第25話風切り音

 またここか。僕は飽き飽きしながら心の中でため息をついた。三度目ともなればいい加減飽きてくる。と強がってみた。


 三度目の嘲笑と喝采を受ける。徐々にそれらの度合いが上がっていっているのはきっと僕の勘違いではない。


 ここはどこなのだろう。たまにぼんやりと死んだ者はどうなるんだろうと考えることがある。僕は死んだことがないのでわからないが多分死というのは世界の喪失なのだと思う。


 自分が築き上げてきた思考回路、知識、記憶、それらがなくなった時それはきっと死なのだろう。


 だから多分かつての僕はきっと死んでしまったんだろう。僕は地球にいた頃とは違う人間、ではないか、違う生き物なのだ。それが、無性に哀しかった。


 殺生を重ねてきた身だ。いまさら他人の生き死にどうこう言うつもりはなかったが、どうも哀しかった。

 

 水面から顔を出した時のような不思議な感触とともに僕は意識を覚醒させた。


「・・・」


 なにをセンチメンタルになっていたんだ僕は!


 恥ずかしい。ただただ恥ずかしい。中学生の頃に書いていた妄想日記が母親に見られた時より恥ずかしい。


 考えても仕方がないことは考えない。重要なのはこれからどう生きるか、なのだから。


 簡単に思考を切り替えた僕は例の呪文を唱えた。


「ステータス」



————————————

 種族:ゴブリン呪術師シャーマン

 位階 :ゴブリン 班長チーフ

 状態:通常

 Lv :1/40

 HP  : 176/176

 MP :173/173

 攻撃力:49

 防御力:47

 魔法力:51

 素早さ:47

 魔素量:D


 特性スキル:[成長率向上][邪神の加護:Lv4]

[仲間を呼ぶ][指示:Lv2]


 耐性スキル:[毒耐性Lv1]


 通常スキル:[罠作成:Lv2][槍術:Lv1][剣術:Lv2][無属性魔術Lv1][呪術Lv1][瘴気付与]


 称号スキル:[邪神の教徒][同族殺し][狡猾][ゴブリンチーフ]


 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


 

 [無属性魔術Lv1]


 魔法の矢マジックアロー

消費MP20

 MPを使用することで、任意の地点に向けて魔法の矢を放つ。射程、威力は魔法力に依存。


————————————


[呪術Lv1]

消費MP15


 混乱コンフュージョン


 任意の対象を混乱させる。効果時間及び規模は自身と相手の魔法力に依存する。


——————————————



 魔法の矢マジックアローかシンプルに役立ちそうだな。無属性魔術は汎用性がありそうだ。


 魔法の矢マジックアロー自体の消費MPは威力によって変わらないと言うことはどこぞの大賢者が放った魔法の矢と僕の魔法の矢は違う威力で、消費MPは同じと。


 ずるくないですか?これは強くなるしかないな。


 呪術は、うん。デバフ特化みたいだな。役に立つと思う。役に立つと思うけどそれじゃない。はっきり言って地味だ。ウォーキングデッド、バイオハザード、新感染、の中にポツンとジャパニーズゾンビ映画が混じってるレベルで違和感がある。

 

 あと、そんなことだろうとは思ってたけど回復魔法がない。


 ま、邪神の教徒が回復魔法を使ったら倒したラスボスが仲間になるレベルで世界観が崩壊しそうだから仕方ないね。


 そんな重いのかよ。


 ま、いいや。諦めよう。地味に魔素量がDに上がったことを喜ぶとしよう。



 そして、不穏すぎて無視していた瘴気付与。これは絶対にロクな力じゃない。


 召喚した時に邪神が瘴気がどうのと言っていたから、この力は邪神経由で手に入ったのだと思う。


 それだけでロクな力じゃないというのに、さらに腹が立つのはこれが有用だからだ。


 真面目な話、ゴブリンから頂戴したなまくらでは先が思いやられた。得体の知れない力とは言え、剣を強化してくれるのはありがたい。

 


 取り敢えず試し撃ちがしてみたい。流石にボロボロの部下に撃つほど僕は鬼畜じゃないけど、混乱コンフュージョンならいいかな。


 ダメか。これで止めを刺したらまずいかな。


「よし、他人に振ろう」


 族長に直談判してこよう。


 僕は階下に降りて、部下を尻目に外へ繰り出した。そろそろ日が暮れそうだ。


 にしても、いつも思うのだが、小うるさいものである。  


 基本的にこの集落では狩りを行う部隊単位で形成されている。


 つまり、僕と部下たちのような組み合わせがいくつもあり、その頂点に族長の部隊が君臨しているような感じだ。


 とはいえ、形式的には上位のゴブリン全員が族長の部隊に属しているので、そのあたりは曖昧なのだが、下級の者たちに関しては概ねそうだと考えていい。家は部隊ごとに与えられる。部隊に入れない弱いゴブリンは掘立小屋だ。


 僕は端っこの方とはいえ、建物を所持しているけど、下位の部隊になると大抵竪穴住居もどきに住んでいる。


 だからこそ、うるさい。


 肉を食べながら馬鹿騒ぎしている声に、メスを抱いている声。場末の娼館だってもっとマシなはずだ。


 この騒音が嫌で僕は端にしたのだから。


 ま、どうでもいいかな。


 下らないことを考えていた僕の耳にヒュウと鋭い風切り音が聞こえた。


 次いで矢が突き立った竪穴住居もどきから火の手が上がる。


 完全に燃え尽きる前に、矢の雨が降り始めた。


「ギギャガャガャャ!」


 遅れて聞こえてくる悲鳴が僕の思考の点火装置イグニッションキーとなり止まった思考を動かした。


 これは襲撃だ。


「よりにもよって今かよ!」


 全力の罵声を飛ばしながら僕は少しでも安全そうな建物に向かう。


 日は、まだ暮れていない。

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