第9章 4 結ばれた夜
その日の夜、隠れ家では長テーブルを挟み、20人前後のレジスタンス仲間が集結し、ささやかな宴が催された。リーダーであるオスカーがいる。そして人質となっていた私も無事に揃い、これでもう何も恐れること無く王家に反旗を翻せる時がやって来たと誰もが嬉しそうにお酒を酌み交わしていた。
そんな中に私も加わり、ワインを飲みながら上座に座るオスカーをチラリと見た。
オスカーの周りには彼を慕うレジスタンスの仲間が集まり、楽し気に話をしている。その姿は私が前世で知ることの無かったオスカーだった。
「・・・。」
私は黙ってオスカーが子供の様な笑顔で仲間たちと笑いあっている姿を信じられない思いで見ていた。・・・一体、前世の私はオスカーの何を見てきたのだろう?ひょっとすると・・・アスターが私の人生をやり直しさせる為にタイムリープさせたのは・・オスカーの真の姿を見せる為だったのだろうか・・?そっと指輪に触れてみても指輪からは何の反応も得られない。ひょっとすると・・まだアスターは傷が癒えずに精霊界に戻っているのだろうか・・?
その時―。
「アイリス様、大丈夫ですか?」
隣に座るユリアナが声を掛けてきた。
「え?ええ・・大丈夫よ。」
「ですが・・先程からあまりお食事を召し上がっておられないようですから・・。それともお口に合いませんでしたか?」
私達のテーブルの前には一体これ程の食事をどうやって用意したのかと思われる程に様々な料理が乗っている。
チキンのグリルにローストビーフ、魚介のスープにサラダの盛り合わせ、そしてサンドイッチ・・等々、どれも味は絶品だった。
だから私は笑顔で答える。
「いいえ、そんな事無いわ・・・どれもとっても美味しいわ。」
「さようでございますか・・・ではやはりお疲れなのですね?では入浴されて疲れを取りますか?ここならバスタブに浸かることも出来ますよ?」
お湯に浸かれる・・・それはとても魅力的な言葉だった。
「ええ・・ではお願いできるかしら。」
「はい、すぐにご用意しますね。ではこちらへどうぞ。」
私はユリアナに連れられてバスルームへと向かった。
****
「アイリス様、お湯加減はいかがですか?」
ドアの向こうからユリアナが声を掛けて来る。
「ええ、大丈夫。とても良いお湯だわ。」
バスタブに身を鎮めながら私は答えた。・・・それにしても何日ぶりのお風呂だろう。今までの身体の疲労が全てお湯に溶けていくように感じられる。
「では、ごゆっくりどうぞ。着がえを置いておきますので。」
「ええ、ありがとう。」
そして私はその後もバスタイムを楽しんだ―。
約30分後―
ユリアナが用意してくれたナイトウェアを着用し、ドアを開けるとそこには何とオスカーが立って待っていた。オスカーもお湯を使ったのか、さっぱりした姿をしている。
「あ、あの・・オスカー様・・な、何故こちらに?」
「ああ。念の為に見張っていたのだ。父の悪魔の力は底が知れない。いつ、どんな手段で襲ってくるか分らないからな。」
「・・・!」
その言葉を聞いて私はゾクリとした。そうだった・・・フリードリッヒ3世は・・闇の中を自由に行き来できるのだった。思わず身体が震えてしまう。
「・・どうした?アイリス・・寒いのか?身体が震えているが・・。」
オスカーは心配げに私の肩を抱き寄せてきた。オスカーの腕の中はすごく安心できる。瞳を閉じて安堵のため息をつくと、ますます強く抱き寄せられた。
「もう休んだ方がいいだろう。お前の部屋を用意してあるから案内してやる。」
「・・・有難うございます。」
案内された部屋は床も壁も全て木で出来た小さな部屋だった。しかし、用意されたベッドは立派なもので、レジスタンスの皆の気遣いを感じる。
部屋に置かれたアルコールランプの炎が揺れて部屋をオレンジ色に照らしている。が・・・揺れる炎に映し出される影が・・あの時ユリアナの影から現れた国王を思い出してしまう。
「・・・。」
再び、震える私をオスカーが声を掛けてきた。
「どうしたんだ?アイリス。」
「あ、あの・・・影が・・・。」
「影?影がどうした?」
「以前陛下が・・・影の中から現れてきたことがあって・・その時の事を思い出して・・・。」
「アイリス・・。」
「お、お願いがあります・・。一緒にこの部屋にいてもらえませんか・・?」
「!」
途端にオスカーの身体が硬直する。自分で大胆な事を言っているのは自覚していたが・・それ以上に恐怖の方が勝っていた。
「分った・・・。その代り・・・・。」
オスカーは私の顎をつまみ、口付けして来ると言った。
「いいか・・・?お前を俺の物にしても・・・。」
オスカーは私を愛してくれている。そして私も・・・オスカーを愛してる。
なので黙って頷くと、オスカーは私を軽々と抱き上げ、ベッドまで運ぶと覆いかぶさって来た。
そしてこの夜・・・私は耳元で愛を囁かれながら、オスカーに抱かれた。
前世では手を繋ぐことすら無かった私とオスカー。
だけど今は・・・。
私はオスカーの腕の中で・・・幸せに酔いしれた―。
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