俺たちの結婚を認めてくれ!
鏡読み
第1話第 結婚しよう
「うおおおおおおおお!」
勇者太郎は一人ラストダンジョンを駆け抜けていた。
目的はここのダンジョンの主、世界の混沌をつかさどる神を倒すこと。
(見ていてくれ友よ!)
勇者太郎はグレーターデーモンを一本背負いで地面に叩きつけながら一人思う。
仲間は皆事情があって一緒には来れなかった。
(仲間の純朴可愛い系神官と結婚し、パーティを離れていった友よ!)
増援として湧き出てきた悪魔たちをバリツで圧倒しながら勇者太郎の決意は燃え上がる。
(しかも、俺の許嫁の幼馴染剣士までかすめ取った友よ! お前のことは忘れない決してなッ!!)
『勇者太郎、ごめん。あたし、あんたとは一緒に行けない……。だってあたし知っているの、このままあなたのルートを進めば、あたしはあなたをかばって上半身と下半身がバイバイしちゃうってことを。だからごめん勇者太郎、私痛いのいやなの』
勇者太郎に決戦前夜のあの時の言葉がよみがえる。
幼馴染剣士はそのあと魔法使いチャラ男に抱きかかえられて転移していった。
幼いころ木から落ちたためか、『これはゲームだ』とか『太郎ルートが最推し、いやチャラ男ルートも』とか訳の分からないことを言っていた彼女だったが、彼女の決断は勇者太郎に一つのモチベーションを与えていた。
「俺はこの哀と怒りと憎しみを糧にラスボスを倒し、リア充になる!」
実際に深い悲しみはどんな状況でも恐怖に飲み込まれず冷静に対処する心を勇者太郎に与え、相手の背後をたやすく取れるようになった。
強い怒りは攻撃力を二倍にし、憎しみでさらにそれは五倍に跳ね上がっている、しめて10倍である。
自身のストレスで良くも悪くも超強化を果たした勇者太郎を止められる雑魚敵はおらず、彼はいよいよラストダンジョンの最深部、ラスボスの間にやってきていた。
「ふん」
気合一閃、このダンジョンに眠る秘術のカギがなければ開けることができない扉を拳で破壊し、勇者太郎はラスボスの間に押し入った。
部屋は比較的大きく、中央にはお約束とばかりに赤いじゅうたんを敷いた階段と玉座、その荘厳な雰囲気を盛り上げるようになんだかそれっぽい音楽も聞こえてくる。そしてその先に目的のラスボスがいた。
「さすが勇者……よくここまで来た」
澄んだ声が響き渡った。
勇者太郎が構えを作り、相手を見据える。
身の丈より大きなローブ、表情は無表情の仮面で隠されている、一見すると小柄な魔導士か何かだ。
しかし勇者太郎は感じ取っていた。小柄な体格とは裏腹に膨大いや無限にあふれ出るとさえ錯覚する強大な魔力。この相手がこれまでに戦ったことのないレベルの実力者だということに。
「お前がラスボス……! お前を倒して俺はリア充になる! 覚悟しろ!」
「あ、音楽変えますね」
「はい?」
突然ピアノ調のまったりとした音楽が部屋に流れ始める。
戦う前の緊張感はめちゃくちゃになり、残念な言い方だが気分が台無しである。
「やめろよ。戦えなくなる」
「いいじゃないですか―――――」
そういってラスボスは仮面に手をかけ、外した。
何かの制御装置だったのか、強力な魔力はさらに数倍に膨れ上がる。
だがそんなことよりも勇者太郎は自分の目を疑った。
そこには美少女がいた。
紅いルビーのような瞳に、白い肌。整った顔は精巧な人形を思わせる。
しかし彼女の表情は穏やかで暖かい。
彼女の柔らかそうな唇が開いた。
「世界の半分、あげますよ?」
その時、勇者太郎に電流が走った。
(彼女の持つ世界の半分、世界とはつまり人生、つまり彼女の人生の半分!!)
もはやいろいろなことに飢えていたこの男の脳は、都合の良い方向へ彼女の言葉を解釈し、あたかもプロポーズの言葉として聞き取ってしまったのである。
「よし、結婚しよう! 俺は勇者太郎」
「え?あ、はい。私はラスボス子」
勇者とラスボス。
今ここにとんでもない歴史が始まろうとしていた。
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