【短編】亡命少女

雪華シオン❄️🌸

第1話 問い続けます。


「あ、あの。あなたの母国はどんな国ですか?」


 星空の下、砂煙が舞う乾燥した大地。

 南の国と北の国をつなぐ緩やかな坂道で少女は問う。


「どうも何も、クソな国だよ。せっかく北の国に行こうって時に変な質問するなよ」


「あわわ。ご、ごめんなさい。……そうですよね」


 少女はその人たちの答えを聞いて、残念そうに坂道へと視線を戻した。

 ザァザザと通信機が鳴って、少女は慌てて通信機に耳を当てる。


「あ、あの、もう直ぐ時間です。合図があり次第、走ってください」


 そう言う少女を亡命者たちは不安そうに見詰めていた。

 本当にこの天然でドジそうな娘で大丈夫なのか、という視線が少女に向けられる。

 けれど、少女はその視線に気が付いていながら悲しそうに聞きたいことだけを聞く。


「最後に、――この国は良い国ですか?」


「はぁ?  悪い国だから亡命するんだろう。それより、本当に大丈夫なんだろうな?」


「です、よね……。みなさんが迷わず走れば大丈夫ですよ」


 少女がそう言った後、すぐに合図はやってきた。

 亡命者たちが一斉に坂道を走り出す。

 真っ直ぐ。

 夢や希望を追い求めて。

 幸せな生活を手にするために。――――懸命に足を前へと動かす。

 少女はそんな光景を見ながらメモを取り出した。

 亡命者の数とその人たちの言葉を書き込んでいく。


「眩しいな……知らないから、きっと隣の国を見てしまうんですよね」


 少女は亡命者たちの背中に自分を重ねながら。――――静かに目を閉じた。

 あの時、この坂道を通ってきた時の。

 夢や希望を今も持っているのだろうか。

 あんなに真っ直ぐ愚直に希望に走っていく姿を、昔の自分はしていたのだろうか。


 坂道の先は、より険しい坂道で。


 メモに書き込まれるのは、ただ面白くもない残酷な現実だと知りながら。


 少女は今日もお金を貰って、


「あなたの母国はどんな国ですか?」


 せめて意味があることを祈って。

 今はもうない夢に縋りたい気持ちを隠して。

 淡々と仕事をこなすのであった。

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【短編】亡命少女 雪華シオン❄️🌸 @hosiuminagi1234

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