目薬と網戸と電池

犬丸寛太

第1話目薬と網戸と電池

 「あー、なんか疲れたわ。なんもしてないけど。」

 たまの休日の午後、深い溜息をつきながら窓の外を見やる。

 私は冬が嫌いだ。特に十二月これが一番嫌いだ。

 別にクリスマスだとか、一年あっという間だったなとかそういったミーハーなことではなく単純に寒いからだ。しかもまだまだ寒くなるってところが猶更嫌がらせのように感じる。

 深い溜息をつきながら窓の外を見やる。

 気持ちの問題か、自分の目が濁っているのか、引っ越してから一度も掃除をしていない網戸のせいか、いずれにしてもどうにも冬の空は気色が悪くてうんざりする。

 そういえば図書館から借りてきた本の返却日はいつだったか。せめて本の中だけでもと夏っぽい本を選んで借りてきたが結局目を通せていなかった。

 表紙を開け、返却日を確認すると日付は今日までだった。

 寒さを堪えせっかく借りてきたのだ。ちょっぴりでいいから夏を感じたい。

 幸い選んだ本は夏をテーマにした短編集だったので表題の「太陽電池」を読むことにした。

 なんだかふざけたタイトルだが妙に読ませる内容だった。

 主人公は「太陽」をエネルギーに変えて生きるとても環境に配慮した青年。

 彼は太陽さえあれば生き続けられるという。

 冒頭ではそんな彼のポジティブな日常が描かれていた。

 しかし物語も中盤へ差し掛かったころ彼は気づく。自分は太陽がある限り死ぬことができない存在なのだと。重要なのは彼のエネルギー源は「太陽の光」ではなく「太陽」そのものだというところだ。

 つまり、部屋のカーテンを閉ざしても、地下に住もうとも彼は生き続けることから逃げられない。

 終盤にかけて彼は懊悩し苦しんだ。

 彼は周囲の人々をまさしく太陽のように照らし続けた。そこまではよかった。しかし、彼を照らし温める人は誰もいなかった。

 真っ暗闇の宇宙にあって太陽を照らすものはない。

 彼は絶望した。しかし、それでもやはり彼は太陽だった。絶望という暗闇から太陽フレアの如く勢い強く彼は飛び出した。

 彼は思い切り胸を張り青空を見上げた。

 彼の眼はさんさんと輝く太陽とともにうすぼんやりと、しかし、確かにそれを見た。

 太陽と同じ空に浮かぶ月を。

 ここでこの短編は終わった。

 彼を温める人は最後まで現れなかったが物語の最後彼は青空に希望を見つけた。

 温めてくれなくてもともにあり続けてくれる存在。

 彼は月に出会えたのだろうか。

 まだ日はある。せっかくなので網戸の掃除でもしてみよう。

 その前に、久しぶりに本を読んだので目が少し疲れた。

 薬箱から目薬を取り出し慎重に一滴。

 「つめたっ。」

 やはり冬は嫌いだ。クリスマスまでに太陽を見つけなければ。

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目薬と網戸と電池 犬丸寛太 @kotaro3

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