第6話 危険な匂いのする四角い箱
「あのー、
「……なに?」
今日は快晴、机くんも温もりを目一杯に蓄え、唯斗の睡眠をお膳立てしてくれている。そんな心地よい日の朝、
眠たそうに顔を上げた唯斗は、開ききらない目で彼女を見る。先日のカイロの件があって以降、唯斗が夕奈を無視することはあまり無くなった。
スーパーパリピ、されどカイロをくれるくらいの優しさを持ち合わせていることがわかった今なら、それほど関わりを断とうとする必要も無いだろうという考えだ。
もちろん、危険だと判断すれば睡眠モードに入って自己防衛をする準備は出来ているが。
「飴玉のお礼って言うか、作りすぎたって言うか。とにかく作ってきたんだけどさ、いる?」
「……お弁当?」
差し出されたのは四角い弁当箱。彼女が目を合わせようとしないのを見て、唯斗は何か怪しいなと思った。
しかし、わざわざくれるというものを断るのも失礼になる。事情くらいは聞いておこうかな。
「すごいね、型にはめて作ったの?」
「そうそう、いい石油見つけたからプラスチックに加工して……って違うわ!作ったのは中身!箱の方じゃないから!」
何だ、違うのか。ということは中に何か入れたらしいけど……やっぱり目を合わせてくれない。いつもはしつこいくらい見てくるだけに、明らかに何かを隠している気がする。
唯斗は心の中でそう推理すると、小さく頷いてから首を横に振った。
「いらない。自分で持ってきてるから」
「……え?普通断る?! ていうか、このイベント断る人いたんだ……」
「食べたら倒れたりしそうだからね」
「あ、もしかして、私が料理下手だと思ってるのかな?こんな見た目だから勘違いしちゃうよねーうんうん」
夕奈は一人で何かに頷くと、「食べればわかるから!」と無理矢理弁当箱を机に置いてくる。しかし、唯斗もここで引き下がるわけにはいかない。
受け取ったら最後、食べて毒で死ぬか、開けた瞬間に爆弾で吹き飛ぶかの二択……バッドエンドにしか繋がらないだろうから。
しかし、あちらも持ち前の強引さを存分に発揮し、どれだけ首を横に振っても「大丈夫だから、ね?」と攻撃の手を緩めてはくれなかった。
こうなったら最後の手段を使うしかないらしい。
「分かった。じゃあ、そっちの弁当をくれる?」
「……こっち?」
唯斗は一度弁当箱を受け取ると、彼女の机の横にかかっている別の弁当箱を指差した。おそらく、あちらは夕奈自身がお昼に食すためのもの。
つまり、中身は絶対に安全なはずだ。
「それ、唯斗君のために作ってきたのに……」
「あれ、作りすぎたからじゃなかったっけ?」
「あー、別にそっちでもいいかなぁ!どーぞどーぞ!」
夕奈は突然独り言を言い始めると、唯斗に安全な方の弁当箱を押し付けてきた。しかし、やはりこれでは不公平な気もする。
唯斗はお詫びとして、危ない弁当箱と自分が元々持って来ていた弁当箱も合わせて彼女に渡した。
「え、いいの?」
「珍しく僕が作ったやつだから、危ないものは入ってないよ」
「ゆ、唯斗君が作った……手作り……?」
「まあ、そういうことになるかな」
「うへへ……はっ?! ま、まあ、余っても困るからね。私が食べておいてあげる」
「そんなに食べたら太りそうだね」
「っ……大丈夫、その分運動すれば……」
「もうすぐテスト前だから、時間もなくなるよ」
その言葉に表情を無にした夕奈は、「大丈夫、徹夜でやれば平均点くらいは……」とブツブツ呟いていたが、唯斗の「まあ、僕は勉強しなくてもいけるけど」という一言で額を机に思いっきりぶつけた。
「神様は不公平だぁぁぁぁ!」
「そういうことしてるから見捨てられるんだよ」
「私は何も悪いことをしていないよ!清く正しく生きてるよ!」
「制服を着崩す、髪を染める、授業中に携帯を触る。校則違反は悪いことじゃないんだね」
「ぐぬぬ……」
「あっ、危険物を持ってくるのもやめた方がいいよ」
「誰の弁当が
……中身は爆弾じゃなくてブラックホールだったのか。いや、ダークマターという名の爆弾なのかな。
まあ、どんな爆弾も巻き込まれれば
「とにかく、勉強は頑張った方がいいよ」
「そこまで言うなら、唯斗君が手伝ってくれてもいいんだけど」
「自分のことで手一杯」
「さっきやらなくても大丈夫とか言ってたやないかい」
さすがはスーパーパリピだね。何とか断り続けようと思ったけど、最終的には頷かされてしまったよ。
「じゃあ、駅前のシュークリーム2個で買収!」
「買われた」
「よしっ!」
捨てる神あれば拾う神ありって言うし、たまには神になってみるのも悪くない。
唯斗はシュークリームに思いを馳せながら、「これで赤点回避ー♪」と喜んでいる夕奈を眺めていた。
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