ユートピア・ワールド~幻想的な世界で、私は、私の理想を貫く!~

月輪林檎

第1章 ユートピア・ワールド

第1話 ログイン!!

 VRMMORPGユートピア・ワールド。魔法と科学が発展した世界で、冒険、商売、恋愛、犯罪、様々な事が出来るゲームだ。自由度の高さを売りにしたゲームで、発売前から注目を浴びていた。制作者曰く、『現実にはない夢のような世界を楽しんで欲しい』だそうだ。


 高校受験を終え、後は残った授業と卒業式だけを待つ身となった、現在女子中学生である宵町朔夜よいまちさくやは、このゲーム『ユートピア・ワールド』と起動するためのハードウェアを購入した。


「これが、フルダイブ用のハードウェアなんだ。初めてやるから緊張するなぁ」


 普段、テレビゲームや携帯ゲームしかしなかったので、これが初めてのフルダイブになる。まず、ハードウェアの初期設定から済ましていく。自分のユーザー登録だ。実際に仮想空間に行き、ユーザー登録をする。


「設定終了! ふぅ、後は正式サービス日の明日を待つだけだね。楽しみ!」


 明日は休日。私は、ユートピア・ワールドを、目一杯楽しむために、一通り調べ直してから寝る事にした。


 ユートピア・ワールドの最大の特徴は、プレイヤーレベルがない事だ。このゲームでは、完全にスキルのみで強さが変わる。そして、ステータスは全て隠されている。数値としてはあるらしいが、プレイヤー側からは、一切確認する事が出来ないみたい。そして、最初に世界に入るときに、プレイヤーには、三つのスキルが配布される。もらえるスキルは完全ランダムで、汎用とユニークが存在する。汎用は誰でも得られるスキル。ユニークは、所有者専用のスキルだ。


「最初の段階でユニークが得られれば、かなり有利になるけど、こればかりは運かな」


 最初に作ったアバターが、ユニークを得られなかったからと言って、スキルの取り直しは出来ない。そもそも、ユーザー毎に、アバター登録は一枠だけで、それを消す事自体が出来ない。さらに、ユートピア・ワールドは、サブアカウントを作る事も禁止されているのだ。バレてしまえば、アカウントを永久的に停止される。だからこそ、最初にユニークスキルを手に入れられた人はかなりの強運と言える。


「どんなスキルかな。楽しみだなぁ」


 私は、パソコンの電源を落として、ベッドに入り眠りについた。


 ────────────────────────


 次の日、私は、朝七時に目が覚めた。台所に行き、朝ご飯の支度をする。私の両親は共働きで、今日も働きに出る。そのため、両親の代わりに朝ご飯を作るのだ。


「おはよう、朔夜」

「おはよう、お母さん」


 お母さんが起きてきたので、出来上がったベーコンエッグとトースト、コーンスープを出す。


「ありがとう、朔夜。いただきます」

「いただきます」


 私も一緒に朝ご飯を食べる。半分ほど食べると、お父さんも起きてきた。


「朔夜、おはよう」

「おはよう、お父さん。台所に置いてあるよ」

「ああ、ありがとう」


 お父さんも台所に置いておいた、朝ご飯を持って来て、一緒に食べる。


「そうだ、今日は帰って来れないから、夕飯は自分の分だけでいいぞ」


 お父さんが思い出したように言う。


「うん、わかった」


 いつもの事なので、軽く返事をする。


「明日も休みだけど、ゲームばっかりやっちゃダメよ」

「はーい」


 お母さんの注意を軽く流す。お母さんも、諦めた顔をして、それ以上は言わない。本当だったらガミガミと言いたいところだが、いつも一人にしてしまうのは自分達なので、強く言えないみたい。


「じゃあ、お母さんとお父さんは、もう行くわね」

「うん、いってらっしゃい」


 二人が仕事に行ったので、皿洗いと洗濯、掃除を済ませる。すると、時間は十時になっていた。ユートピア・ワールドの正式サービス開始時刻も十時である。


「もう始まっちゃってる!」


 私は急いで自分の部屋に戻る。ハードウェアを被って、ベッドに横たわり、ユートピア・ワールドを起動した。視界がブラックアウトし、少しして白い光が見えてくる。その白い光は、私を……宵町朔夜を飲み込んでいく。


 周りが白い空間で埋め尽くされた。そこに、ホロウィンドウとホロキーボードが浮かび上がる。私がウィンドウに触れると、目の前に人型が出てくる。


「これが、アバター設定か。う~ん、色々と細かい設定が出来るんだなぁ」


 ユートピア・ワールドのアバター設定は、かなり精緻に出来る。顔の造形をパーツ一つ一つで設定でき、身長、胸囲、腰囲、腕や脚の長さと太さなども細かく設定出来る。


「えっと、あっ、性別は変えられないんだ」


 そう、ユートピア・ワールドは、ユーザー登録での性別で固定される。その理由は、現実との齟齬を起こさないようにするためだそうだ。よく分からないが、長い事ユートピア・ワールドに本来の性別と違う性別でいると、現実に戻ったときに身体の違いを感じ取ってうまく身体が動かせなくなるらしい。ホームページにも、ゲームの説明書にも、本来の性別でゲームを始めてくださいと書いてある。

 もう一つ、なるべくなら、本来の身長でゲームを行う事をおすすめしている。これも、現実に戻った後の齟齬が起こる可能性が高いからだ。


「体型とかは現実と一緒にして、髪とかは少し変えとこうかな」


 本来の髪は、肩口までしかないが、それを背中まで伸ばす。そして髪の色を、大胆に黒から白に変える。


「う~ん、いっそのこと眼の色も変えちゃうかな」


 眼の色を黒から、赤色に変えた。眼と髪を変えただけで、印象ががらりと変わった。


「派手かな? でも、ゲームだし、これくらいはいいよね」


 容姿の設定を完了させて、次の設定に進む。次は、名前の入力だ。


「名前、どうしようかな。う~ん、いつも通り、ルナにしよ」


 キーボードを使い、Lunaと入力する。これは、私がいつもゲームで使う名前だ。名前の中に、夜や朔など月に関連する文字が多いから、この名前にしている。名前の入力で、全ての設定が終わったようだ。


「これで終わりなんだ。武器の選択とかはないのかな?」


 私が疑問に思っていると、目の前に文字が出てくる。


『Welcome to utopia』


 文字が見えた後、すぐに視界がブラックアウトした。


 身体に浮遊感を感じた後、身体の感覚が戻り始める。それは、現実で感じている感覚と何ら変わりない感覚だ。


 感覚的に今の私は、眼を閉じている状態のようだ。ゆっくり眼を開けていくと、視界に映ったのは、自分の部屋ではなかった。そこは、噴水がある大きな広場だった。


「ここが、ユートピア・ワールドの最初の町ユートリアかぁ」


 ホームページには、最初にログインすると、最初の街であるユートリアに転移すると書いてあった。なので、ここがユートリアなのだろう。周りを見回すと次々に、プレイヤーがログインしてきていた。


「サービス開始初日だからか、沢山ログインしてるなぁ。ここだと、邪魔になるし、少し端に移動しよう」


 私は、広場の端の方に避けていった。移動している最中に周りを見ると、広場にいるプレイヤー全員が、メニューを開いて喜んだり、落ち込んだりしていた。割合的には、落ち込んでいる人の方が多い。というか、喜んでいる人は、ほんの数人だ。


「よし、早速、スキルの確認をしよ!」


 私は頭の中で、『メニュー』と念じる。すると、目の前に四角いウィンドウが出てきた。メニューは念じる事で出現し、指で触る事で操作できる。一応、念じて操作もできるけど、慣れが必要みたい。このメニューは、自分以外には、無地のウィンドウにしか見えない。だから、覗き見られることはない。私は、メニューから、スキルの欄を呼び出す。


「何があるかな?」


 メニューのスキル欄には、事前情報と同じく三つのスキルが載っていた。あったスキルは、以下のようなものだった。


 ────────────────────────


 ルナ[冒険者]:『銃術Lv1』『銃弾精製Lv1』『集中Lv1』


 ────────────────────────


「これは、いいものなのかな?」


 私は、三つのスキルをタップする。そうする事で、ユニークか汎用かが分かるのだ。しかし、その詳細までは分からない。スキル自体の使い方は分かるが、それがどのように作用して来るのかは、使ってみないと判明しないのだ。私が三つのスキルをタップした結果、『集中Lv1』以外の二つがユニークスキルだった。


「……やった。運がいい!」


 私は、小声で喜んだ。あまり、派手に喜ぶと目を付けられる可能性が高くなる。実際ユニークを手に入れて喜んでいた人に、絡みに行っている人達もいる。初日にトラブルは勘弁して欲しい。


 私は、スキル確認の後に、武器欄を確認した。武器欄にあったのは、拳銃と言う名前だけだった。


「銃自体の名前がない。実際の拳銃とは違うものって事なのかな?」


 実際に取り出して確かめたいが、ここで出すと目立ってしまうので止めておく。ここで、初めて自分の格好を見下ろしてみた。私の着ている服は、全体的に黒い服だった。見た目は、安っぽいTシャツとハーフパンツという感じだ。


「絶妙にダサい。早めに着替えたいかな」


 お金が貯まったら、すぐにでも服を買え変える事を決心する。


「チュートリアル、まだかな?」


 今はまだ、この広場から出る事は出来ない。サービス開始から二十分後に、チュートリアルが始まるらしく、それまではこの場に留まり続けなくてはいけないのだ。VR空間に慣れる時間をくれているんだと思う。


 広場の端っこにあったベンチで、脚をぷらぷらさせていると、いきなり盛大な音楽が鳴り出した。


「びっくりした……」


 私は、広場の中央の方を向く。そこには、ホログラムで出来た、大きな熊の着ぐるみがいた。


「なんで、熊?」


 私が、疑問に思っていると、熊の着ぐるみがしゃべり出した。


『私の名前は、近衛洸陽このえこうよう。このゲームの開発者の内の一人だ。君達は、今、何故熊の着ぐるみなのか気になっている事だと思う。ただ、私が熊を好きなだけだ。特に深い理由はない』


 ズコーッと何人かのプレイヤーがずっこけた。私も思わず呆れ顔になる。


『だが、一種のメッセージではあるかもしれないな。プレイヤーの君達には、私のように自由であって欲しい。このゲームに、普通のゲームのようなエンディングは無い。無限に進化し無限に続くこの世界で、自由に生きて欲しい。何をするのも自由だ。我々も、君達が退屈しないように度々イベントを用意しよう。それに参加するもしないも自由だ。

 この世界はユートピアと呼ばれるが、現実のユートピアとは、何の関係もない。魔物が存在し、戦争すらも起こりうる。そんな世界だ。この世界で、君達が何を成すのか、楽しみにしているよ。

 最後に、君達一人一人にチュートリアルの案内を配布した。自分の武器の使い方などが載っている。それを、読んでから、この世界を楽しんで欲しい。私の挨拶はこれで終わりだ。今から、この広場を開放する』


 洸陽は、少し溜めてから、大きな声を出した。


『ようこそ! ユートピアへ!』


 その声と共に、広場からの移動制限が解かれた。広場にいた人の三分の二の人達が、広場の外に駆けていった。


「チュートリアル読めって言われているのに……」


 私は、呆れながらもメニューを開いて、アイテム欄を見る。アイテム欄には、拳銃しかなかった筈が、チュートリアルと書かれた一冊の本があった。それを、具象化させる。


「少し薄い気もするけど、これがチュートリアルかぁ」


 チュートリアルをペラペラとめくっていく。どうやら、自分専用のチュートリアルでもあるらしく、拳銃の取り扱い方が載っていた。その他にも気になる項目もあった。


「スキルの取り方か」


 書いてあったのは以下の通りだった。


 ────────────────────────


 スキルの取り方

 任意の行動をとる。スキルの書を読む。NPCに教えてもらう。


 ────────────────────────


 この三つがスキルを得る方法だ。多分だけど、任意行動やスキルの書が、主なスキル修得の方法なんじゃないかな。NPCに教えてもらうっていうのは、どの程度の頻度で発生するイベントか分からないし。


 私は、チュートリアルを隅々まで読むと、ベンチから立ち上がった。


「この世界の基本は分かった! そろそろ、私も外に行ってみようかな」


 周りを見てみると、広場にいるのは、私一人だけだった。


「………完全に出遅れてるね。はぁ、街の散策からしてみよ」


 今から行っても、狩り場の取り合いになるだけと判断し、街を見て回る事にした。

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