四つの天を統べる者 ~無能テイマー、口封じに殺されかけるが封印されていた【四天王】を目覚めさせ【魔王】に覚醒。ちょっと待て、俺はスローライフしたいだけなのになんでお前ら世界征服しようとしているんだ~

虎戸リア

第1章:魔王覚醒編

1話:四天王、目覚める


 俺は自分が無能で、底辺で、パーティのお荷物になっているダメテイマーである自覚は十分にあった。


 だから、どんな雑用でもこなしたし、どんなに嫌な事を命令されてもそれに従った。


「おい、ルイン。これ明日までに全部磨いておけよ。あと面倒臭さい手続きも全部お前がやれ」

「ちょっとルイン。イケメンを5人、今日の夜までに用意しなさい。出来なかったらまた魔術の実験台にするわよ」

「裸になってナイフ投げの的になれ。死にかけても治癒してやるから、心配すんな」


 思い出すだけで、嫌になってきた……。


 だけど、俺はそれらをこなした。なぜなら、俺が入っていたそのパーティはとても強かったからだ。

 冒険者にとって最高ランクであるSランクまで登り詰めたパーティ【ブラッドホーク】。そのリーダーである【鷹視のベイグ】は糞野郎だが、希少な鑑定眼系のスキルである【鷹視】を持っており、人が持つ可能性を看破することが出来た。


 結果、集まったのは、他のパーティから追放されるほど人格や言動に問題があるメンバーばかりだった。しかし、彼らは強かった。


 俺もそうして拾われた一人だ。スライムすらもテイムできない癖に、テイマーのジョブ適性しかない俺は、どこのパーティも拾ってくれなかった。だけど、ベイグだけは〝お前にはとんでもない才能があるから使ってやる〟と言ってパーティに入れてくれた。


 そして一年が経った。いつまでたっても俺のそのとんでもない才能とやらは開花せず、ベイグすらも、都合の良い雑用係としか見ていなかった。


 だけど、俺は耐えた。いつの日か……凄いテイマーになれると信じて。


 例えベイグ達が、犯罪に手を染めていることを知っていても、見て見ぬふりをしていた。


 なのに――


「悪ぃけどさ、お前は知りすぎた。とりあえず、死んどけ」


 ベイグがそう言って、剣を抜いた。


 俺の後ろには大穴が、全てを飲み込まんと口を開いている。


 珍しく、ベイグが依頼に俺を連れ出すと言いだした理由はこれだった。


 ここは、古の戦場跡と呼ばれる場所で、まるで火山の火口のような大穴が大地に空いていた。そして、その火口の縁にはまるで生け贄を捧げる為に作ったような祭壇があった。


 見れば足下に黒いシミが残っている。それはここ数年で出来たように見える。


「くくく、知っているかルイン。この大穴の下にはかつて世界を支配した魔王とやらの部下が眠っているらしい。封印されたあとも、しばらくは封印が解けないようにと生け贄を捧げていたとか。まあ大昔の話だがな」


 賢者がそう言って、醜悪な笑みを浮かべた。


「というわけでさ、あたしらの悪事を知っているお前を生け贄に捧げようってことよ? 分かる?」


 女魔術師が俺を見すらもせず、男から騙し取った宝石の指輪をうっとりと眺めていた。


「生け贄ってなんだよ!」

「いやさあ……雑用係ってさ、大体1年ぐらい経つと慣れてくるのか、悪事の証拠を握っているから金寄こせとか言ってくるんだよなあ。知ってるかルイン、雑用係はお前でなんだよ」


 つまり、こいつらは……定期的に雑用係を雇っては、殺してきたってことか。


「ここは気味悪がって誰も来ないし、落とせば誰も気付く事はないからな。丁度良いんだよ。前の三人も絶望しながら落ちていったぜ」

「嘘だ……待ってくれ……俺には才能あるって……あれは嘘だったのか」

「……ああ、


 ベイグは目を逸らしながら、剣を俺へと振った。

 思わず右手で防いだが、腕が深く切り裂かれて、灼熱の痛みが俺を襲う。


 そして、俺はそのまま、大穴へと血を流しながら落ちていった。



☆☆☆



 思えば、ろくでもない人生だった。

 俺は田舎から冒険者になろうと街に出てきた。そして冒険者ギルドの勧めでジョブ適性診断をしたところ、テイマーの才能があると言われ、俺は喜んだ。テイマーは比較的レアなジョブで、上手く活用出来ればどこのパーティからも引っ張りだこになるからだ。


 だけど俺はスライム一匹、ゴブリン一匹すらテイム出来なかった。それがなぜかは分からない。あらゆる方法を試しても無駄だと悟った俺はしかし、冒険者を諦めきれなかった。


 冒険者は命を天秤に掛けている代わりに、短期間でかなりのお金を稼げる。


 勿論、それだけではなく、憧れもあった。子供の頃から聞かされた英雄譚に出てくる英雄達は皆、冒険者だった。だから俺は、英雄になることを夢見て……家を飛び出した。


 だけど俺は最悪の冒険者であるベイグに出会い――結果がこれだ。


 空が小さく見える。どうやら相当にこの穴は深いようだ。


 死にたくない。だけど、無能で底辺な俺でも分かる。


 このまま地面か何かに激突して……俺は死ぬ。せめて……痛みもなく一瞬で死ねることを望む。


 俺の視界に血と涙が映った。


 ああ、悔しい……悔しい。


 きっと、前の雑用係も悔しかったんだろうなあ。ベイグの残酷な嘘に騙されて。

 才能があると信じて。嫌な事をさせられて。


 そして殺された。


「ふざけんなよ……ふざけんなよ!!」


 俺は吼えた。意味がないと分かっても、そうせざるを得なかった。


 その時、俺の声に呼応するように、どこからか声が響く。


「――四つの血を確認」

「――四つの強大な魂を確認」

「――解放条件を満たしたことを確認」

「――盟約に従い……我ら四天王は四番目の四人目の血と魂を持って――復活と為す」


 その途端、俺は力を感じた。


 怖いほどの力だ。身体の奥底から溢れ出るような力だ。


 同時に俺の周りに、四つの影が現れる。それに、これまで感じた事がないほどの力が秘められていることに気付いた。


 だけど俺はなぜか――それがと思ってしまった。


 数年前、俺はテイムの感覚がどういう物かというのをテイマーの教官から教わった。


 第一歩は相手の力――魂と呼んでもいい――を感じるところからだ。

 そうして感じた力……そして魂へと手を伸ばす。


 俺はそれが出来なかった。どれだけ長時間スライムと対峙しようと、どれだけ長い時間をゴブリンと共に過ごしても、感じられなかった力が、魂が――今は感じ取れる。


 だから、俺は無意識で――こう叫んでいた。


「――【テイム】!!」


 その瞬間に俺から光が溢れ、俺の周囲にあった四つの影に光によって出来た鎖が巻き付いていく。


 すぐ下に、地面が迫っている。


 間に合わないっ!!


 そう思った瞬間。


「待ち侘びていたぞ――我が愛しの君よ」


 風を俺は感じた。


 そして赤い何かが俺を、その巨大な手でそっと受け止めてくれた。


 それは赤い鱗に覆われた、巨大な竜だった。頭部にはまるで王冠のようにも見える立派な角が生えており、その眼差しには知性を感じた。


「ふふふ……今度の主様は随分と可愛らしい。結構好みかも」


 俺を黄金色の毛が覆った。それはふさふさとした尻尾で、その先には馬車ほどの大きさの狐がいた。尻尾が九つあり、その顔は狐だというのに、ゾッとするほど美しく……惹かれてしまう魅力があった。


「ああ……またもや光の世界へと来てしまったのか……不運なり。ようこそ安寧なる闇へ、マスター」


 竜の手の上に立つと俺へと、大穴の底に立って、貴族のように腰を折ってお辞儀をしている青年がいた。良く見れば背中にコウモリの羽根が生え、黒ずくめの貴族服に身を包んでおり、肌が死体のように青白い。


「さあ旦那様! 一緒にまた世界の理を変えようよ!」


 大穴の底に降り立った俺の目の前に、光り輝く妖精が現れた。中性的な顔立ちで、これまでに見たことがある妖精と違い、何か仰々しい神官のような服を着ている。


 そして、降り立った俺を囲むように、その四体の魔物が立つと――全員が頭を下げ、声を揃えてこう言った。


「さあ――ご命令を」

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