第7話 賢者の間のクリス
一人で馬車に乗っていると、すごく緊張する。だって、初めてだもん。思ったより揺れるし。
王宮に着くと、従者が扉を開けてくれ降りるのを手伝ってくれた。
ふと前を見ると文官の服を着ている男の人が立っていて、私を見るなり臣下の礼を執っている。
なんか、変な感じ。
文官の先導で国王陛下の謁見の間に着いた。
一般の文官は許可なく謁見の間に入れない。謁見の間で、案内役を交代するために宰相が待っていた。
「キャロル様。どうぞこちらへ」
宰相が緊張しているように見えた。
謁見の間の奥。玉座のさらに奥に賢者の間に続く廊下がある。
薄暗い廊下に入ると、ポッポッと両脇の壁の上の方に光が灯っていく。
どういう仕組み何だろう?
廊下の行き止まりに重厚な扉がある。
前まで行くと、扉が勝手に開いた。
「この扉は、入る資格のない者の前では決して開きません。かく言う私も初めて入るのですが」
宰相は興奮したようにそう言った。
部屋の前でたたずんていても仕方が無いので、中に入ってみる。
部屋の中は、ただっ
中央には幾重にも重なる布が天井から下がっている。
内側から色とりどりの光が漏れていて、素直にキレイだと思った。
『エマ』
なに? 何か聞こえた。
『エマ』
エマ? 私はエマじゃ無いよ。
そう思うのに、なんだか懐かしい。ひどく懐かしくて……。
「クリス」
思わずそうつぶやいていた。
その途端、ぶわっと光が広がる。そして光の塊が私の前に現れた。
だんだんと人の形になっていってる。
眩しくて、本当なら目も開けてられないような光の中なのに、私はその様子をじっと見ていた。
「今は何と言う名なの?」
光の塊は、人の形になりながら訊いてくる。
え……っと、名前。この世界での名前……だよね。
「キャロル。キャロル・アシュフィールドです」
「キャロルかぁ。……っで前の世界での名は?」
前の世界。
「斎藤由有紀です」
私のいた世界の事を知ってる?
「ユウキ。可愛い名だね。でも、この世界ではキャロルって呼ぶしかないかな」
光がおさまった。色素が薄いのかな。少し浮いている。実体というには、何かこうフワフワしている。
「キャロルが私の片割れを連れてきてくれたからね。今日明日中にも実体に戻れると思うよ」
片割れ? 実体に戻る?
どういう事? そう思って、後ろにいるはずの宰相を振り返ると、呆然とした感じで固まっていた。
「け……賢者様」
宰相は、やっとの思いで絞り出したというような声でそう言う。
その声で気付いたように、賢者と言われた青年は私の後ろを見た。
なんだか冷たい感じになってる。
「今の宰相は君なんだね。名は?」
なんだか声まで冷たい。私までちょっと緊張してしまう。
「アーノルド・ムーアクロフトと申します。賢者様」
宰相は跪いて臣下の礼を執りながらそういった。
「あ~。ムーアクロフト公爵の……。現王妃の実家か。まぁ、そうなるよね」
賢者は、ふ~んという感じで、少し考える仕草をしている。
「じゃあ、ムーアクロフト。私に忠誠を誓える?」
「国王陛下ですら、忠誠を誓っております賢者様なれば……」
「ごたくはいいから、誓えるの?」
「身命を賭して、お誓い申し上げます」
宰相様は更にかしこまって、礼を執っていた。
賢者は、その様子を見下ろしている。
「嘘はないようだね。さて、キャロル」
賢者様、私には笑ってくれているけど。偉い人なんだ。
私も忠誠を……とか言われるのかな。身命を賭して……って、命懸けでって事だよね。
怖い。
「いや。君は誓わなくて良いからね」
心の中を読んだように、私に言ってくる。
「私が考えている事、分かるんですか?」
そう言うと、賢者は私の手を取って優しく包んでくれた。
なんか、暖かいものが流れてくる。
さっきまで怖いと思っていたのに、安心してる。
「分かるというか……流れ的にかな? 君、不安そうな顔をしてたし」
賢者はそう言いながら、つないでいる手と反対側の手をちゅうにかざし、どこからともなく椅子を出していた。
「どうぞ。座って」
座る様に促してくれているけど。
良いのかなぁ。宰相様は跪いたままだし、目の前の賢者様も立っている……というか、浮かんでるし。
どうしよう。
「良いんだよ、私たちの事を気にしなくても。女性の様にヒールの高い靴を履いている訳じゃないんだから」
強制的に座らされたけど。足が痛くなってきているのバレちゃったかな?
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