3人目 雛河俊
金属が擦れ合う音が街中に響いた。錆び付いた自転車のブレーキを思いっきり掛けたかのような音だ。
その後に一人の女性の叫び声が聞こえた。
「今の何の音!? 外だよね!?」
テレビを見ていた彼女が、台所で料理をしている俺のところに駆けつけてきた。
「ちょっと外の様子見てくるから、家の中で待ってて」
俺は上着を一枚羽織って外に出た。
家の近くの線路の方が、何やら騒がしい。
外は日が暮れ始めていて気温が下がってきていた。俺は少し身震いして、体を縮こませながら音の方へと向かった。
曲がり角を曲がって線路が見えるところまで来た。既に人だかりができていて、電車が止まっている近くで一人の女性が座り込んでいた。
「何で……何で……」
女性の様子や現場に様子から察するに自殺のようだった。座り込んでいる女性は多分自殺した子の友達とかだ。
俺が一人でいると近所で仲良くしてくれているおばさんに話しかけられた。
「あら俊ちゃんじゃない? 悲しいこともあったもんね」
「何があったんですか?」
「自殺よ自殺。若い女の子の。あそこに座ってる女の子がいるでしょ? あの子と何か言い争っていて、その後一人が線路に飛び込んじゃったみたいなのよ」
おばさんは招き猫のように右手を何回も動かしながら説明してくれた。
俺が相槌を打って、お礼を言おうとした時だった。
カシャ、カシャ
微かに音がした方を見ると男女のグループがスマートフォンで写真を撮っていた。
「やばくね! 自殺現場じゃん! これ写真撮ったら報道局に売れたりすんじゃね!」
「あの座り込んでる女も撮っとけよ!」
唖然とした。人が死んで悲しんでいるというのに写真を撮って笑ってるヤツらがいる。
いくらなんでも不謹慎すぎる。俺は声を掛けに行こうとした。
「ちょっと、やめときなさい」
俺はさっきのおばさんに止められた。
「あんな奴ら相手にするんじゃないよ。何されるか分かったもんじゃないよ」
その言葉にどこか納得してしまった自分がいた。
俺が止める意味ってあるのかな?
誰か言ってやってくれないかな?
迷ってる間に警察が来て、人だかりは解散させられた。
俺は狭くなった歩幅で歩き家に向かった。
俺はあの時、自分の損得を考えてしまった。あの場面で、写真を撮るのを止めさせることよりも、自分が傷つくことを恐れた。
結局選んだのは様子見という名の逃げだった。
ずっと変わらない、弱虫な自分。
俺には憧れている人が二人いる。
一人は二度と守れなかったと言わないように立ち上がった友達。
もう一人は、友達を助けるためだったら躊躇しなかった友達。
家に着くと彼女が「おかえり」と言って迎えてくれた。
「……どうしたの? 何かあった?」
「……久々に会いたい友達がいるんだけど行ってきてもいいかな?」
「女?」
「いるかもしれない」
「じゃあだめ」
「……そっか」
「冗談。行ってきな」
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