第三章 みんなとの未来

第20話 過去を左手に 未来を右手に

 葬式が終わって、零菜の両親から「零菜の分まで生きてね」って声をかけられた。零菜の両親だって苦しいはずなのに、他人の心配をしてしまうところが零菜と一緒だなって思った。


 僕はまた、電車に乗り家に帰った。辺りはもう真っ暗だった。


 家について、ご飯を少しだけ食べた。味はしなかった。いつも食べているお米が味のしないガムのようだったけど。


 何回も死にたいって思った。

 手首を切ろうと思うたびに腕に着けたネックレスが僕を止めた。

 零菜に言われた「幸せにならなくちゃだめだよ」って言葉が僕を止めた。

 零菜が言った「生きた証が残したい」って言葉が僕を引き留めた。


 ◇


「けど、どうやったらいいのかもわからずただ二年間生きてしまった俺が、今の俺」

「なるほどねー」

「墓参りとかは行ったのか?」

 光太郎が少し怖い顔をして聞いてくる。

「……行ってないよ」

「何で!?」

 朱里が前のめりになりながら驚いた。

「そりゃ……怖いから」

「怖い?」

「あ……うん……なんつーか……」

「何? はっきり喋ってよ。外が騒がしくて聞こえずらいの」

「ごめん」

「つか、騒がしすぎないか?」

 言われてみれば、外で大勢の人が叫んでいる気がした。それに何かサイレンのような音も聞こえてくる。

 外の異変に気付き始めた人たちが居酒屋を飛び出し、外へと走っていく。

 そんな中一人の男性が店へと戻ってくるなり、大きな声で叫んだ。

「近くのビルで飛び降り自殺しようとしてる女がいるぞ! なんでも電車で死んだ友達の後追いらしい!」

 それを聞いてまた人が外へと出ていく。店の中は酔いつぶれた人と僕達だけとなった。

「後追いねー」

「ほんとかどうかも分からないけどな」



「ゆーちゃんさ、知ってた。近くにある高いビルって裏口に階段あるから誰でも屋上に行けちゃうんだよね」

「は?」

 隼がまったく聞いていないことを話してきたので、僕は意味が分からなかった。何で屋上の行き方なんか教えるのかが分からなかった。

「悠翔君の性格なら仕方ないよね」

「幼馴染じゃなくても分かるよねー」

「一番付き合い短い私でもちょっと思った」

 苺と舞さんと桃花も同じ考え? 

「やるなら手伝うよ」

 何を?

「みんな気づいてるよ。ゆーと、助けたいんでしょ?」




 駄目だ。死にたい人を助ける資格なんてないんだ。苦しめるだけだ。死ぬのも一つの手なんだ。現実から逃げたっていいんだ。


 それでも、それでも本当は…………零菜に言いたかった。


「生きる……ことを……諦めないでくれって……言いたかった……!」

「それがお前の答えなんだろ? さぁ、行こうぜ。今度はみんないるぞ!」

 皆に背中を押されるように、誰かに手を引かれるようにして、僕達は店を出た。




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