第23話 利子の祖母

日曜日、私と蒲生さん、高山さんの3人は、私のおばあちゃんに逸話を教えてもらうため、隣町へ向かっていた。


私:「それで、お父さんとお母さんに、利休派になって、みんなに逸話を話したいって言ったんだ。」


蒲生:「えらいね利子ちゃん。私には言えないな。」


私:「お父さんが、私のせいで単身赴任することになったんだけど、頑張れって言ってくれたの。」


高山:「素晴らしいお父さんね。がんばりましょう、利子さん。」


私:「うん。がんばろうね。」


三人は、祖母に挨拶をして、家に上がった。


そして利休派の話をした。


祖母:「利子ちゃんの話は知っているよ。私も利休派の生き残りだからね。」


私:「えっ!」


高山:「そうなんですか!」


祖母:「私はね、この街の織部レン・織田一族と戦っているのさ。でも、まさか利子ちゃんまで利休派になるとは、世の中、わからないものだね。」


高山:「今日は、利休の逸話を教えてもらいに来たんです。ぜひ、いろいろ教えてください。」


私:「おばあちゃんに聞いた逸話、全部、忘れちゃったの。こんなことなら、ちゃんと覚えておけばよかった。ごめんなさい。」


祖母:「なにも気にしなくて良いよ。何度でも話してあげるから。」


私:「ありがとう、おばあちゃん。」


祖母:「じゃあ早速、『心の持ちよう』という逸話を話してあげよう。」


私は、忘れないようメモを取り始めた。


祖母:「利休居士の弟子がね、客と亭主の茶会に臨む姿勢を聞いたの。すると利休居士はいかにもお互いの心にかなうのが良い。でも、かないたがろうとするのは良くない。と言われたの。これは、客と亭主がお茶会で、示し合わせたようにお互いの心が通じ合うことが理想だよという話ね。例えば、未熟な人が相手のことを思ったつもりで、茶の湯の道から外れてしまうと、みんな一緒に誤ってしまうものなのよ。だから、無理に意識をせず、自然と心にかなうよう、お茶会に臨みなさいというお話。」


高山:「この話には、どんな教訓が含まれているのですか?」


祖母:「あらあら、とても良い質問ね。高山さんだったかしら、あなた、将来、大物になれるわよ。」


高山:「そうですか!ありがとうございます。」


祖母:「さて、教訓だったわね。これは場の雰囲気に飲まれ、相手に迎合することを戒めたものなの。茶の湯の場合、お互いに十分な知識があれば、その道を誤ることはないわね。でも未熟な人の場合、その過ちに気付かず、おかしな方向へ行くこともあるわ。だから無理に相手を意識せず、自分らしく自然にしていなさいという教えね。」


高山:「なるほど。」


祖母:「では『侘び茶の極意』という逸話をしてあげましょうね。」


蒲生:「極意!極意だよ、利子ちゃん。」


私:「うん、すごいね。」


祖母:「ある日、利休居士が弟子に言ったの。

茶は美味しく点てましょう。

炭はお湯が沸くように次ぎましょう。

花は野にあるように生けましょう。

夏は涼しく冬は温かくしましょう。

約束の時間には早めに行くようにしましょう。

雨が降っていなくても、雨具は用意しましょう。

お客さんには丁寧に心を込めましょう。

これらを身に付けたなら、利休居士はあなたの弟子になりましょう、とね。」


高山:「なんか、当たり前のような気がしますが、そんなに難しいことなのですか?」


祖母:「さっき『心の持ちよう』の話をしたわね。相手に迎合せず、自然のままでいましょうという話だったけれど。それを踏まえると、この『侘び茶の極意』を何も考えず、自然とできるようになるかしら。」


蒲生:「私には無理です。だって、自然とお茶とかできないもの。傘も忘れるし。」


高山:「なるほど、確かに極意というだけのことはありますね。では、これにはどういう教訓が含まれているのですか?」


祖母:「『侘び茶の極意』では、日々の積み重ねの大切さを言っているの。当たり前のことを当たり前のようにする。そのためには、何度も練習し、努力することが大切なの。お客様がいる時には、おもてなしの心を込めてもてなすけど、お客様がいない時は、適当にしてしまう。それでは『侘び茶の極意』は習得できないわ。毎回、同じようなことでも、少しずつ成長する気持ちで、おもてなしの心を養っていく。そうすることで、本番のお茶会でも、おもてなしの心を発揮することができるのよ。」


高山:「日々の努力。」


私:「難しいそうだね。でも、やりがいもありそう。」


祖母:「利子ちゃんは、成長したわね。もう利休派として一人前ね。あとは、逸話をたくさん勉強して、織部ズム達に負けないようになりましょう。」


私:「うん。」

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