3分で死ぬ異世界転生
ゆわか
3分で死ぬ異世界転生
今、まさに運命の分岐点に立っている少年。
彼の名前は、羽衣翔太(はごろもしょうた)16歳。
ごく普通の家庭に生まれ、ごく普通に育った、ごく普通の男子高校生だ。
まさか、これから特殊な体験をするとは想像もしていなかっただろう。
いわんや、車に引かれそうになった猫を助けようとして、自分が死んでしまったのだ。
気が付くと不思議な空間の中にいた。
目の前に見目麗しい天使のような青年が立っている。
彼は粛々と、状況を説明した。
猫を助けて死ぬことは翔太の運命ではなかったため、黄泉がえりの儀式を行うこと。
儀式の手順で3分だけ異世界に転生すること。
要するに、転生して3分で死ぬということ。
「まあともかく、例によってチートなスキルをお付けしますので
短い時間ではありますが、無双をお楽しみください」
天使はそう言って、翔太を送り出したが
まあ、どう考えても3分でひゃっはーは無理だろう。
ただ死ぬためだけの異世界転生なのである。
異世界の何とかさんに転生した彼が覚醒したのは
何とかさんが、底なし沼に飲まれようとする間際の事だった。
水面は、もう胸元にまで達していた。
完全に沈んでしまうのに、そう時間はかからないだろう。
翔太として覚醒した何とかさん(面倒なので以後、翔太)は、慌てまくりながらも
天使から与えられたチートなスキルを参照する。
確かにとんでもなくすごいスキルの数々が付与されていたが
この状況を打開できるスキルはなく
もはやこれまでと、あきらめかけたその時。
「大丈夫かい、今助ける!」
猫の特徴を携えた、快活な美少女が現れた。
「こういうのを本当の天使っていうんだぜ、天使」
翔太が心の中でそう唱えた瞬間、沼から何かが現れ、彼を丸のみにした。
そう、3分が経過したのである。
彼の異世界転生は、何も始まらないうちに終わった。
気が付くと、翔太はいつもの通学路に立っていた。
さっきのことは、夢だったのだろうか?
いや、むしろ空想か? ラノベの読みすぎだなと反省しつつ家路につく。
そして・・・
「それで、なぜまた猫を助けて死んでしまうんですか」
麗しさとは程遠い表情を浮かべた彼の者が問う。
「なぜと言われても、反射的にというか、人として当然というか」
問題は、翔太を生き返らせるタイミングが、猫が事故に会う前であることなのは明らかだった。
が、天使は翔太に運命を受け入れる選択を望み、翔太は猫も自分も助かるようにしてほしいと望み、両者は相容れることがなかった。
そんなわけで、翔太はこの後、しばらく異世界3分死出の旅を繰り返すこととなる。
完
3分で死ぬ異世界転生 ゆわか @yuwaka
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