3-14 カーバンクルと撮影機
*
ヒガンたちがカーバンクル諸共、女郎蜘蛛に攫われ、ムカゴも一瞬で鏡の中に飛ばされてしまった。
イツキとホノカはすぐさま捜索に動いた。
女郎蜘蛛と作業服の彼らが人間界を離れていると確認が取れるまで、少々時間を取られてしまった。
イツキの予想では女郎蜘蛛は転移魔法が使えるはずだ。
イツキは狼の魔物であるホノカの背に乗り込んだ。
瞬間、ホノカが駆け出し、風圧が襲う。
十色カラーボールペンをカチリと押し出し、青色の線を空中に引いた。魔方陣だ。
それに手を触れると、
――光が鎮まると、そこは魔法使いらの世界の、昼の階層だった。
その名の通り、太陽は真上に上ったまま一ミリも動かない。
空中に岩が接合されできた巨大な街があった。これがエルフ国。
下界の広大な荒原地帯に家々が並び立っている。下界の全てがドワーフ国だ。
エルフ国の交易が最も栄えている街に降り立った。
市場通りを逸れ、入り組んだ路地に足を踏み入れた時。
布に包まれ、ゴミ箱に捨てられた、赤褐色の毛並みのリス――カーバンクルをホノカが発見した。
死んでいた。
カーバンクルの額の赤い宝石が抜き取られていた。
怒りが静かに沸騰した。
――三年半前に、ルークを亡くした時のことを忘れたことはない。
目を見開き地に伏した彼の姿。
その痛ましい姿を目に焼き付け、二度とそうならぬよう手を尽くすと誓ったはずだ。
だが、実際はどうだ。
今、イツキの両手の上で
イツキは「誰だ?」と呻いた。
「誰がこの子を殺した……?」
怒りと殺意に揉まれながら、不思議と混乱して思考が乱されることはなかった。
カーバンクルの額の奥にあるのは鏡。
カーバンクルは自身に危機が迫ると鏡に逃げ込むが、その機会すら与えず殺した、それが出来たということは、殺した連中がその習性をよく理解しているからか。
ホノカが奥に行くほど窄まる路地の一点に、視線を定めた。
「魔力の痕跡を見つけました。でもこれ、魔法道具を持ってるだけの人間です。追いますか?」
「ああ。でも殺すなよ」
俺が止めを刺すから、という言葉はとうとう音には成らなかった。
復讐するということは、人を殺すということだ。
殺人者と成ったその先、自分はその手でホノカを抱き締められるだろうか……。
イツキは煮立った怒りを溢れさせながら迷ってもいる。
まだ迷う自分の覚悟の無さに辟易して、同時に、迷ってしまう人間性を失ってないことに安堵もあった。
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