俺たちの結婚を認めてくれ！

第12話 王国の話をしよう

ところ変わって王国。今この国はゴールドラッシュだと湧き上がっていた。

ラスボス子が作り上げたコインメイカースライム―ー俗称コイン３０００倍スライムのせいだった。

このモンスターの発見は冒険者を湧き上がらせ、一攫千金を夢見る冒険者たちは我先にとスライムを狩りまくり、大量のお金を手にしていった。

バランスが絶妙だった。コイン３０００倍スライムはおよそ１６匹に１匹の割合で配置されており、あと一匹倒せばもしかしてお金が手に入るかもと冒険者たちのギャンブル心をくすぐる悪魔のような塩梅だった。

そうして王国の通貨総量は爆発的に増えていった。

お金が増えれば買い物をしたくなるもの。次に冒険者たちは様々なものを買っていった。

そうなると商店などに大量のお金が回り、利益を増やそうとする商人たちは考えた。

もうすぐ戦争が始まりそうなので、食料を独占し、利益を得ようと。

そうして、血で血を洗うような独占と転売が相次ぎ、市場から相場どおりの値段の食料が消えた。食料の値段が２倍から３０倍に増えたのである。

幸いにも教会が炊き出しを行い食事を配布することで市民が飢えることはなかったが、市民の間では王国への不満はたまっていった。

そんな中、王族は自身の飢えに備えるために食料を大量に買い漁った。その行動がさらに市民の怒りを煽ったのはいうまでもない。

冒険者たちはお金がジャンジャン稼げるので、物価が上がっても気にせず、コイン３０００倍スライムを狩り続けた。

その話を聞いた市民も、コイン３０００倍スライムの話を聞きつけ、こん棒片手に３０００倍スライムを探し続けた。

そのことでいざこざが増え、市民や冒険者、王国に住まう全ての住人が今の状況に不満を募らせていった。

とにもかくにも王国の通貨総量はえげつないことになった。リンゴを買うのにカバンいっぱいのお金が必要になるレベルだ。

もう、教会の炊き出しだけでは対処できなくなった。国民は今度こそ飢餓の危機に陥った。

危機に陥ると金を求める、金を求めると危機に陥るという悪魔のループが出来上がっていた。

そんな中、勇者太郎の国に引っ越すと住居の補助を受けることができると噂が流れ始めた。

生活が立ち行かなくなった職人、国民、もともと彼の言葉に共感していた変人は最後の希望とばかりに勇者太郎の国へ移住を行った。

そうして王国から人さえもいなくなった。

そして軍備を確保するための兵士の確保が難しくなった。

彼らに払う給料を１０倍にしても、もはや生活していくのに全く足りなくなっていた。

兵士はみなそろって辞表を出し、コイン３０００倍スライムを狩り始めた。そっちの方が儲かるのである。

そうして悪魔のループは加速し、王国は戦う力を失った。

王国に残った市民はこの事態を無能な王のせいとし、革命を起こした。

彼らの目的は城にため込んだとされる食料だった。無能な王には確かに不満があったが、それよりも食料が欲しかった。

とにかく軍備がボロボロの軍隊は、コイン３０００倍スライムでレベルを上げていた市民たちに圧倒された。

革命は成功。

王国はひっくり返り、新たな王となった男は王国の現状を知りひっくり返った。

もはやこの国の通貨価値はどうしようもないところまで来ていた。

建て直すには莫大な時間が必要だろうと指導者の男は頭を抱えた。

そんな中、勇者太郎の国が不可侵条約を提案してきた。

新しい国王は一秒で勇者太郎の提案を飲んだ。

「ということだ。ラスボス子お疲れ様」

「思ったより時間がかかった。でもこれで前に進める」

「ああ、俺たちが結婚できる国に」

「ええ」

不可侵条約を締結同意の書状を確認したラスボスはにこりと笑みを浮かべた。

一連の流れは全てラスボス子の手のひらの上だった。

人を使い、国の様子を逐一観察し、最適なタイミングで情報や資材を流した。

「まったくいい気味。これで溜飲が少し下がった」

言葉とはうらはらに頬を膨らませてまだまだ怒りの感情をみせるラスボス子。

彼女は勇者太郎に毒を盛った王国に対しもの凄く怒っていた。

激おこであった。

勇者太郎は自分のことで頬を膨らませてくれる彼女を見てラスボス子が愛おしいくなった。

かくして、勇者太郎が国を建国して１０か月後、不可侵条約は結ばれる流れとなった。