第10章 6 終焉の宴

「父上、大丈夫ですか?しっかりして下さい。」


オスカーは倒れているフリードリッヒ3世を助け起こし、身体を揺すぶった。


「うう・・・。」


すると国王はゆっくりと目を開け・・オスカーを見ると言った。


「オスカーか・・・何だか私は・・随分と長い夢を・・・見ていた気がする・・。まるでずっと夢の中に・・囚われていたかのような・・・。」


「父上・・・。」


オスカーは言葉を詰まらせながら俯いた。フリードリッヒ3世はオスカーの手を借りながら立ち上がった。


「陛下・・大丈夫ですか?」


私が声をかけると、フリードリッヒ3世は驚いたように私を見た。


「おお・・・もしやそなたはアイリス殿か?」


「はい、そうです。アイリス・イリヤです。陛下。」


「そうかそうか・・まだそなたに会った時は小さな少女だったのに・・・いつの間にか美しい女性に成長していたのだな。しかし・・今ここにそなたがいると言う事は・・?」


するとオスカーが言った。


「父上。俺はアイリスを愛しています。そして・・彼女も同じ気持ちでいてくれています。なので・・このまま彼女とは婚約関係を続けていきたいと思っております。いいよな?アイリス。」


オスカーは優しい笑顔で私を見つめる。


「ええ。勿論です、オスカー様」


私もオスカーに笑顔で答えた―。





 その後・・・。


フリードリッヒ3世が正気に戻ったと言う事を聞きつけた城の兵士たちが一斉に集まり・・彼は玉座に座ると、自らの言葉でオスカーの廃太子の宣言を解き、改めて王位継承者として認める事を城中の人々に宣言した。その人々の中にはオスカーと共にレジスタンスとして戦った、シモン達の姿も当然あった。

そしてその日のうちにフリードリッヒ3世に憑りついた悪魔をオスカーが倒し、彼を正気に戻した・・・とう話しが国中に知れ渡り・・イリヤ家の見張りをしていた兵士たちも全員城に引き上げてきたのだった・・・。



****


 この日、ウィンザード城では国中をあげての祝いの宴が開催された。私も城に呼ばれた父と母と再会し、互いに喜びを分かち合い・・何故かそのまま両親は『リオス』へと帰って行った。



 そして夜も更けてきた頃・・・。


私は1人宴会の会場を抜け出し、ウィンザード城の園庭に来ていた。美しい噴水が見えるベンチに座り、夜空を見上げると満天の星が輝いている。

私はそっと右手にはめた指輪に触れた。


「アスター・・・。」


あの時・・オスカーを生き返らせる為に・・私の中にほんの僅か残されていた女神の力を全て使い切った時、頭の中にアスターの声が聞こえてきた。


《 さよなら、アイリス・・・。 》


アスターは・・・完全にこの世から消滅してしまった。何故ならこの指輪をはめた手で相手に触れても、もう何も心の声が聞こえなくなってしまったからだ。


「アスター・・・。」


気付くと名前をポツリと呟いていた。70年前の世界を生きた時・・流刑島に流されて一人寂しく人生を閉じるはずだったのに、ずっと私の傍で寄り添ってくれていた大切な私の精霊。でも・・もう二度と・・会う事は・・無い・・。

どうしようも無い淋しさで胸が押しつぶされそうだった。


その時―


「アイリス、随分探した。ここにいたのか?」


茂みの中から現れたのは私の愛する男性・・オスカーだった。


「オスカー様・・・。」


「アイリス、こんな薄着で夜風にあたって・・寒くないのか?」


言いながらオスカーが肩を抱き寄せてきた。確かに今の私は夜会用の袖の無いドレスを着ていた。一方のオスカーはウィンザード家の軍服を着ている。


「はい、大丈夫です。ワインを飲んでいるので身体は温まっています。」


「そうか・・。」


そしてオスカーはますます私の肩を抱き寄せてきた。


「「・・・。」」


少しの間・・私とオスカーの間に沈黙が流れたが・・やがて私は口を開いた。


「・・何故、何も聞かないのですか・・?」


「聞く?何をだ?」


「私の正体・・・見たのですよね・・?」


「・・・見た。あの悪魔は・・人間の力では到底倒せなかっただろう。お前以外は・・。」


そうか・・・やはりオスカーに見られていたんだ・・。


「それに・・一度は死んだ俺をこの世に再び蘇らせてくれたのも・・お前だろう?」


「!」


「お前には・・・いつも助けられてきたな・・・。『リーベルタース』の町が今も・・自由都市としてこの世に残っているのは・・アイリス。すべてお前のお陰だ。」


「え?!」


私はオスカーの言葉に驚いた―。



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