第18話 俺たちの結婚を認めてくれ!

そして翌日、ついにその日はやってきた。

勇者太郎は控室で白いタキシードを身にまといソワソワしていた。

とてもソワソワしていた。


(ラスボス子は本当に俺でいいのだろうか)


この男、この期に及んでマリッジブルーまで患っていた。

勇者太郎は意味もなくその場をぐるぐる回り、緊張で震えだす腕を無理やり組んで全身を振動させていた。


「おい、息子よ。出番だぞ!」

「お、おう」


勇者父に声をかけられ、勇者太郎は同じ手と足を同時に出しながら進む。

息子の緊張の様子に勇者父は笑った。


「ははは。何、今更緊張してるんだよ」

「緊張するだろ」


父親に笑われて勇者太郎は少しふてくされた。


「お前は、もう文字通り一国一城の主なんだ。胸を張っていけ。何事も勇気だ」

「そうだな」


そういわれて勇者太郎は一度体を伸ばす。

完全に緊張は取れたわけではないが比較的マシになった気がした。


「……そういえば、親父はなんで国を作らなかったんだ? 思いつかなかったわけじゃないだろ」

「そうだな。確かに考えたこともあった。でも、母さんが俺と一緒に歳をとりたいと言ったんだ。ならその選択肢は―――」

「なしってわけだ」

「そういうことだ」


勇者父はにっかりと笑い言葉を続けた。


「ここから先、お前たちには様々な問題が降りかかってくるだろう。だけどな、お前にはそれを解決する勇気と力がある。だから、大丈夫だ」

「おうよ!」


そして勇者太郎は控室の扉を開けた。

マリッジブルーなんて吹き飛んでいた。


そして勇者太郎はチャペル正面の扉を開けた。

中は赤い絨毯が敷かれ、道を譲るように長椅子が並んでいる。

椅子には勇者母、幼馴染剣士、ほか街の人々が大勢座っていた。中には明らかにモンスターの姿をした者もいる。

勇者が道を進む。周囲の視線を浴びるが、変な気負いはもう感じなかった。

やがて講壇のそばまで来て一度待機をする。


(ラスボス子はこの後か……)


勇者太郎が一息つくとラスボス子の父親がラスボス子を引き連れて現れた。


(おお……)


勇者太郎は感嘆の声を心の中で漏らしていた。

短めに整えられた赤い髪に、彼女の華奢な体にぴったりあう黒いウェディングドレス、宝石のような紅い瞳が勇者太郎を見つめている。

ラスボス子は優しく微笑み、赤い絨毯を進んだ。


「娘を泣かせたら殺すからな……!」


まず先にラスボス子を先導していたラスボス子の父親が、勇者太郎に強力な圧力と一緒にとてもあいさつとは思えない言葉をかけた。

しかし勇者太郎はひるまなかった。


「はい!」


背筋を伸ばし、彼をしっかりと見据え言葉を返した。

その様子に、ラスボス子の父親もなにか納得したようだ。


「そうか、娘をよろしく頼むよ」


その言葉のあと、ラスボス子の父親はラスボス子から離れる。

―――そして、するりと講壇を乗っ取った。


「えー……ただいまから、この結婚式は魔界式で行います。いいか、お前たちー!」

「ひゃっはーーーーー!!!」


沸き立つモンスター側の人々たち、勇者太郎は何のことだかわからなかったのでラスボス子に確認した。


「魔界式ってなんだ?」

「勇者太郎はそれじゃ嫌?」


そういう言い方をされたら勇者太郎も引き下がれない。


「いんや、嫌じゃない」

「よかった。じゃあ、もうちょっと近くにきて」

「おう」


勇者太郎はラスボス子に近づいた。

手を伸ばせば触れられるほどの距離だ。


「勇者太郎」

「ラスボス子」

「行くわよ」

「えっ?」


ラスボス子は一歩踏み込むとありったけの魔力を拳に込めて勇者太郎に叩き込んだ!


「エターナルフォース! 当たったら死ぬ!」

「ごはああああああ!」


ズドンと壁に叩きつけられ、勇者太郎は死んだようにずり落ちた。

ラスボス子の全力の一撃、それは三日三晩をかけて魔力をチャージし術を組み上げることで放つことができる大技だ。

命あるものを16回は殺せる威力、当たったものはまず死ぬ。


「魔界では妻となる相手の全力攻撃をうけきらなければ結婚は認められないのです! おーっと勇者太郎は立ち上がれるのでしょうか!!」

「ひゃっはーーーーーー!」


檀上で実況解説を始めるラスボス子の父親。

それにノせられ盛り上がる会場。


「し、死ぬかと思った……!」


のそりと勇者太郎は立ち上がった。

瞬間的に彼女の魔力を受け入れうまい具合に放出し、物理的な衝撃だけに切り替え勇者太郎は彼女の攻撃を耐えきったのだ。


「勇者太郎!」


ラスボス子は勇者太郎に駆け寄り抱きついた。


「ラスボス子!」


勇者太郎も痛む体を動かし彼女をしっかりと抱き止める。

華奢で、少し柔らかい体をきゅっと抱きしめた。

ややあって、どちらともなく抱きしめ合うのを一度やめる。


「なあ、ラスボス子、人界式の誓いもやっていいか?」

「うん。――――ん!」


そうして勇者太郎はラスボス子と唇を重ねた。長いようで短い時間が過ぎ二人は唇を離した。

そして勇者太郎は会場にいるすべての人たち、モンスター、魔族に向けこう叫んだ。


「俺たちの結婚を認めてくれ!」


一瞬の静寂、しかし次の瞬間には会場は彼らを祝福する拍手と喝采であふれた。


ついにここまで二人はたどり着いたと、勇者太郎と、ラスボス子は幸せそうに微笑み合った。


ここに二人の結婚は認められたのだ。



ハッピーエンド



※あとがき※

ここまで読んでいただきありがとうございます。

結婚って儀式めいていて、本人たちがどうのこうのというより、周囲に二人で暮らし始めるということを認めてもらうものなのだな、というところが今作のラストシーンにつながっています。

種族によって結婚衣装も違うし、様式も違う、でも認めてもらうという意味では同じもの。

こういう共通点を見つけるのってちょっと面白いなと思いませんか?

私は割と思います。各国の言語には必ず「はい」と「いいえ」と「ありがとう」があるとか。ああ、いや話がそれそうですね。

とにかく「俺たちの結婚を認めてくれ」を最後まで読んでいただきありがとうございます!


thank you for reading

鏡読み

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俺たちの結婚を認めてくれ! 鏡読み @kagamiyomi

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