52
突如上空に、影が現れた。影が、そのままゆっくり下がってきて、地面にぺたんと着地した。もうもうと砂ぼこりが舞い上がったことを除けば、実に静かな着地だった。
「おまたせー!」
スーパーおろち号の車内から現れた白蛇は、首に縄をつけて、粗末な木の箱をひきずっていた。
「これは……」
やっとのことでダンの爪先から降ろしてもらって、車の中をのぞきこんだ圭太は、息を飲んだ。
ベニヤ板のような安っぽい木を大急ぎで張り合わせて作った箱の中には、大量の銃が入っていたのだ。
銃は、ひどく小さかった。
「ご希望通り、今のあなた方でも扱えるような銃を特注しました。小さいけれど、威力は抜群です」
得意げに白蛇が、鼻の辺りをうごめかす。
「本当に、殺すの……?」
圭太の声はかすれていた。
「麻酔銃よ」
おねえちゃんが言った。
「中には麻酔弾が仕込まれている。殺すのではなくて、眠らせるだけ。あとは、あの、若いティラノサウルス達がやってくれる。あなたが殺すわけではない。……それならできるでしょ?」
おねえちゃんの言葉の強さに押されて、圭太は、思わずうなずいた。
「スーの願いは、あの若い恐竜たちに狩りを教え込むことだけじゃない、彼女の本当の願いは、巣に残っている小さな子どもたちを飢え死にさせたくないということ。私は、そう思う。やらなきゃ」
やっぱり、おねえちゃんにもわかっていたのだ。
やらなきゃ。
その言葉が、重く圭太にのしかかる。
白蛇が、重々しくうなずいた。
「肉食のティラノサウルスが、植物食の恐竜を殺すのです。弱肉強食、まさに、自然の摂理です。つまり、正しいことだ。それに、」
赤い舌をちろりと出した。
「あなたたちには、他に選ぶべき道がありません」
「クワレルカ、クワレルカ」
白蛇の上に浮かんだカイバが、不気味にささやいた。
「いたぞ! イグアノドンの群れを見つけた。おあつらえ向きの岩陰もある!」
その時、獲物を探しに行っていたフォードが息を切らせて帰って来た。2本足で、あまりに静かに走ってきたので、フォードが叫ぶまで、ダン以外の誰も、その気配に気がつかなかった。
「よし、行こう!」
ダンが、力強く応じた。圭太をつかんで、首の後ろに乗せる。その高さに、圭太は、めまいがした。
フォードが、自分の首の後ろにおねえちゃんを乗せた。
2頭は、それぞれ、白蛇のひいてきた木の箱を口にくわえた。
「しっかりつかまってろ!」
そして、2本のたくましい足で地面を蹴って、物凄い速さで疾走を始めた。
「私は後から行きますからねー!」
白蛇の声が、はるか後方から、風に乗って、小さく聞こえてきた。
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