手摘奈帆の場合

「他にも雨宮君が疑っているのは、やっぱり手摘奈帆てづみなほさんかい?」と小野は優しく訪ねる。


「武蔵野地域にすむ都民の手摘さん《てづみ》は違うと思うんだけど、京極夏彦さんのファンなのは有名だし…」と理子は言葉を切って一番言いにくいことを言いよどむ。


「確かに雨宮さんが話していると煩そうに《うるさそうに》耳を塞いで《ふさいで》いるよなぁ」と小野が言葉を引き継ぐ。


 もともと、手摘奈帆てづみなほ雨宮理子あめみやりこはお下げ髪と二つ結びという以外、身長も眼鏡かけているのもミステリー小説が好きな元文学少女っぽさも似てて、周囲が名前を呼び間違いやすさはあって、理子以上に手摘奈帆てづみなほが、それを嫌がっている。


 たぶん、緊張しやすいのと早口のコンプレックスがあって、話すことに抵抗があるだけで、理子の方が明るく、元気だったりするからかも知らない。


 その分、そそっかしいとか落ち着きのないのが理子の欠点だが、みんなが嫌がる機械の抜きに率先して入ったり、手区分の早さと正確さでは同僚にいいこぶりっ子が嫌われながらも上司の受けがよかったりする。


 それに、手摘奈帆てづみなほさんは偏見は持ちたくないけど、精神に悩みを抱えていて、突発的な休みが多かったり、一人で仕事するために、使うケースで、自分の周囲に盾を作ったり、本人の辛さは他人にはわからないけど、一般雇用じゃなくって、「配慮」という恩恵を受けられる障害者枠で、働けばいいんじゃないかなと心ない課長代理はよく言っている。


 本当に、理子の場合、内向的なのか外向的なのかわからなかったり、本音より建前で自己発信し、行動するから自分でも本当にしたいことなどはわかってない。


 ともかく、小野さんにパソコンのエクセルの使い方を教えてもらい、新人さん向けに区分の表を作成してたり、そういうところが上司はともかく、先輩は面白くなくて、本当に恨まれているのは他にもいそうなのである。

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