第2話 ユートリア探索!!

 私は、街探索をすべく、広場の端にある地図を見ていた。


「えっと、まず見るべきは、武器屋のある場所かな?」


 地図を見ていると、あることに気が付いた。


「……文字が読めない」


 私の見ている地図には、きちんと文字が書かれており、見やすくなっているのだけど、その文字がたったの一文字も読めない。日本語でも英語でもない文字みたい。


「普通は、私達にも読めるようにするんじゃ…」


 私はそう思いながら、地図をよく見た。地図の感じから、何かしらの情報を得られるかもしれない。私のいる広場は、街の中心に位置している。そこから、東西南北に大通りが延びており、それらは街の出口まで続いている。よく見ると、その大通りからは、小さな道が無数に延びている。


「大通りには、主要な店が並んでいるんだろうなぁ。でも、南西の方は、あまり建物がない感じなのかな?」


 地図には、建物らしい四角い図形が書いてあるのだが、南西の部分は、その図形が少なくなっている。そうして、文字の読めない地図と睨めっこしていると。


『『言語学Lv1』を修得。最初の修得者のため、ボーナスが付加されます』


 というウィンドウが、突然、目の前に出てきた。


「わっ!? びっくりした……えっと、言語学を修得? って事は……」


 私が、また地図を見ると、今度は文字が読めるようになっていた。ただし、一部の文字だけだった。


「さすがにレベルを上げないと、全部は読めないかぁ。でも、少し読めれば予測がつくはず」


 今読める文字から、武具屋の場所を探し出す。すると、東通りが職人街のような所だということがわかった。細かい店の名前などは載っていなかったので、東通りを一通り歩いてから、時計回りに街を巡ってみることにする。


「皆は本当に一目散に外に出たんだなぁ」


 東通りに来ると、プレイヤーの姿は一人もいなかった。東通りを歩いていた私は、近くにあった大きな武具屋の中に入る。


「いらっしゃいませ!」


 大きな声が店の中に響いた。とても仕立ての良い服を着ている店員がやって来た。


「何をお探しですか?」


 物腰の柔らかい店員で、話しやすそうだ。


「銃はありますか?」


 問答無用でつまみ出された。店員に押し出されたため、地面に転がってしまう。


「へぶっ!」


 店員曰く、


「そんなもんあるわけ無いだろうが!」


 だそうだ。


「いたたた……客なんだから丁寧に扱ってよ……」


 だが、これで分かった事もある。


「銃って、普通の店にはないんだなぁ。それか、嫌われてるとかかな?」


 私は、その店の後も色々な店を回ったが、その全てで銃の取り扱いはなかった。


「どこにも無い……これじゃあ、銃のメンテナンスとかも受けられないって事だよね。どうすれば良いんだろう……?」


 途方に暮れた私は、なんとなく裏路地に入ってみることにした。


「こういう所ってなにかしらありそう。でも、不良のたまり場だったらどうしよう……」


 周りを警戒しながら路地裏を進んで行く。曲がり角などは、覗きこんで確認をしてから入るようにしていると、


『『潜伏Lv1』を修得。最初の修得者のため、ボーナスが付加されます』


 また、スキルを修得した。


「路地裏をこそこそ動いてるだけなのに……それにしても、さっきも出てきたけど、このボーナスって何なんだろう? チュートリアルには書いてなかったしなぁ」


 考えても答えが出るわけでもないので、気にせずに路地裏を進むと、一つの看板をぶら下げたボロボロの家を見つけた。


「えっと、全く読めない……」


 言語学を得て、少しだけ読めるようになったはずなのだけど、この看板の文字は、一文字も読めなかった。文字が掠れているとかではなくて、本当に読めないって感じだ。いつか読めるようになるのかな。私は少し深呼吸して、覚悟を決めてから、扉を開けた。


「ごめんください」


 一言添えてから中に入る。外観と違って、中は意外なほどに綺麗だった。


「いらっしゃいませ!」


 出迎えてくれたのは、メイド服を着た女の子だった。


「えっと、ここは何のお店なんですか?」


 私は、恐る恐る訊いてみた。最初の店での出来事が若干トラウマになりかけているのだ。


「ここは喫茶店です。どうぞ、席にご案内します」

「は、はい」


 私は、ウェイトレスさんに大人しくついていく。


「こちらへどうぞ」


 店の一角に置かれた豪華な席に案内された。私は少し焦った。


「あの、私そこまでお金がないんですけど……」

「大丈夫ですよ。そこまで高くはないですから」


 私が持っているのは、ゲーム開始の初期資金である三〇〇〇ゴールドしかない。ゴールドは、この世界の通貨の名前だ。


「こちらがメニューです」


 渡されたメニューを開くと、今の自分の所持金でも十分に飲み食いが出来る値段ばかりだった。相場を知らないから、本当に安いのかは分からないけど……


(良かった。きちんとメニューが読める。なんで、お店の名前は分からなかったんだろう?)


 そんな事を考えつつ、注文を決めた。


「えっと、紅茶を一つとチョコレートケーキをください」

「かしこまりました。茶葉の方はいかがなさいますか?」

「お、おすすめで」

「かしこまりました」


 ウェイトレスさんは、注文を聞き終えると、カウンターの方へ向かった。私は、品物が来るまで、周りをキョロキョロと見ていた。豪華な燭台や絵画など、今の自分の服装がふさわしくないと思えるほど豪華なものばかりだ。


「なんで、こんなに豪華なのに、あんなに安かったんだろう?」

「それは、この喫茶店が私の趣味だからよ」

「!?」


 いつの間にか、私の前の席に女の人が座っていた。本当に気が付かなかったから、危うく椅子から転げ落ちるところだった。


「あ、あなたは?」

「あっ、何しているんですか!?」


 カウンターから、紅茶とケーキを載せたトレイを持ちながら、ウェイトレスさんがやって来た。


「めずらしくお客さんがいるから、どんな娘か気になってね」

「いきなり現れたらびっくりするじゃないですか!」

「それもそうね。あっ、私も紅茶をお願い」

「はぁ、分かりました。お騒がせしてすみません。こちら、チョコレートケーキと紅茶になります」

「ありがとうございます」


 ウェイトレスさんは、また、カウンターに向かった。


「それで、貴方のお名前は?」

「えっ、あっ、ルナって言います」

「そう、ルナちゃんって言うの。私は、アーニャ・メルクリウスよ。よろしくね」

「はい、よろしくお願いします」


 私と同席している女性はアーニャさんと言うらしい。アーニャさんは、二十代前半くらいの女性だ。少しうねった金髪が背中まで伸びている。そして、鮮やかな紅い眼をしていた。服装は白いブラウスに黒いコルセットスカートを着ていて、その上から、黒いマントのようなものを羽織っている。


(この喫茶店のオーナーみたいなこと言ってるし、NPCなんだろうなぁ。最新式のAIで、現実の人と何ら変わりないって書いてあったけど、こんな自然なんだ)


 私は現実世界で読んだ、ゲームのホームページを思い出していた。そこには、NPCは普通の人と変わらないと書いてあった。そして、実際に街を歩いて、NPCと接していて分かったけど、本当に現実の人と変わりなかった。


 アーニャさんは、私を見ながらニコニコとしている。


「ルナちゃんは、こんな所に何しに来たの?」


(自分のお店なのに、こんな所呼ばわりなの!?)


 私は、一瞬驚いたが、すぐに平静を取り戻した。


「えっと、銃を取り扱うお店を探していたんです」


 取りあえず、素直に話してみることにした。今までの感じだと、また馬鹿にされるかもしれない。


「銃?」


 アーニャさんも、面食らっている。やはり、この街には、銃を取り扱う店は無いのかもしれない。


「それで、ここに来たの?」

「どこも取り扱ってないので、路地裏を探索していたんです。そうしたら、ここに辿り着いたんです」

「そうなの。でも、運が良かったわね」

「へ?」


 私は、アーニャさんの言っていることが分からず、首を傾げる。


「ここが、銃を取り扱うお店ですよ」


 アーニャさんの分の紅茶を淹れていたウェイトレスさんがやって来てそう言った。


「そうなんですか?」

「ええ、そうよ。銃が目当てのお客は初めてだけどね」


 ウェイトレスさんがアーニャさんの前に、紅茶を置く。


「私も同席してもいいですか?」

「は、はい、どうぞ」


 ウェイトレスさんも一緒のテーブルについた。


「改めまして。はじめまして、アイナと言います。このお店のウェイトレスをしています」

「ルナです。よろしくお願いします」


 ウェイトレスさん改め、アイナさんとの自己紹介を終えた私は、アーニャさんに質問する。


「あの、銃を取り扱っているって言ってましたが、どんなものを置いているんですか?」

「ん? オーダーメイドよ。私のお店、ヘルメスの館は、完全オーダーメイドの武具屋なの」


 私は、オーダーメイドという言葉に気圧されていた。


(うぅ、高そう。取りあえず、メンテだけ出来るか聞いておこうかな)


「あの、銃のメンテナンスとかは受け付けていますか?」

「ええ、もちろん。今する?」

「いえ、まだ使ってないので」

「そう? う~ん、ルナちゃんってもしかして異界人?」


 私の知らない言葉が出てきた。


「異界人って何ですか?」

「異界人っていうのは、そのままの意味で、別の世界からこっちに来ている人の事よ」

「そういうことですか。それなら、私は異界人ですね」


 私は、異世界人=プレイヤーの事だろうと判断した。


「なら、こっちにずっといるわけじゃないのね」

「はい、ところで、何で私が異界人だと分かったんですか?」


 今までの話の中で、私がプレイヤーだと分かるような事はなかったと思う。だけど、アーニャさんは、私の事をプレイヤーだと見抜いた。だから、疑問に思ったのだ。私の質問に、アーニャさんとアイナさんは、顔を見合わせた。そして、私の方を向くと、微笑みながらアイナさんが説明してくれる。


「ルナさんの服と、先程の話ですよ」

「さっきの話?」


 今度は、アーニャさんが口を開く。


「銃のメンテナンス出来る所を探していたのに、使ったことが無いって言ったでしょ? 普通は使い込んでからメンテナンスを気にする人がほとんどでしょ? でも、異界人達は、使う前にメンテナンスを出来る場所を確認することが多いのよね」

「へぇ~」


(今日が正式サービス開始なのに、私達の知識があるんだ。βテストとかのこと言ってるのかな?)


 そうこうしているうちに、紅茶とケーキを食べ終えてしまった。それに、かなりの時間、ここに留まっているので、そろそろ、街巡りに戻らないといけない。


「そろそろ、行きますね。ケーキと紅茶、美味しかったです」

「はい、それは良かったです」


 店から出る際に、私は振り返った。


「あの、また来ても良いですか?」

「はい! ぜひ、お越しください!」

「今度は、銃の方も見させてね」

「はい! ありがとうございます!」


 私は、笑顔で店を出た。


 ────────────────────────


 ルナが、いなくなった店内。


「ルナちゃんは、よくこの店を発見出来たわよね」

「そうですね。アーニャ様が結界を張っているので、特定の人しか来れない筈なんですけどね」

「それにしても、可愛い子だったわね」

「手を出しちゃダメですよ」

「分かってるわよ。はぁ、早く来てくれないかしら」

「そうですね」


 アーニャとアイナは笑い合いながら、談笑を続ける。


 ────────────────────────


 店を出た私は、路地裏から出て、北通りに向かった。


「運良く良いお店見つけられて良かった。明日も行こう」


 私はこの時から、ヘルメスの館を気に入っていた。上機嫌で、北通りに入ると、東通りとは全く違った雰囲気だった。


「わぁ、大きな施設が一杯。何の施設なんだろう?」


 北通りにあるのは大きな建物ばかりだった。


「えっと、これは宿屋だね。あっちは、銀行? あっ、あっちは図書館だ!」


 本好きの私は真っ先に図書館に駆け込む。本当に大きな図書館だった。現実には無い規模だ。


「えっと、あそこが受付だね」


 入り口からすぐの所にある、受付に向かう。


「図書館のご利用ですか?」


 私に気付いた、受付の女性が声を掛けてくる。


「はい」

「では、利用料として一〇〇〇〇ゴールドを頂きます。こちらは、月一回払って頂くことになります」

「うぐっ! ごめんなさい。お金がないので、また今度お邪魔します」


 初期資金でも、三〇〇〇ゴールドしかないのでお金を貯めなければ図書館を利用出来ないみたいだった。


「かしこまりました。またのお越しをお待ちしております」


 私は、図書館から出て、北通りを一回りした後、西通りに向かった。西には、空き家が沢山あるだけで、めぼしいものは何もなかった。最後に、南にも行ったけど、南には多少だけど人が入った家があった。そして、地図で見たとおり南西には空き地が目立っている。


「これで一通り回ったかな。後は、細かい路地裏とかだし。そろそろ、外に出て戦ってみよ」


 私は、外に出るべく、南の門に向かった。

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