三匹の子豚転生! ~三男な俺はレンガの家で無双する~

たろいも

むかしむかし、あるところに豚の三兄弟がおりました

 手に二本のヒヅメ、間違いなく偶蹄目!! つまり、これは手じゃなくて前足だな……。


「いい加減、自立しなさい。もううちにはごく潰しニートを養う余裕はないわ」

 俺がとーとつに前世の記憶を取り戻し、ヒヅメに絶望していたところへ、追い討ちのように母?の声が届いた。

 どうやら家を追い出されるらしい。"ごく潰し"ってひどくね? その上、ルビに"ニート"って……。


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「めんどい、ワラで家作ればいいや……」

 こいつは長男。名前? 豚だし名前は無いよ。分かりづらいから兄1でいいか。

「いや、ワラはさすがにナイぜ、ブラザー。せめて木の枝使うんだ」

 この痛い奴は次男。こいつは兄2な。

 そして、俺は三男。豚の三兄弟か……。これ、俺はレンガで家つくらないとヤバイやつじゃね?


「でも、俺たち豚だしぃ」

 兄1が身も蓋もないことを言う。それを言ってはあかんやろ。

「……そうだな、ワラでいいか」

 兄2も同調すな。

「むしろワラに直寝でいいんじゃね?」

 そりゃ豚だしな……。だが、俺は狼に食われるのはゴメンだ! 俺はレンガで家を作るっ!



 そして、なぜかレンガはあった。どうしてかって? 童話だからご都合展開なんだよっ!!


 しかし、


「モノが持てねぇぇぇぇ!!」

 レンガ持てねぇよ!! ヒヅメだよ! 偶蹄目だよ! 物が持てるはずがない!! レンガはあるのに持てないのかよっ!! "ご都合展開"中途半端だよ!! ちゃんと最後まで仕事しろ!! 親指だ、親指をよこせ!



「あ、持てたわ」

 なんだこれ、どうなってんだコレ。なぜかヒヅメに吸い付くわ。ドラ○もんかよ。"ご都合展開"馬鹿にしてごめん。



「何とか建ったな」

 俺の目の前には、平屋一戸建て、リビングダイニングが別の3LDK間取りなレンガの家があった。

 え? 建ててる描写? こつこつ修行する描写とか人気ないでしょ? だから割愛だよ、割愛。


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「オオカミこわい、ワラの寝床吹き飛ばされた」

「それにしても展開速いなっ!!」

 あれよあれよという間に、俺んちに兄二人が転がり込んできた。兄1は本当にワラの寝床で過ごしていたらしい。家ですらないとか……。

「嫁こわい、ちょっと別のスウィートハートにマシンガンピストンしただけなのに」

「嫁居るの!? オオカミじゃねぇのかよ!! ただの不貞じゃねぇか!! 責任とってこい!!」

 兄2、こいつ痛い奴の癖になぜモテるのか。レンガの家持ちな俺のほうが甲斐性あるんじゃねぇのか? あ、いや、豚のメスはちょっとアレかな……。

「リトルブラザー、どうした、ジェラシーか? お前にも俺のマグナムを見せて──」

 俺は無言で股間を蹴り上げた。

「オゥ、シットッ!!」

 うるせぇ。マシンガンなのかマグナムなのかはっきりしろ。


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「ごめんくださーい」

 ついに来たか。

「「はいはーい」」

 兄1兄2がさっさと扉に向かう。

「いきなり開けようとすな! ってか、家主は俺な! 俺が対応するから!!」

 俺は扉ののぞき穴から外を見る。あー、完全にオオカミだわ。二足歩行の違和感が半端ないわー、俺も人のこと言えないけど。

「オオカミを入れるわけにはいかないなっ!!」

 俺の言葉に、外にいるオオカミが一つ、咳払いをした。


「よく言われるんですよー。わたくしー、(株)ボッタウォーターのサギシタと申しますー、本日は健康になるお水についてご紹介に参りましたー」

「ウォーターサーバーの営業かよっ!!」

「み、水で、健康に!?」

「いや、食いつくなよ」

 兄1が色めき立っている。

 外のオオカミは、よく通る声で、更に続けた。

「当社のサーバーを設置いただければー、健康に良い"天然ミネラルアルカリ水素深層マイナスイオンミネラル水"がいつでも、好きなだけ飲めるようになりますー!」

「名前長いな!! あとミネラル2回出てきてる!」

「このー、"天然アルカリ水素深層マイナスイオンミネラル水"はー、毎日のストレスや疲れで体に溜まる老廃物をー、スムーズに排出しー、血流をサラサラにしてくれますー。さらにー、"天然ミネラル水素深層マイナスイオンアルカリ水"だけの特別な効能としてー、常に"プラズママイナスクラスター天然ベクトル波"を放出しておりー、室内の空気環境までー、改善いたしますー」

「水の名前変わってるし! シレっとダブってた"ミネラル"減らしてるし!! 謎の"波"まで出てきたぞ!?」

「またー、当社サーバーにはノズルが2つありましてー、いつでもお湯をご利用いただけますー!」

「いつでも、カップ麺だと!?」

「いや、そこまでは言ってない。俺たち豚なのにカップ麺食うの?」

 兄2の食いつき所が謎だ。


「今なら1か月は無料でご利用いただけますー!」

「1か月!?」

「無料!?」

 兄1兄2がふらふらと扉に近づいていく。

「おいこら、開けようとすな! うちは要りません、帰ってください!!」

「そこをなんとかー!」

「いや、帰れって!!」

 扉越しに10回ほど応酬した後、オオカミは退散していった。



「やれやれ」

「へい、リトルブラザー。俺のカップ麺は──」

「うるせぇ。外に放り出すぞ」


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「ごめんくださーい」

 早い。さっきから10分程度しか経ってないぞ?

「「はいはーい」」

「だから開けようとすな!!」

 兄1兄2を扉の前から蹴り飛ばし、再び扉ののぞき穴から外を見る。やっぱりまたオオカミだよ。

「だからオオカミを入れるわけにはいかないって!」

「あー、よく言われるんですよぉ。わたし、(株)没田設備のマタサギと申しますぅ、本日は無料点検のご案内に参りましたぁ」

 さっきとは微妙に声色を変えてきている。変なところで芸が細かい。

「無料!?」

「点検!?」

「さっきと同じようなところで食いつくな!! ってか、"点検"はそこまで反応するほどのもんでもないだろ!?」

「近くで施工工事中でしてぇ、ご近所のご家庭にシロアリの無料点検を実施しておりますぅ」

「いや、うち見たよね? レンガの家だよ? シロアリが食う所ないよね?」

「併せて、電気・ガス設備の点検も実施できますよぉ」

「電気ガスがあるのかよ!」

 この世界に電気ガスがあるなら引いてるわ!!


「無料なら見るだけ見てもらってもいいんじゃね?」

「そうだぞブラザー、タダより安いものはないってな!!」

「どこ見せるんだよ! 見せるものねぇよ!」

 あとタダは高いんだぞ。


 再び、扉越しに10回ほど応酬した後、オオカミは退散した。



「なんかドッと疲れたな……」

「だからいったんだよー、健康になる水があれば──」

「一回も言ってねぇだろ!」

「空気が悪いぜブラザー。やはり"プラズママイナスクラスターネィチュラルベクトルウェィヴ"を出す"ネィチュラル──」

「途中途中妙に発音良いのがイラつくわ!」


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「おーい、お前たち、開けておくれ」

「なっ! 母さん!?」

「ママァァァァァ!!」

「おい、こら、明らかにオオカミの裏声だよ! てか、お前マザコンかよ!!」

 兄2、まさかのマザコン!? あっけに取られる俺を差し置いて、兄1兄2が豚とは思えない速度で扉に取り付き……、しかし、奴らも多少学習したのか、のぞき穴から外を確認している。

「手が白い! 母さんだ!」

「足も白い! ママだ!」

「いや、それ"七ひきの子ヤギ"だろうが! お前ら豚だろ!!」

 兄2が扉の鍵に手をかける。

「あ、待て──」

 止める間もなく、扉が開かれる。

 マズイ! オオカミに侵入される! "三匹の子豚"なら煙突から入り込むんじゃないのか!? まさかこんな手段で来るとは! どうするっ!!


「"七ひきの子ヤギ"!? ならば!」

 俺は咄嗟に柱時計の中に──

「……、ですよねぇ! 俺豚だし! 子ヤギみたく小さくないですよね!!」

 入れなかった。柱時計小さいって!!


「?」

 扉のきしむ音の後、物音がしなくなった。


 柱時計に飛び込もうとしていた俺は、家の入り口には背を向けた状態だ。その背後から、兄たちの気配がしない。俺はゆっくりと振り返った。


 開かれた扉。そこから2歩ほど家の中に入った所に、オオカミが立っていた。兄二人は居ない。

「あ、兄を、どうした……?」

「……、どうしたと、思うね?」


 オオカミはゆっくりと口角を上げる。え、まさかもう食ったの!? でも豚二匹だよね? オオカミの体格的に無理じゃね? そんな腹膨れてないぞ!?


 ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ


「これが俺のギフト、"gula暴食"の力だ。あらゆるものを捕食し、取り込む……」

 オオカミの右手が、黒いオーラを纏う。

「え、これってそういうノリだったの!?」


 オオカミはにやりと笑みを浮かべ、独り言のようにつぶやく。

「これでacedia怠惰luxuria色欲も取り込んだ。残る"罪"はあと二つ……」

「な、なん、だと……?」

 まさか兄1兄2も能力持ちだったとは……。あー、でもなんかわかるわ、兄1は怠惰だろ? 兄2は色欲だな……。あいつっ! だからあんなにモテたのか!?


「お前の"罪"も寄こせっ!!」

 俺に向かって飛び掛ってくるオオカミ。

「おわ、ちょま、まった、まったぁぁぁぁぁ!!」

 黒いオーラを迸らせた右手を、オオカミは俺に向かって振り下ろす!!


 ──avarithia強欲


 頭の中に声にもならない言葉が浮かぶ。いつの間にか手に吸い付いていた鍋で、オオカミの攻撃を受け止めていた。

「それがお前のギフトか!」

「え、まじで!? 手に吸い付くこれって、そんなご大層な能力だったの!?」

 地味っ!! "七つの大罪"を銘打ってるのに、効果地味っ!!


「ふっ、物を吸い寄せるだけの力か……。その程度で、オレをとめられぶっ!!」

 オオカミは言葉の途中で、俺が吸い寄せた箪笥の下敷きになった。これ、案外使えるかも。

「おぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 箪笥の下から、オオカミが吼える。同時に箪笥が吸い込まれるように消えた。

「捕食か!?」


「ぐっ」

 オオカミはやや苦し気な表情を見せる。"なんでも捕食できる"とはいえ、ノーリスクではないようだ。

「邪魔はさせん、俺は全ての"罪"を集め、元の世界に帰るんだ……」

「!?」

 まさかのオオカミも転生者オチかよ! 確かに、詐欺のやり口が随分と日本風だなとは思ったけども!!


「元の世界に戻って、俺は彼女と結婚するんだぁぁぁぁ!!」

「そこで唐突に死亡フラグ立てるのかよっっっ!!」

 オオカミが再び俺に向かって飛び掛って──


 ──ira憤怒


 再び、頭の中に声にもならない言葉が浮かんだ。

「もう一つ!?」


 ガァァァン


 直後、オオカミの頭上にタライが落下した。


「……え、これがギフトの効果?」

 下に落ちたタライを見る。どこから落ちてきたんだ?

「ド○フかよっ!」


 ガァァァン


 再び落下するタライ。

「うわっ…私のギフト、ショボすぎ…?」


「ぬぅ、タライ程度でぶっ」

 落下したタライを能力で引き寄せ、オオカミにぶつけた。

「……。このギフト、どうやってタライ落としてるんだ?」

 "タライ落ちろー"と思ってみても、タライは落ちてこない。


「フン、複数のギフトを使うのが自分だけと思うなよっ!」

 そう言うと、オオカミは大きく息を吸い込み、

superibia傲慢!!」

 強烈な鼻息を噴出した!!

「うおっ! こ、これは!!」

 兄1のワラを吹き飛ばした鼻息!! これギフトだったのかっ!!


 ゴウゴウと家の中に吹き荒れる風……。


「……」

 いや、確かに暴風だけども……。かなりほこりやゴミが舞っているけども……。

「……」

 無言な俺を見て、オオカミも噴出をやめる。



「ならばっ!!」

 オオカミは仕切りなおすようだ。

 先ほどの微妙な空気を払拭するように、オオカミはキレのある動きで腕を交差し、間接部のねじりを生かした芸術的なポーズをとる!

 クルクルと回り、そして急に流し目を向けてくるオオカミ。

「(瞳パチパチ、ウインク)」

luxuria色欲すんな!!」


 ガァァァン


 落下するタライ。


「えぇぇ、でもめんどくさいしぃ」

acedia怠惰役に立たなすぎだろ!!」


 ガァァァン


「ぎぃぃぃぃぃ、くやしいぃぃぃ!!」

「それもうただの嫉妬だろうが! ギフト仕事しろ!!」


 ガァァァン


「……」

「……」

 謎が解けたわ……。俺のギフト、ツッコミに対応してるわ……。

「ってか、ひどすぎない!? ギフトが全体的にひどい!!」


 ガァァァン


「オオカミ二足歩行なのかよっ!!」

 ガァァァン

「俺も豚なのに二足歩行かよっ!!」

 俺の上にガァァァン

「この世界観で、なんでウォーターサーバー営業なんだよ!」

 ガァァァン

「よく考えたら、オオカミと豚なのになんで喋れるんだよ!!」

 俺とオオカミにガァァァン

「ギフトとか大層な呼び名で、能力ショボすぎだろ!!」

 俺の上にガァァァン

「"色欲"、"怠惰"、"嫉妬"なんてほぼ無能力じゃねぇか!!」

 俺の上にガァァァンガァァァンガァァァン

「これなら俺の"強欲"と"憤怒"は、まだアタリだよっ!!」

 俺の上にガァァァンガァァァン


「ぐぬぅ……」

 終盤、俺にばかり落としやがって……、何者かの悪意を感じる……。


「彼女が……、待っているんだ……」

 オオカミは膝をつき、肩で息をしている。

「いや、俺のがタライ食らってるよね? なんでそんなに息も絶え絶えなんだよ!!」

 オオカミにガァァァン


「あ……」

「(ちーん)」

 オオカミは完全にノックダウンした。



 暴風により室内にはモノが散乱し、オオカミが気を失っている。そんな中にただ一人立っている俺。



「え、これどうすりゃいいの?」

 とりあえず兄貴二人どうにかならんかな? あんなんでも一応兄だし。助けて"ご都合展開"!

 オオカミのギフトで捕食?されたなら……

「オオカミがギフトを失えば、戻ってきたりするか?」


 ──avarithia強欲


「お?」

 オオカミからモヤっとした何かがあふれ出し、俺の手に吸い込まれていった。

 これはもしかしてギフトが──


「ふっ、デンジャラスだったな!」

「母さん、腹減ったぁ」

「戻ってる!?」

 兄1兄2が何事もなかったように立っている。吸い込まれた箪笥も元に戻っている。どうやらギフトを失うと吸い込んだモノが戻るらしい。


「あれ? でもギフトは全部俺の中に?」

 兄1兄2の分まで、俺の中に入り込んでいる。

 そういえば、オオカミが全部の罪を集めたら──


 ぴんぽんぱんぽーん


『おめでとうございます!』


「!?」

 どこからとも無く声がする。兄どもは反応していないところを見ると、俺にしか聞こえてないようだ。


『すべての"罪"を集められました貴方は、晴れて"大罪人"となりました。すべての"罪"と共に、この世界から追放でーす!』

「はぁっ!?」


 ガコン


 床が抜けた。


「なぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ………………………」




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「あれ、どうしたんだいお前たち」

「母さん!」

「ママァ!!」

「お前たち、いい家を作ったね。私もここに住まわせてもらうよ」

「「もちろん!」」


 こうして、母豚とニート×2は、幸せに暮らしましたとさ。






「納得いかねぇ!!」

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三匹の子豚転生! ~三男な俺はレンガの家で無双する~ たろいも @dicen

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