第19話バトルロワイアル上
よくもこれだけ集められたものだ。僕は不覚にも、密かに感心してしまった。
僕が部下の安全を約束させらると、側近達がそれはいい笑顔で候補者を集め始めた。
集まったゴブリンの数は二十は下らないほどだろう。なに?倍率高すぎない?難関大学とかじゃないんだけど。
集落の空きスペースに集められたゴブリン達+僕を空き地の周りからニヤニヤとしたゴブリン達が眺めている。観衆の方が多いとはこれいかに。
ゴブリンに笑われるのは腹が立つが、落ち着け、僕。奴らは敗者、敗者なんだ。そう。劣った者どもの嫉妬は称賛よりむしろ喜ぶべきことだ。そうだろ?
にしてもゴブリンども、黙れ。うるさい。
選び方は決めていた。これだけ集まるのは想定外だけど、大きな問題ではない。
伝説のアレをやる。今日は皆さんに、ちょっと殺し合いをして貰います。ちょっとにアクセントを置くのがコツだ。これテストに出ます。
ふざけているように見えるかもしれないが、僕は真面目にバトルロワイヤルを行うつもりだ。
この場に選ばれたゴブリン達に大きな戦力的差はないし、大概の場合、運の良い馬鹿と賢い奴が残るはずだ。
見てても楽しいと思うし。
よーし、
「さて、皆さん。ようこそお集まりいただきました。今日私の部下に選ばれた方々にはあなた方の想像できないような武器と食料を勝ち取る権利を得るでしょう」
唐突に話し始めた僕に空き地のざわめきがセミの鳴きの声のような爆音となる。
「なので、今日は皆さんに、ちょっと殺し合いをしてもらいます」
……静まりかえった。あれほど騒がしかった空き地が無だ。これこそ無音。誰もがピクリとも動かない。
そして、集められた候補者の一匹が笑い始めた。大きなゴブリンだ。進化の関係ではなく、生まれつきのものなのだろう。取り巻きの数からして、彼が年少のゴブリンのリーダー的存在なのかもしれない。
ついでその隣が笑い始める。さらにその隣が、さざなみのように広がり、そしてついに僕が笑い、
刺した。
最初に笑ったゴブリンの喉にナイフを突き立てた。
「クヒュウ」
と、過呼吸になったかのように掠れた息を立てながらよろめくように崩れ落ちる。
ちょっと嫌な気分だがまあ良い。
「悪いな」
呆然としている隣のゴブリンに声をかけた。
「面白そうな奴だったのに」
怯えたようにゴブリン達が2、3歩下がる。異常者を見る瞳の中にそろそろ見慣れた僕の新しい顔が映っていた。新しい顔ってどこかのパン男かよ。
それもまあいい。では、もう一度。
「今日は皆さんに、ちょっと殺し合いをしてもらいます」
動かない。ゴブリン達に手を振って殺し合いを始めるように促す。
「さあどうぞ、森に隠れても隣のゴブリンを殴りつけてもいい。とにかく、日が暮れるまで殺し合いなさい」
ゴブリン達がお互いの顔を見合わせている。どうすればいいのかわからないのだろう。
お互いを見て、そして僕を見た。一番強かったであろうゴブリンを、同族をなんの躊躇いもなく殺したゴブリンを。
ようやく目に殺意を宿らせたゴブリン達が一歩踏みで、
「ちょっと待て!」
ようやく、待ちわびた制止の声が掛かった。
振り返れば、そこにいるのは例のゴリラみたいなゴブリン。
「なにか?」
僕は素知らぬ顔で聞き返した。
「なにか、だと?逆に聞こう。どういうつもりだ?」
「どういうつもりもなにも、殺し合いをさせるつもりですが」
はっきりとわかるほどゴブリンの顔が怒りに歪む。
「バラボス様のご命令を忘れたのか!」
「まさか」
この茶番に内心うんざりしながら笑顔で答えた。
気分はアレだな。笑点で座布団出す役の人。
「『部下を死なせるな』とのご命令でした。ここに集まっている者たちは私の部下ではありません。よって、死なせても問題ありません」
「詭弁だな」
図体に見合わない冷静さを取り戻したゴリラは即座に否定した。
「そもそも、バラボス様は同族を殺すなと命じたのだ。部下以外でも死なせてはならん」
ふむ、と顎に手を当てて考えるフリをする。
「では、こういたしましょう」
足下から大きな皮袋を持ち上げた。
「降参した者には、ここにある木の実をぶつけることとします」
そう言って僕は大きな袋から木の実の詰まった袋を取り出す。
「木の実はぶつけると取れにくい汁が体に付着します。これで敗者が分かるでしょう」
要はペイント弾のような物だと思えばいい。
「降参しなかった者は?」
「己の弱さを認められない弱者になんの価値があるでしょうか」
これは質問への返答であると同時に自分への戒めであった。
僕は強くなった。この場に集まったゴブリン達がサイゼリアだとしたら、多分僕はロイヤルホストくらいにはなれただろう。
しかし、族長や目の前にいるゴブリンなどと比べれば、僕と部下候補たちの差などないに等しい。
強者を過剰に恐れてはならないが、弱さを忘れてはならない。
「その言葉、決して忘れるなよ」
鼻で笑ったゴリラゴブリンは悠然と背を向けた。
忘れないよ。強くなるまではね。
「さて、皆さんにはちょっと殺し合いをしてもらいます」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます