ツウィートしただけなのに

ゆーり。

ツウィートしただけなのに①




由佳(ユカ)は中学校二年生になり念願のスマートフォンを買ってもらった。 ピンク色のそれを見ているだけで心が弾むもので、彼女が最も興味を持ったのはネットでのやり取りだ。 

一日のかなりの時間をそれに割き、ネットでの充足を目指す。 もちろん学校生活もネットに直結するため充実した日々を送っていた。


“セナ! 今から電話してもいい?”

“いいよ!”


セナとメッセージでやり取りし電話を繋ぐ。


『もしもし』

「セナー! ようやく今日という日が来たね! もう待ち遠しかった!」

『僕もだよ! 凄く楽しみにしてた!』


セナは自分のことを“僕”呼びするが女子だ。 寧ろ自分よりも声が高く可愛らしいところがあるため羨ましかった。 二人は前々から今日遊ぶ予定を立てていて、その最終確認をしている。


「昨日写メで送った通り、私はピンク色でまとめたコーデで行くからね!」

『うん! 僕も昨日言った通り、水色のコーデで行くから! 待ち合わせ場所も、駅前の時計台の下でいいんだよね?』

「そうだよ! 13時に待ち合わせだね。 私はもう着替えているから、あとはお昼ご飯を食べるだけだぁ」

『嘘!? もう準備終わっているの!?』

「うん! セナはまだなの?」

『まだパジャマのままだよ! 急いで準備しなきゃ、いったん切るね!』

「はーい」


電話を切り、外の天気を確認した。 出かけるには丁度いい陽気でテンションも上がる。


―――慌てん坊で可愛いなぁ、セナは。


ツウィッターを開いて早速ツウィートした。 ツウィッターは由佳お気に入りのSNSツールでネット上で人との交流を簡易化することができる。


“今日はSENAと初めて遊ぶの! 楽しみー!”


ツウィートすると早速返信がきた。 この反応の早さもツウィッターの売りの一つだ。


“いいなぁ! 楽しんでね!” “うん、ありがとう! 楽しんでくる!”

“どこで待ち合わせ?” “それは流石に言えないなぁw” “ははwだよねw”

“僕もSENAになってゆーかちゃんと一緒に遊びたい” “そう思ってくれて嬉しい♪”


すぐに来た返信には由佳も即返信をするようにしている。 やり取りが連続的に続いてしまうこともあるが、今の由佳にはそれが心地よかった。 

ちなみに“ゆーか”というのは由佳のツウィッター上での名前である。 楽しく返信をしていると気になるメッセージが届いた。


“本当に会って大丈夫?”


空気を読んでいないような、たった一つのメッセージ。 他が全て肯定的なモノだけにそれは目立ってしまう。


―――冬真(トウマ)さんかぁ。

―――いつも私を心配してくれるよね。

―――嬉しいけど、そんなに気にしなくてもいいのに。

―――確かにセナ以外だと怖いけど、セナには恐怖心が何故かないんだよなぁ。


冬真はいつも頼りになる兄的存在だった。 彼はいつも日常のことをツウィートしている。 彼女持ちでプロフ画像を見る限り爽やかなイケメンだ。 自撮りもよく上げていた。


“冬真さん、大丈夫ですよー! 相手はセナなので!” “そう? 気を付けてね”


冬真もそれ以上は何も言わず、他の人たちに一通り返信すると一階へ降りた。 昼前には家を出るため、朝食と昼食を一緒に済ませるのだ。


「わぁ、美味しそう! 食べていい?」


既に母親が料理を作り終えていた。 出かけることを知っているため重くないものを選んでくれたのだろう。 色とりどりのサンドイッチは持参したいくらいに輝いていた。 


「もちろん食べていいわよ」

「わーい! いただきます!」


頬張っていると母が問いかけてくる。


「そう言えば、今日は誰と遊びに行くんだっけ?」

「え? あ、あー、律奈(リツナ)だよ!」

「律奈ちゃんね。 本当に二人は仲がいいわね。 楽しんできなさい」

「う、うん・・・」


律奈とは学校が一緒で一番仲のいいリア友だ。 だが出かける相手は違うため咄嗟に嘘をついてしまっていた。 もちろん律奈とセナの三人で出かけるわけでもない。


―――流石に、家族には言えないよね・・・。

―――うっかり口にして質問攻めされたら大変。

―――律奈の名前を勝手に出しちゃったけど、よかったかなぁ・・・?

―――早く食べて家を出よう!


今日はツウィッターで知り合った同い年のSENAと初めて会う日だった。 いわゆるオフ会に近いものでネットの人と会うのは初めてでドキドキだ。 

それでも何度もやり取りし、電話で声も聞いていたため恐怖や不安は少なかった。 強いて言うならセナの見た目が分からないところだが、相手は自分のことを知っている。 

メッセージの内容や声の高さから容姿すら想像し、この後の出会いに精神を昂らせていた。 これから大変なことに巻き込まれるとも知らずに――――



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