりが好きなぼっちもいるんだよ｣

｢手始めにみんなで遊びにでも……｣

｢あれ、スピーカーしかついてないタイプ？｣

　同類の匂いがすると思った自分が馬鹿だった、と唯斗は後悔した。

　花音は思いついたら真っ直ぐにそこへと向かうタイプ。それは強みである一方、周りが見えなくなるという欠点も含んでいる。

｢帰ろうかな｣

｢なら一緒に帰りましょう！仲良くなる作戦を考えるんです！｣

｢……助けて｣

　歩く騒音機が一台、追加されてしまったのかもしれない。