第164話 遺跡と洞窟

 翌日、ホラータウンで集まったソル達は、遺跡の奥へと向かっていた。


「ここからが、探索していない場所だね。メレちゃんは、聖歌を歌って。私達は、聖歌でも倒せない敵を担当しよう。それが現れるかは分からないけど」

「オッケー」


 皆を代表して、シエルが返事をする。そして、祭壇があったホールの先に行くと、分かれ道が多い通路が続いていく。複雑な道のりになることが予想されるので、ルナの代わりに、ミザリーが地図を製作していた。

 ソル達は、取りあえず左へ左へと進んで行った。そうして着いた場所は、行き止まりだった。


「ここは行き止まりなんだ。ミザリーちゃん、ここまで分岐は、どのくらいあった?」

「えっと……十二かな」

「…………」


 全員の表情が無になる。思っていたよりも遙かに多い分岐に嫌気が差したのだ。だが、ここの調査が何かに繋がる可能性もあるので、地道に進んで行く事になる。


「本当に地道な道のりになりそう……シエルちゃん、ガーディで正解の道のりとか分からないかな?」

「匂いでって事? かなり無茶があるけど、やってみようか『起きて』」


 大きくなったガーディは、シエルの顔を見て、命令を待っていた。


「ここの道を抜けたいんだけど、正解の道がどこだか分かる?」


 シエルがそう訊くと、ガーディは、地面の匂いを嗅ぎ始めた。ソル達は、これで道のりが分かればと期待した。だが、ガーディは、首を振った。道は分からなかったのだ。


「さすがに、そこまでうまくはいかないにゃ」

「じゃあ、当初の予定通り、地道に進んで行こうか。ミザリーちゃんは、地図作りを続けて。メレちゃんも聖歌を歌い続けて。ネロちゃんは、周囲の感知に全力を注いで。何か、違和感があったら、すぐに教えてね」

「にゃ」

「私とシエルちゃんは、さっきと同じで、聖歌の効果範囲外の敵を倒すよ。いるか分からないけど」

「分かった」


 改めて役割分担をしたところで、ソル達は、探索を再開した。結局のところ手当たり次第に調べていくしかないので、常に左側を優先して、道を潰していく。分岐の四つを消化するが、その全てが行き止まりだった。


「こんなに行き止まりが続くなんてあり得る?」


 ずっと行き止まり続きなので、シエルは苛ついていた。シエル程では無いが、ソル達も不満が積もっていたので、同じ気持ちだった。


「でも、RPGのダンジョンだと、基本的には、行き止まりばかりだし、こんなものなんじゃない?」


 ソルは、自分がやった事のあるRPGを思い出しながらそう言った。


「そう言われるとそうかもしれないね。昔のRPGは、行き止まりばかりだった気がする」


 ミザリーもソルと同じ意見になった。ゲームとしては、このくらいのものはあり得るという認識なのだ。この中で、唯一ゲームと縁遠かったメレだけは、何のことだろうと首を傾げながら歌っていた。


「ネロちゃん。何か、変な音とか感覚とかはない?」

「全く無いのにゃ」

「じゃあ、正解の道を手当たり次第っていうのが、ちゃんとした攻略法なのかもね」

「それならそれで、行き止まりの道に宝箱でも置いておいて欲しいけど」


 シエルの気持ちが分かるメレを除いた三人は、同意する様に頷いた。その後、また四つの道を消化したが、その悉くが何もない行き止まりだった。

 時間が来てしまったので、今日のところは、これで解散となった。

 結局、この探索得られた成果は、ミザリーが地図製作のスキルを手に入れられた事だけだった。この先の探索は、後日となる。


────────────────────────


 シャルとのデートの翌日。私は、シルヴィアさんと一緒にスノーフィリアの外に出ていた。


「寒くはありませんか?」

「大丈夫です。昨日は、夜烏だけでも平気でしたし、今は、黒羽織も羽織っていますから」


 環境適応のスキルのおかげなのか、この寒さでも、夜烏と黒羽織だけで凌ぐことが出来ていた。


「では、足元にだけ注意してください。いつも通りの感覚では動けないでしょうから」

「はい。そこまで動き回るような戦闘にならないと良いんですけどね」


 雪での戦闘は、まだやった事がないので、どのような感じで動けば良いのか分からない。普通に歩くのには慣れてきたとはいえ、戦闘と移動では踏み込み方も変わってくるからだ。


「近接戦は、全て私にお任せ下さい。ルナは、援護に徹してください」

「分かりました」


 シルヴィアさんのお言葉に甘えて、私は援護だけに徹する事にする。実際、私が動き回って接近戦をするよりも、シルヴィアさんが動き回った方が、効率が良い。


「それで、どこから調査しますか? ここら辺の土地勘は、全く無いので、シルヴィアさん頼りになってしまうのですが」


 一応、地図だけは買っているが、どう考えても一時期ここに住んでいたシルヴィアさんを頼る方が良いに決まっている。


「そうですね。街の近くには、特に何も無かったはずですので、少し遠くまで脚を運びましょう」

「そこには、何かあるんですか?」

「いえ、特にこれと言って、何かがあった記憶はありません。ですので、基本的に手当たり次第に調べるということになるでしょう。少し時間が掛かるかもしれませんが」

「それなら仕方ないと思います。頑張りましょう!」


 私がそう言うと、シルヴィアさんが頭を撫でてくる。


「そうですね。では、行きましょう」

「はい!」


 私達は、雪の中を進んで行く。時折、気配感知に反応があるけど、こっちに近づいては来ない。


「こっちを警戒しているのでしょうか?」

「そうですね。もう襲い掛かってきてもおかしくは無いのですが」


 これにはシルヴィアさんも訝しんでいた。


「何かを恐れているかのような印象を受けますね」

「恐れている……あっ」


 シルヴィアさんの言葉で、少し思い至るものがあった。それは、私が身体に宿している鬼の力だ。スノーフィリアに来るまでの道中でも、あまり襲われなかった事から、私の中の鬼が威圧していたのかもしれない。


「何かありましたか?」

「いえ! 全然何も無いです!」


 私は、慌てて何でもないように取り繕ったけど、シルヴィアさんには怪しまれてしまった。今は何も言わないけど、帰ったら、問い詰められてしまいそうだ。どうにかはぐらかす方法を考えておこう。

 そのまま雪道を進んで行くと、シルヴィアさんが周囲をキョロキョロと見回し始めた。今までそんな事をしていなかったので、ちょっと気になった。


「どうしました?」

「いえ……ここら辺の景色が、記憶にあるものと違うので、少し違和感がありまして」

「そうなんですか?」


 私は、アイテム欄からスノーフィリア周辺の地図を取り出して、シルヴィアさんと一緒に見てみる。


「私達は、今、ここら辺にいますよね?」

「そうですね。ふむ……なるほど」


 シルヴィアさんは、何か納得がいったように頷く。


「違和感の正体が分かりました。積雪量の違いですね」

「そんなに変わっているんですか?」

「はい。そのせいで、記憶にある景色と全く違う状態になっているみたいです。街中では、雪かきなどもされているので、あまり実感がありませんでしたが、こうして見ると、確実に増えていますね」


 何年も帰ってきていないから、こうして違いを見抜くことが出来たということみたい。


「じゃあ、地図を買ってきても意味なかったですかね?」

「いえ、積雪量だけが違うので、地形が変化したというわけではありません。その地図は、きちんと使えると思います。私の記憶も当てにならなくなった事ですし、そちらを利用して調査していきましょうか」

「はい」


 私達は、地図とシルヴィアさんの記憶を使って、何か変わった部分はないかと調べていった。基本的に積雪量の違いで、シルヴィアさんの記憶と違うところがあったけど、地図と実際に歩いてみて相違がない事を確認した。


「ここまで、何も変わったところは無いですよね?」

「そうですね。積雪量の違い以外は、特に何もありませんね。私が王都に向かったのは、十一年前ですので、古代兵器が起動した際に地形が変化していれば、分かるはずです」

「静かに起動していたら、何も分からないですもんね。シャルが聞いた話では、積雪量以外は変わっていないみたいですけど」


 つまり、大きな変化が起きている可能性が低いのだ。


「アルカディアの時は、古代兵器の効果が顕著に出ていたので、ある程度の場所は分かりましたけど、これは本当に難航しそうですね」

「その他にも懸念はあります」

「懸念ですか?」


 私は、何のことか分からず、すぐに聞きかえした。


「仮に、古代兵器の起動あるいは、出力増大で、周囲に大きな影響を与えるのであれば、向こうの山などで、雪崩が起きるでしょう。スノーフィリアの近くにも、山はありますので、被害が出る可能性も無くはありません」

「スノーフィリアが雪に埋もれてしまうという事ですか?」

「本当に低い確率です。山と言ってもそこまで大きいものではありませんし、スノーフィリアも外壁がありますので」

「本当に最悪の場合って事ですね。シルヴィアさんの故郷のためにも頑張りましょう!」

「そうですね」


 やっぱり、古代兵器がある事による弊害は確実にある。


(まだ、古代兵器があると決まったわけじゃないけど、色々と警戒しておかないと)


 私がそう考えていると、シルヴィアさんが脚を止めた。そして、ジッと一点を見つめている。釣られてそっちを見ると、かなり遠くに小さな洞窟のようなものが見えた。よくそんなところを見つけられたなってくらいには離れている。


「えっと……あれ? 地図には、洞窟の記載は無いですね」

「はい。私も見覚えはありません。ここら辺には、あまり来ていないので、確かな事は言えませんが、私がいない間に出来たものだと思います」

「じゃあ、あそこが怪しいですね。早速調べましょう」


 私達は、シルヴィアさんが見つけた洞窟に向かっていく。

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