第230話 鬼の力の一端!!

 大樹を伝って来たウロボロスは、私目掛けて、その身体を落下させる。


「!!」


 私は、月読をアイテム欄に仕舞い、ハープーンガンを手に取る。ウロボロスに引っ掛かった瞬間に地面を踏み切って、ジャンプする。鬼の力でいつもよりも遙かに高く跳び上がり、さらにハープーンの引き戻しで加速した私は、ウロボロスの頭上に移動出来た。

 ウロボロスは、まだ落下の最中。この状態では、素早く動く事も出来ないだろう。私はハープーンガンを再び撃ち、ウロボロスの頭に向かって落下する勢いを増させる。


「いい加減! 大人しくしろ!!」


 ダメージが全然通らない苛立ちを載せて放った拳は、ウロボロスの落下速度を加速させて、地面にめり込ませた。

 これには、やった私自身も驚いた。鬼の力である程度力は増していると思っていたけど、ただのぶん殴りでこんな事になるとは思ってもみなかったからだ。

 私は開いた距離を利用して、ハープーンによる加速を加えた蹴りを、ウロボロスに突き刺す。ウロボロスの頭が更にめり込み、そこから放射状に地面が罅割れる。

 私は、すぐに天照を取り出し、マガジンを入れ替えてウロボロスの頭に付ける。


「銃技『零距離射撃』『一斉射撃』」


 衝撃弾の零距離射撃と一斉射撃で、ウロボロスの頭に、これまでで一番の損傷を負わせる事が出来た。ウロボロスの身体がビクンビクンと波打つ。零距離射撃で威力が増した衝撃が身体を駆け巡ったからだ。

 本当は、このまま天照による零距離一斉射撃を続けたいけど、天照が壊れる可能性もあるので、武器を須佐之男に入れ替える。元々近距離なら、こっちの方が効果的のはずだ。使う弾は、威力に優れたスラッグ弾だ。天照で傷つけた部分を正確に撃ち続ける。

 衝撃が抜けて、ウロボロスが身体を上げようとした瞬間に、


「体術『震脚』!」


 足を踏み降ろして、もう一度地面にめり込ませる。

 本当は体術のサポート技で、打撃の威力を上げるものだけど、鬼の力で踏み込めば、それだけで強力な技にもなる。その場の考えで咄嗟にやったけど、上手くいって良かった。

 頭を上げる事は無理と判断したのか、ウロボロスは尻尾をゆらゆらと揺らしながら、持ち上げた。


「『鳴神・雷霆万鈞』!」


 私への攻撃だと気付いたソルによって、尻尾が地面に叩きつけられる。


「『戒めの光よ』『輝く杭の抑圧』!」


 叩きつけられた瞬間を狙って、ミザリーがウロボロスの尻尾を拘束する。


「『その戒めは汝が為のもの・汝の罪によるもの・罪人は悔い改めよ』!」


 縛り付けていた光と輝く杭が合わさっていき、さらに光と杭が増え、雁字搦めに縛られて、地面に縫い付けられた。どうやら、今までの拘束を合わせて強化するもののようだ。

 ウロボロスは、その拘束から逃れるために尻尾を動かしていく。ミザリーの拘束は完璧なものではないみたいで、すぐに罅が入った。すぐに拘束が解けないとみるや、再び頭を動かそうとする。それは、私の震脚で防がれる。後は、ミザリーが拘束を増やしていき、私達で少しずつ削っていけば倒せる。そう考えていると、ウロボロスが行動を変えた。

 私の周囲に煙が立ちこめてくる。これは、さっきも見た溶解液によるものだろう。何となく嫌な予感がした私は、黒羽織マスクを引き上げる。


「ごほっ……ごほっ……」


 マスクを貫通してきたため、即座に月読を取り出して、ウロボロスの上を走り尻尾の方に逃げていく。それを感じ取ったウロボロスが身体を上げていった。サイドミラーで後ろを確認すると、ウロボロスが口から煙を出していた。


「溶解液だけじゃなくて、毒も吐き出せるって事か……」


 ウロボロスが私の方を振り向こうとした瞬間、ウロボロスの頭の上で大きな爆発が起こる。逃げる前に私が置いてきた爆弾だ。至近距離での爆発で、ウロボロスは、再び頭を地面に降ろす。天照や須佐之男で、散々ダメージを与えていたし、ソル達の蓄積していたダメージもあって、ようやくダウンが取れたみたい。


「ここが攻め時!」


 ウロボロスの頭周辺には毒が撒かれていて、私達では近づけない。なので、ここで攻撃するべき場所は、尻尾では無く胴体だ。


「ルナちゃん!」


 空を羽ばたくシエルによって、空に移動したソルが声を掛けてきた。それだけじゃ、何を意図しているのか、完璧には分からないが、恐らく私も空に上がれという事だ。

 私は月読をアイテム欄に仕舞い、シエルに向かってハープーンガンを撃つ。シエルが、それを捕まえた瞬間に、ハープーンを引き寄せる。シエルは空に滞空しているので、私が上に上がっていく事になる。

 そして、飛び上がった私は、こちらに伸ばしているソルの手を掴んだ。


「私に向かって雷!」

「はぁ!? 分かった!」


 何を言っているんだと思ったけど、ソルがこう言うのは、絶対に理由があるので、取りあえず頷いておく。そして、シエルがソルの手を放す。ソルは、その場で回転し、私をウロボロスの胴体目掛けて投げた。さっきよりも速い速度で落下する。


「体術『大地砕き』!」


 ウロボロスの胴体に、私の踵がめり込む。周囲の地面を大きく割る。そして、その場から大きく距離を取りつつ、上空から自由落下しているソルに向かって、黒闇天で雷光弾を十発撃つ。

 ソルは自分に向かって飛んでくる雷光弾を鳴神で切っていく。その度に、鳴神に雷光弾の雷が集まっていく。


「『鳴神・雷霆万鈞』!」


 私が踵落としをした場所を正確にソルが斬る。激しい雷轟が鳴り響き、ウロボロスの身体が痙攣する。そこに、シエルが急降下してくる。


「『煉獄・ドラゴンダイブ』!」


 先程の炎を身体に纏ったシエルが、私とソルに続いて、同じ箇所に蹴りを叩き込んだ。蹴りが打ち込まれた箇所から、火柱が上がる。

 私、ソル、シエルによる同じ箇所への攻撃は、これまでで一番のダメージを与えられた。この三連撃で、ウロボロスは動かなくなった。


「倒した?」

「それフラグ」


 ソルとシエルのそんなやり取りの直後、ウロボロスが動き出す。ソルとシエルが構えるが、私はただ立っていた。動き出したウロボロスから敵意を感じ取れなかったからだ。ウロボロスは、私の事をジッと見てから、また大樹に登っていった。

 そして、上から私の事を見るだけで、何も行動しなくなった。


「フラグって思ったけど、何なの、あれ?」

「さぁ? とにかく襲ってこなくなったって考えて良いんじゃない?」


 その証拠に、私が少し大樹に近づいても、ウロボロスが襲ってくるような事はなかった。


「それにしても、本当に頑丈だったね。私達でも倒しきれないってなると、多分、誰も倒せないんじゃないかな? それこそジークさんでも」


 ソルの言う通り、恐らくプレイヤーの中でもトップクラスに強いジークでも、あのウロボロスを倒すのは厳しいだろう。私達もジークにはギリギリ勝てないかもしれないが、それなりに強い部類に入るはず。特にソルは、ジークに勝ててもおかしくないくらいには強い。

 それでも削りきれない耐久力。もしかしたら、あいて不死身なのかもしれない。


「新しい技も使ったから、結構自信あったのになぁ」


 鳴神を解きながら、ソルがそう言った。


「そういえば、メレ以外、全員新技を使ってたか」

「そうだよ。ルナちゃんも凄い技を使ってたじゃん」

「あれは、結構前からある技だよ。空中からの落下後に踵落としをしないといけないから、タイミング合わせが難しいんだよ。失敗しなくて良かった」


 大地砕きは、少しでも踵落としのタイミングがズレると発動しない。結構シビアな技だ。


「それよりもソルの技だよ。何あの威力。それに、私に雷光弾を撃たせた意味は?」

「簡単に言うと、雷霆万鈞は、雷の分身を作るって感じかな。私の後を追って同じ行動をするだけだけど、皆、雷で出来ているから、雷の速度で追撃してくれるの。もう一つの方は、最近知ったんだけど、鳴神って雷を蓄積する事が出来るみたいなんだ。自分の雷は無理なんだけど、自分以外の雷なら何でも良いっぽい」


 ソルの教えてくれた事は、大体予想通りだった。まさか、雷霆万鈞が雷の分身を作るものとは思わなかったけど。

 そんな風に話していると、メレ、ミザリー、ネロが合流した。ネロは、私の服を引っ張りながら、上を見上げる。


「あれ、大丈夫にゃ?」


 ウロボロスが敵対してこないかが心配なのだろう。


「大丈夫っぽい。私が少し近づいても、こっちを見るだけだから」

「そうにゃ?」

「うん。メレもお疲れ様」


 ネロを安心させつつ、メレも労う。メレの聖歌が無ければ、ソル、シエル、ネロの全力戦闘は、長続きしない。本当に、私達のパーティーの屋台骨という事を自覚させられる。


「ミザリーも助かったよ」

「ううん。私の拘束じゃ、あれが限界だったから、耐えられて良かったよ。それより、これからどうする?」


 ミザリーは、今後の動きについて訊いてくる。ウロボロスがあそこにいるので、何か変わるかもしれないと考えたのだろう。


「特に変わりは無し。あの大樹を調べるよ。いつウロボロスの気が変わるか分からないから。早めに調べておきたいしね」

「なるほどね。分かった」

「それじゃあ、早速行きたいけど、皆大丈夫?」


 私が皆に訊くと、皆が頷いた。謎のウロボロス戦を終え、私達は大樹へと向かう。

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