第34話 元の世界に帰れる可能性!?

「それで・・・・・・肝心な話だが、シエラはここがどの辺りか分かるか? 地上までの出口を知ってればいうことないんだが」

「・・・・・・わからない。でも・・・・・・」


 シエラはこの場所がどの辺か分からないらしい。だけど何か情報を出してくれるようだ。


「・・・・・・このダンジョンは魔王様が作った物」

「へぇ~、魔王が。・・・・・・どうやって作ったんだ?」

「・・・・・・詳しくは分からないけど、魔王様の固有スキルって言ってた。・・・・・・誰かからもらったって言ってたんだけど、固有スキルの譲渡じょうとなんて聞いたことない。・・・・・・きっと、魔王様の冗談」


 シエラの話を聞く限り、魔王は俺と同じ転生者だと仮定するとおそらく天使の誰かに与えられたギフトが固有スキルなのだろう。それもダンジョンを作れるような。そんなことができたら魔王ロールプレイングみたいで楽しいかな。でも、シエラが前話してくれた時は、吸血鬼は天使に攻め落とされるところを魔王が助けてくれたと言っていた。このことから、天使と敵対してるともとれる。今はわからないがそう遠くないうちに理由が分かるような気がする。シエラと行動を共にしてれば。

 さらに聞くと、シエラいわく魔王が作ったダンジョンが他にもいくつか建造しているらしい。そしてこのダンジョンは【血涙けつるいの館】という名だしい。意味はシエラも知らないようだ。俺が思うに吸血鬼から連想して血を付けてそうだと思った。そして、ダンジョンの最深部に魔王のアトリエがあるとか。


「・・・・・・そこなら、地上に戻る道があるかもしれない」

「なるほど。このダンジョンを魔王が作ったなら何かしらの転移装置で地上と行き来してる可能性があるか。毎回ダンジョンの中を行ったり来たりするのは骨が折れるからな」


 見えてきた可能性に頬が緩む琢磨を何か言いたそうな顔でジッと見つめてくシエラの視線。


「・・・・・・どうした。地上に出るためとはいえ自分を封印した奴のアトリエになんか行きたくないか?」

「そんなことはない。魔王様には感謝している。それに意味もなくあんなことはしないと思う。それより・・・・・・」

「何だ?」

「・・・・・・タクマの血を吸った時に同時に琢磨の記憶が流れ込んできた。・・・・・・ごめんなさい」


 シエラが頭を下げてきた。そのしおらしい態度にこういう状況になれてない琢磨は、


「そ、そんなの気にしてない。あの時のことを後悔してない。お陰で助かったわけだからな。言いたいことはそれだけか?」

「・・・・・・まだある。記憶の中にいた天使。私たちを襲った天使と同じ」

「やはりそうか」


 シエラの話に出てきた天使の名前がラファエルなんて聞いた時からもしかしてと思った。いろんなアイテムを気前よくくれたのももしかしたら何か仕掛けがあったかもしれない。だが、聖剣は消失したし英雄のマントもガゼル団長を癒すときに渡したままだから今は手元にない。ガブリエルは俺が言ったことだから来たのかもしれないがもしかしたらこれ幸いと監視のために派遣したともとれる。・・・・・・まぁ、厄介払いしたかっただけかもしれないけど。


「タクマも天使のせいで死んでこの世界に来た。復讐したい? それともこんな目に遭わせた奴を見つけ出して制裁したい?」


 記憶を見たってことはあのドジな死に方も見られたのか。それにその後のことも。


「俺にそんなつもりはなかったが、俺の邪魔をするようなら容赦しない」


 まだシエラは気になることがあるのか不安げな表情だ。そんなシエラを見てられず気づいたら頭を撫でてていた。どこか気持ちよさそうにシエラの顔が緩む。


「まだなんかあるのか?」

「・・・・・・元の世界に帰れる方法があるって言ったら帰りたい?」

「なに!? その方法があるのか?」

「わからない・・・・・・でも大分昔に別の次元に渡る方法を魔王様が研究してた」

「そうか、そんなものが。帰れるものなら帰りたいかな。・・・・・・いろいろ変わったけど・・・・・・やり残したことがあるしな(新作のゲームが)」

「・・・・・・そう」


 シエラの表情が沈んだ。そして、ポツリと呟いた。


「・・・・・・私にはもう、帰る場所ない・・・・・・故郷滅ばされた。・・・・・・ひとりぼっち・・・・・・」

「・・・・・・」


 そんなシエラの様子に彼女の頭を撫でていた手を引っ込めると、琢磨は呆れたと言わんばかりのため息を吐くとシエラの額目掛けてデコピンをおみまいした。


「!?」


 あまりの痛さに涙目で「なにするの」と呟くシエラに対して琢磨は言った。


「何がひとりぼっちだ。俺がいるだろう。シエラを助けることに決めた地点で何があっても放り出すことはしない。それに帰る場所がないなら、一緒に来い! 居場所なら俺が作ってやる」


「それって・・・・・・」


 琢磨の言葉に驚愕きょうがくをあらわにして目を見開くシエラ。涙で潤んだ紅い瞳に両手で口をふさぎ喜びをあらわにしてるような。それにほおや耳が赤くなってるような・・・・・・。


「プロポーズ・・・・・・」

「ぶっ!!!」


 言われてみれば聞きようによってはそう聞こえるかもしれない。


「違う! そんな意味はない。ただ、そんな寂しそうな顔を見たくなかっただけだ」

「また、嬉しいこと言った」

「くっ!? もういい。この話は終わりだ」


 琢磨は話せば話すほど墓穴を掘りそうだったので話を終わらせた。顔もカッと紅くなった。シエラは嬉しそうに「プロポーズ・・・・・・プロポーズ」と呟いている。

 その時のシエラの顔はふわりと花が咲いたような笑顔だった。思わず見惚みとれてしまう琢磨。呆けてた自分に気付いて慌てて首を振った。

 なんとなくシエラを見てられなくて見惚れてたことを誤魔化すように「いくぞ」と言った。

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