第1部 アアル

第173話 次の目的!!

 ネザードラゴンとの戦いから、一週間が経過した。その一週間は、滅びた街から行ける神殿がある場所の調査をした。神殿の中や花畑などしか調べられていないので、その他に何かないかを調べたかったからだ。

 基本的に夜の調査だけなので、一週間掛けてようやく全体像が掴めるようになった。ここは、直径約十キロの浮島だった。

 森や湖などの自然が多く有り、鹿のようなモンスターが生息していたが、神殿のモンスターと異なり、温厚的なモンスターばかりだった。

 他に遺跡みたいな場所があったけど、何かの痕跡があるかとも思ったけど、特に何もないし、地下に降りていくような場所も無かった。神殿のように建っていたものが、崩壊したものだと思う。ソル達も同じように自分達で色々調べてくれたみたいだけど、強いモンスターも怪しい場所も無かったらしい。浮島にあるのは、例の神殿だけのようだ。

 結局何の情報を得られなかった私達は、いつものたまり場であるヘルメスの館に集まっていた。


「メアリーさんの解読が終わるまで暇になるなぁ……何かいい話とかない?」

「はいはい! 面白い話があるよ!」


 自信満々にそう言ったのは、ソルだった。なんか興奮しているし、期待が出来そう。


「何?」

「昨日の夜にね、ユートピア・ワールドの掲示板を見てたの。そうしたら、砂漠を渡る方法が出てたんだ」

「!!」


 その話に、私達全員が食いつく。


「その方法はね。回復薬で無理矢理渡るって方法みたいだよ」

「…………はあ?」


 あまりにも脳筋な方法に、思わずそんな声が出た。他の皆も声には出していないものの、私と同じような表情になっている。


「そんな方法なら、もっと早くに試されていると思うにゃ」


 ネロがごもっともな意見を出す。その言葉に、ソルは指を立てて横に振る。


「ちっちっち、そんな簡単な話じゃないみたいだよ。必要な量が百個以上になるみたいだし、喉が死ぬ程乾くんだって。『環境適応』のスキルがあれば、ちょっとマシらしいよ。最近身に着けた人が、そう答えてたから」

「それって、結局砂漠を渡れているって言えるの?」


 そんなシエルの質問を待ってましたと言わんばかりに、ソルは胸を張る。


「実は、これの他にもっといい話があるんだ」

「じゃあ、そっちの方法を言えば良かったじゃん」

「分かってないなぁ、ルナちゃんは。こうやって小出しにした方が盛り上がるでしょ?」

「え~、そういうもの?」

「そういうもの。まぁ、さっきの方法でも、ルナちゃんの月読とシエルちゃんのプティがいれば、結構簡単に渡れると思うけどね。ただ、こっちの方法は、ルナちゃんが嫌がるかなって」

「私が?」


 正直、よっぽどの事が無ければ嫌がる事はないと思うのだけどと思っていた私も、ソルの次の言葉を聞いて、確かにと頷くしか無かった。


「遮光マントっていうアイテムで、暑さによるダメージを回避出来るんだって。多分、直射日光を防げるからなんだろうね。このアイテムの入手手段が、ホラータウンのクエストのみらしいんだ。それも一人一回のクエストみたい」

「うぇ……確かに……嫌だ」


 ここに来て、まさかのホラータウンのクエストのみ入手出来るなんて最悪の設定過ぎる。ソル達からどういう場所なのか聞いて、絶対に行けないな思っていたのに。


「一応、クリアしていても付き添いはオーケーみたいだから、来るだけ来て、クエスト自体は私達がクリアするって方法もあるよ」

「な、なるほど……」


 ソルの魅力的な提案に心が動く。だが、熟考に熟考を重ねた結果、私は一つの案を閃く。


「アーニャさん、黒羽織に遮光マントの効果を持たせられませんか?」


 私は、テーブルでは無くカウンター席でこちらを見ていたアーニャさんに相談した。もしかしたら、黒羽織を改良すればどうにかなるかもしれないと思ったからだ。


「まぁ、出来なくはないわね」


 アーニャさんの答えに、心が一気に軽くなった。これでホラータウンに行かなくて済むからだ。


「ついでに、他の装備も全部強化しちゃいましょうか。せっかくドラゴンの素材が手に入ったのだから、使わないと勿体ないものね。ソルちゃんの装備も同じように強化したいのだけど」

「お願いします」


 ソルは、即答で返事をした。ただ、私の方は少し難しい顔になる。


「最近、お金稼ぎをサボってたからなぁ……」


 ついこの間修理と強化を頼んだばかりだったので、代金を払うお金が心許ない。


「まぁ、頑張って稼いできなさい。代わりの装備は支給してあげるから」

「代わりの装備ですか?」

「そうよ。ソルちゃんと一緒に着替えてきちゃいなさい」


 アーニャさんに服を貰った私とソルは、店の奥の方で着替える。私とソルの防具は、色違いのお揃いになっていた。私は白いワンピースで、ソルは黒いワンピースだった。ただ普通のワンピースのように、見栄えが良いというよりは、実戦用みたいで、動きやすさが重視されている。夜烏みたいだ。その他にも白と黒のコートとタイツ、ブーツもお揃いになっている。


「お揃いだ!」


 ソルは喜びながら抱きついてくる。


「これって、色合ってます?」


 抱きついてきたソルを受け止めつつ、アーニャさんに確認する。普段着として、白いワンピースとかを着ているけど、戦闘服は基本的に黒なので、ソルの方が私のではないかと思ったからだ。


「合っているわよ。たまには良いかなってね」

「夜だと目立ちますかね?」

「ルナちゃん、自分の髪の毛を見た事ある?」


 カウンターの中で整理整頓をしていたアイナちゃんが、困ったような表情でそう言う。言われてみて、自分が設定した髪色を思い出した。


「確かに……この髪をしている時点で、そんな事を考える必要なかったかも」

「でしょ? そのワンピースも似合ってるよ」

「ありがとう、アイナちゃん」

「まぁ、私が作ったから当たり前ね。二人に似合うようにしたし。後は、はいこれ」


 アーニャさんが渡してきたのは、黒闇天や吉祥天とは違う銃だった。


「黒闇天とかよりは弱いけど、最初に使っていたリボルバーよりは強いわよ」

「ありがとうございます」


 アーニャさんに貰った銃は、特に名前は付いていないけど、良い銃だという事は分かった。


「そうだ。月読も置いていって。良い改良案が浮かんだから、ちょっといじりたいんだ。ついでに強化もしてあげる」

「分かった。よろしくね」

「うん。任せて」

「大体二週間くらいで終わるわ。それぞれ代金は、これくらいね」


 私とソルは、それぞれ代金が書かれた紙を貰った。書かれている金額を見て固まる。


「うっ……高い……」


 ちらっとソルの方の代金を見る。そこに書かれている金額は、私のものよりも安い。


「何で、こんな違うんですか?」

「装備の数ね。その分良いものになるから」

「は~い」


 ネザードラゴンの素材は、アーニャさんに渡している。その他の高位素材も強化用の素材として渡してある。その他の素材は、屋敷の運営用に置いているため、手を出す事も出来ない。


「割の良い報酬のクエストがあると良いけど」

「じゃあ、早速ギルドの方に行く?」

「そうだね。シズクさんに相談しよう。お茶、ご馳走様」

「ご馳走様でした」

「頑張ってね」


 アーニャさんとアイナちゃんに見送られて、私達はヘルメスの館を出ていき、噴水広場の方へと向かった。

 ユートリアへと転移したところで、メレが短くため息をついた。


「ルナさんもソルさんも一気にパワーアップですね。私も何かパワーアップしたいところですが……」

「メレがこれ以上パワーアップか……何だろう?」

「聖歌以上に凄いパワーアップが思いつかないんだけど、メレさんがこれ以上に強くなる要素ってあるの?」


 ミザリーの言っている事は、結構正しい。ホラーエリアでの話を聞いたけど、アンデット特効尚且つ仲間の体力魔力を永続的に回復し続ける聖歌は、かなりのチート技と言える。これ以上の力となると、本当にヤバイ技になってしまうのではないだろうか。


「武器を変えてみたら? 今、メガホンを使ってるけど、マイクみたいなものにしてみたら? ルナの銃があるくらいだから、マイクとスピーカーもあるんじゃないの?」

「今のところ、どこにも売ってないし、ディストピアに行くまではないのかもね。そうなると、メレのパワーアップは、まだ先かな」

「そうですか……」

「落ち込む事無いよ。私なんて、この中で唯一ユニークスキルを持ってないんだから」


 まだ強くなれない事を知って落ち込んだメレよりも、ユニークスキルを持っていないミザリーの方が深く落ち込んでいた。


「ユニークスキルってどうやったら手に入れられるの?」

『…………』


 ミザリーの質問に、私達は全員何も言えなかった。


「私達が手に入れたユニークスキルって、初期スキルの派生形だから、実際どうやったらユニークスキルを手に入れられるのかは分からないんだよね」

「つまり、一つのユニークスキルを手に入れる事が出来れば、そのまま派生で手に入れる事が出来るって事か!」

「まぁ、そのユニークスキルを手に入れる方法がないんだけどね」


 そんな会話をしつつギルドに着くと、すぐに違和感に気が付いた。


「なんか人少なくない?」

「まぁ、常に大盛況とはいかないんじゃない? ルナ達は、いつも通り専属カウンターに行くでしょ?」

「うん」


 私とソルは、二人で専属カウンターに向かう。だが、どこを見てもシズクとメグがいない。


「あれ? ソル、何か知らない?」

「ううん。全然。話を訊いてみようよ」

「まぁ、そうか。すみませ~ん」


 カウンターから声を掛けると、ちょうど近くにいた男性職員がこちらに来る。


「如何されましたか? こちらは、専属カウンターですが」

「私達、シズクさんとメグさんを専属職員にしていたのですが、お二人はどちらにいますか?」

「おや、知らされてないのですか?」

「「?」」


 どういうことか分からない私達は、首を傾げる。


「当職員のシズクとメグは、現在王都に新設されたギルドの本部に異勤されました。特に何も無ければ、専属契約は続いておりますので、ギルド本部でも専属カウンターをご利用頂けます」

「なるほど。教えて頂いてありがとうございます」

「いえ、それでは私はこれで」


 男性職員は仕事に戻った。私達もシエル達のところに戻る。


「シズクさん達王都にいるみたい。向こうにもギルドが出来たんだって」

「へぇ~、初耳。てか、最近ホラーエリアにいたから、王都とかあまり行ってないかも。ルナは、メアリーさんのところに行くから、結構な頻度で行ってるんでしょ? 何か心当たりは無いの?」

「まっすぐメアリーさんところに行ってたから、全く周りを見てなかった」

「ルナちゃんらしい。取り合えず、王都に行こう」


 私達は、新設されたというギルド本部に行くべく王都へと転移した。


「それで、どこにあるのにゃ?」

「さぁ? 上に上がって調べ……」


 適当な建物の屋上に行けば、調べられるだろうと思い、ハープーンガンを使おうとしたが、強化のためにアーニャさんに預けていた事を忘れていた。


「普通に探すか……まぁ、人通りが多い場所にあるでしょ」


 私達は、王都一番の大通りを歩いて行く。私達プレイヤーの利便性を考えると、大通りにある可能性が高いはず。この考えは、正しかったようで、大通りの門に近いところに、ユートリアにあるギルドに似た大きな建物が建っていた。


「おぉ……こんな大きな空き地ってあったっけ?」

「あまり気にした事なかったから、覚えてないなぁ。シエルちゃんは?」

「私も知らないかな。てか、一番記憶力が良いのソルでしょ? ソルが覚えてないなら、誰も覚えてないんじゃない?」


 シエルの言葉に、ソル以外の全員が頷いた。


「まぁ、中でシズクさんに話を訊けばいいでしょ」


 私はそう言って、ギルド本部の扉を開けて中に入る。ギルド本部の中は、ユートリアにあるギルドとほぼ同じ印象だった。違うのは、ギルドの広さだけだ。こっちの方が二倍近く広くなっている。


「シズクさんいるかな?」


 シズクさんを探して、専属カウンターを覗くと仕事をしているシズクさんを発見する。


「シズクさ~ん」

「あら、ルナさん。すみません。こちらに異勤した事を伝えたかったのですが、ルナさんに会えなかったので」

「ああ、それに関しては、私もすみません。色々と忙しかったので、顔を出せなくて」

「そうでしたか。これからは、メグちゃんもこっちで働く事になりますので、こちらに来てください」

「分かりました。それでクエストをしたいんですけど」

「はい。少々お待ちください」


 シズクさんは、後ろの机からファイルを持ってくる。


「ルナさんがやりたそうなものを選出しておきました」

「ありがとうございます」


 ファイルを受け取って中を見てみると、討伐系のクエストばかりがピックアップされていた。確かに、採取系のクエストは面倒くさいし、ただ討伐して解体する方が楽しいから助かる。


「じゃあ、ここからここまでをお願いします」

「分かりました」


 シズクさんが超速で手続きをしてくれた。隣で、ソルもメグさんに手続きをして貰っていた。


「ルナ、そっちも終わったにゃ?」


 特にクエストを受けないネロが、小走りでこっちに来た。


「うん。終わった。本当にネロは受けなくて良いの?」

「お金は有り余ってるにゃ」

「防具の新調とかは?」

「良い防具が見付かったら、考えるにゃ。私の場合、尻尾穴が必要になるから、普通の防具は装備出来ないのにゃ」


 ネロはそう言って、可愛い猫尻尾をゆらゆらと揺らす。


「アーニャさんに頼む? 凄く腕の良い人だし、喜んで作ってくれると思うけど」

「にゃ~……今度頼んでみるにゃ」

「ドラゴンの素材だってあるし、ネロは武器を気にしなくて良いから、良い防具になると思うよ。ヘルメスの館にいるときに訊けば良かったか」

「気にしなくて良いにゃ」


 そんな事を話していると、ソル、シエル、メレ、ミザリーも手続きを終えて、私達の元にやってきた。メレだけは、持っていた素材でクエストを完了させただけみたいだ。


「それじゃあ、行こうか」


 私達は、ギルドを出てすぐに王都の外へと向かった。

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