第7章 1 隠し扉

「アイリス様、夜で足元が暗いのでお気をつけ下さい。」


「ええ、分かりました。」


カンテラを手にしたシモンに案内されながら、私たちは狭い路地裏を歩いていた。どこもかしこも似たような建物が立ち並んだ路地裏は私一人では迷って、これから向かう隠れ家にたどり着くこと等出来ないだろう。

細い道を何回も曲がりながら、私たちは古びた石造りの家にたどり着いた。


「ここが・・隠れ家なの・・?」


するとシモンが答えた。


「いいえ、この建物は単なるダミーです。私たちの本拠地はこの地下にあります。」


シモンは家の鍵をガチャガチャと開けながら説明した。そして鍵を外すと、シモンはドアを開けた。


ギイイイ・・・・・


さび付いた音を響かせながらドアが開かれると、部屋の中はがらんどうだった。

月明りでかろうじて照らされた室内は天井や壁の至る部分に蜘蛛の巣が張られ、板張りの床にはほこりがたまり、かび臭い匂いもする。暖炉はもう何年も火を起こしていないのか・・灰がたまり、中が見えなくなるくらいの蜘蛛の巣が張り巡らされている。


「う・・・。」


私は思わず埃とカビの匂いにむせ、鼻を押さえてしまった。70年前もに似たような環境で1人で暮らしていたが、ここ最近贅沢な暮らしをしていたせか、私の身体は随分やわになってしまっていたのかもしれない。


「アイリス様。大丈夫ですか?本来なら掃除をするべきなのでしょうが・・われらの隠れ家はあくまでもこの家の地下にあり、空き家扱いになっているのです。なので掃除をするわけにはいかないのです。」


シモンが申し訳なさそうに言う。


「いえ、そんな事は全く気にしないで下さい。それより、この家のどこに地下室があるのですか?」


するとシモンは2階へ続く階段へと向かい、しゃがみこんだ。するとよく見ればその階段下には小さな穴が開いていた。シモンはポケットから扉の持ち手を取り出すと、穴の中にはめ込んだ。


カチャリ


小さな音とともに持ち手は穴にピタリとはまり、シモンは持ち手を掴み手前に引くと、そこに地下へと続く階段が現れたのだ。


「まあ。・・・こんなところから地下室へ行けるなんて・・・。」


私は思わず感嘆の溜息を洩らした。


「ええ、恐らくウィンザード家の者たちはこの隠し階段を見つけることは出来ないでしょう。第一、この持ち手がない限りは開ける事すら出来ません。」


シモンは笑みを浮かべて言うと、再び持ち手を穴から引き抜くとポケットへしまった。


「アイリス様、私は足元を照らしておきますので、先に階段を下りてください。」


シモンは私を振り返ると言った。


「分かったわ。」


頷くと、身をかがめて階段下の隠し階段を数段降りた。それを見届けていたシモンもカンテラを階段の上に置くと、私の後に続き階段を数段降りて中から隠し階段へ続く扉を閉じた。そして私を見ると言った。


「この隠し扉は中からも開けられることも出来ます。では・・地下へ降りましょう。」


シモンはカンテラを持つと、私の前に立って階段を降り始めた。そして私もそのあとに続く。足元に注意しながら、階段を20段ほど降りたところで、地下が徐々に明るくなっていくことに気が付いた。


「明るくなってきたみたい・・。」


ポツリと呟くとシモンが言った。


「ええ。地下には仲間たちが集まっていますからね。勿論アイリス様もご存じの仲間たちですよ。」


シモンは笑みを浮かべると言った。


「もうすぐ隠れ家に着きます。行きましょう。」


「ええ。」


そして私たちは階段を降りきった―。



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