備忘録のような小ネタやお題のための置き場所
廃棄物13号
お題:一人称によるキャラクターの自己紹介
ビデオ、回ってるの?
ビデオというか、スマホの録画か。
私。の、テスト?
私が誰がとか、何を言えばいいの?
「これを見ている誰かさんへ。こんにちは。もしくはおはよう、あるいはこんばんわ」
「私はディートリンデ。色々あった末に、化け物になってしまったの」
「あなたは、私のことについてどれだけ知っているのかな」
「何も知らない、かな。まあ、どれでも問題ないよ。これはあくまで、私が私だって分かっているかどうかのためのテストだから。なんでそんなことをするのか、不思議でしょ。アルツハイマー病とか、痴呆症でもなさそうなのにって」
「私、こう見えて転生者なんだ。あなたが知っているていで話すけど、私も、生前の世界から別の世界に生まれ変わったんだ。化物として」
「その化け物が、ちょっと困った種族でね。普通の魔物とかだったらまあ仲間もいたと思うんだけど、その世界で魔物からも排斥されてるような、厄介者の中の厄介者、みたいな存在だったんだ」
「加えて、その化け物は皆転生した人だったんだけど、やがて、本当に化物になってしまうの。心を、失ってしまう。魂が、削れ切ってしまう、と言えばいいかな」
「人らしさを失って、本当に心身ともに怪物になってしまうの」
「…私もまた、その心身ともに怪物になってしまった者の一人。映像では、そうには全然見えないでしょ。身長とおっぱいがでかい、黒い髪の、目を黒い布で隠している女の人が、映ってるはず」
「私達の種族は、まさに怪物みたいな見た目になったり、人間サイズの動物だったり人間よりデカい熊みたいな見た目になったり、普通にヒトのまま化物になりきってしまう人がいるの」
「中には、たくさんの飛行機の部品を竜の形にしたようなのもいたよ。青色の、鋼鉄製の蜘蛛としか例えようのない人もいた」
「話を私に戻すとね。私、それに加えて生前の記憶が殆どないんだ。あったんだけど、忘れてしまったみたい。忘れちゃいけないものから、どうでもいいものまで。幸い、今のところ転生してからの記憶は結構覚えているんだけど」
「だけど、私が生前の記憶で覚えているのは、誰かと約束したの。誰かのための怪物になるって。どんな怪物になりたくてその人のための怪物になりたかったのか、忘れてしまったけど」
「それと、記憶に対しての思い入れがないんだ。単なる記録としてしか覚えてないの。そこに何か意味を見出したり、その思い出に何かしらの感情を浮かべる事が、できない」
「そんなの、想いがない記憶なんて、私は単なる記憶だと思うわ」
「今のことや昔のことを思い出してるんだけど、何も、感じないや」
「だけど、記録すらも失くしてしまったのが、私の生前の記憶」
「だからこうして、録画できそうなものを見つけたら、こうやって自己紹介動画を録画しながら、自分のことを忘れてしまってないかって、確かめているわ」
「それと、転生した後の記憶で一番はっきり残ってるのがあるの」
「誰かが約束したの。必ず私を見つけるって」
「私達、本当に色々あった結果、転生した世界から放り出されたんだ」
「その時に、いなくなる寸前あたりに、誰かが、ううん、覚えている人が私と約束したのを覚えているの」
「この動画はね、私はまだ私だよって、その人に教えながら、私はここにいたって伝えるためでもあるんだ」
「あなたは貴方かな。それとも、関係のない人かな」
「貴方なら持っていきたいなら持って行っていいけど、そうじゃないなら、できれば置いておいてほしいな」
私は録画を停止して、あった場所にそのスマホを置く。
何処かの町。知らない世界の一部。私たちと同じように捨てられた世界。
誰かが私を見つけ出す事を祈って、私は誰かの望んだ怪物として世界から世界へ彷徨い続ける。
妄想の豪邸の中、想像の庭園で踊る女性たちが、私と共に往く。
彼女らにも記憶はなくて、互いの記憶を互いに共有し合って、忘れてはいけない記憶を補完しようとしている。
そこに私の記憶はない。これは私だけの記憶。
その想いが、それを記憶だと思わせてくれる。
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