第12話 ウソツキ

 夏に、零菜に何があったのか詳しいことを僕は知らない。知ろうと思えば知ることも出来ただろうけど、僕はしなかった。知ってしまったら零菜に会いたくなって、話したくなってしまうから。


 それに、いつ頃からかは分からないが零菜には頼れる人ができていた。零菜は新しく彼氏を作っていた。LINEのアイコンが男の人とのツーショットに変わっていたから何となく察しは着いていた。


 その時は何ともいえない感情だった。煮えたぎらない怒りとでも言っておこうか。零菜に対する怒りじゃない。自分に対するものだ。

 僕では支えられない。頼れない。僕とは違って頼れる人が零菜にはいるんだ。

 それを理解して認めてしまっている自分に向けた怒りだ。

 僕はそんな感情を、趣味や運動で振り払った。


 そして月日は進み、零菜と出会って一年が経とうとしていた。

 大学の講義を終え、家に帰っている途中だった。零菜から電話が来ていた。僕は間違い電話か何かだろと思い、電話を無視した。

 それでもやっぱり気になってしまった。

 何故、今頃電話をしてくるのかが分からなかった。僕達は連絡を取らない事をお互いに約束したはずなのに。

 余程大事な連絡なのだろうか。

 病気が治ったとか? 

 授業の連絡?

 緊急事態?

 考えないように忘れるようにしていたが、たった一本の電話が、僕の脳内をあっという間に支配した。


 考えて考えた結果、夜が明けていた。

 馬鹿みたいだ。そう思った僕は、素っ気ない返事を返した。

「何?」

 返信が来たのはその夜だった。

「やっぱりなんでもないよ」

「何を話すつもりだったの?」

「ううん、大丈夫」

「ちゃんと答えてよ」

「迷惑かけちゃう」

「零菜がどうしたいか答えて」

 少し返信が間を開けた。

 大丈夫という言葉が僕は嘘だと思ったんだ。明確な理由はなかった。それでも苦しんでいる零菜の姿がLINEの文章から想像出来てしまったんだ。

「聞いたら絶対怒るもん。だから大丈夫なの」

「こっちには戻ってきたの?」

「うん」

「明日会いに行ったら零菜は話してくれる?」

「傷つけちゃうよ?」

「俺は傷つかないよ。」









「今日はだめ?」


 零菜が僕を頼った初めての言葉だった。

 迷いなどなかった。

 僕は零菜のところに全力で向かった。

 自転車のペダルを今までに経験したことがないほど回した。

 喉が焼けたかと思うほど息苦しかった。

 足が張り裂けるかと思うほど痛かった。

 それを上回るほど、零菜に会いたい気持ちは強かった。

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