6人目 茂野光太郎
仕事を終えると外は既に暗くなっていた。
俺は更衣室に向かい、服を着替えた。朝脱いだ服に袖を通すと、冷たく身震いする程だった。
着替え終わったら、最後に髪を少し直した。
忘れ物がないか確認し、更衣室を後にしようとした時、先輩が更衣室に入ってきた。
「お疲れっす」
「おーお疲れ」
軽く挨拶をして、道を譲った。先輩は手でお礼を示し更衣室に入る。
「あーそーだ。茂野って電車だっけ? 今近くの駅で飛び込み自殺した奴がいるらしくてさ」
「あ、車なんで大丈夫っす」
「そっか。じゃ、またな」
先輩は俺が帰れることを安心したのか笑顔で見送ってくれた。
駐車場に止めた車に乗り込み、いつもより大きめに音楽を鳴らした。
気持ちが落ち着くまで、さほど時間は掛からなかった。
もう、何度も思い出したから――
高校の時付き合っていた彼女がいた。
俺は部活で忙しくて、彼女を一番に考えてあげれなかった。
よく「大事にしてくれないと死んでやる」って言われた。
ある日、ずっと傍にいないと大事にされないと思うのなら、俺なんかといない方がいいんじゃないかって考えて、別れた。
彼女が幸せなら、それが一番だと思った。
そう思うしかなかった。
彼女は別れる時「生まれてからこんなに幸せを感じたことはないよ。私に幸せを教えてくれてありがとう。私を人に戻してくれてありがとう」って言って、二度と話すことは無かった。
一年後、彼女は自殺した。
本当に死ぬなんて、思ってなかった。
今でも覚えている。彼女と出会った日、誕生日、記念日、……命日。忘れられない。
今でも捨てられない物がある。
思い出が針になって心を刺す。
苦しくても、辛くても、怖くても、彼女の分まで生きて、進んでいかなくちゃ行けないんだ。
もう大丈夫って思える頃には、俺は大学生になっていた。友達もできて、彼女の分まで頑張ろうと顔を上げ始めていた。
ただやっぱり、自殺って聞くと彼女の事を思い出す。
あの日最後に彼女が言った言葉が、脳内でビデオを再生されたかのように思い出される。
結局彼女にとっての【人】って何を指すのだろう。
俺はその答えを見つける為、生き続ける。
駐車場から車をゆっくりと動かした。
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