第7章 2 地下のアジト

「アイリス様っ!シモン様っ!」


私とシモンが地下通路に降り立つと、腰から長い剣を下げた青い髪の男性が足音を響かせながら駆け寄って来た。


「貴方は確か・・・。」


「はい、アルマンゾです。」


「良かった・・・無事だったのですね・・。」


ため息をつきながら言うと、アルマンゾが言った。


「心配して下さったのですね・・?ありがとうございます。ヘルマンも無事ですよ。」


アルマンゾが後ろを振り返りながら言うと、足音と共に黒髪の若者が現れた。


「アイリス様・・よくご無事でここまで来られましたね。」


ヘルマンが笑みをたたえながら言うが、私の心は浮かなかった。


「私は無事でしたけど・・オスカー様が・・。オスカー様は私を逃がす為に囮になって・・・私よりも一番危険な立場にあったのに・・・。」


「アイリス様・・・。」


ヘルマンが沈痛な表情で私を見ている。


「アルマンゾ、ヘルマン。他の仲間たちはどうした?まさか捕まってしまったのか?」


シモンがキョロキョロ辺りを見渡しながら尋ねた。


「いえ、彼らは様子を伺いに王宮に向かいました。」


ヘルマンが答える。


「・・・そうか・・無事に戻って来てくれれば良いが・・・。」


シモンが不安そうな表情を見せている。・・・やはり今の王宮はそれだけ危険な場所になっていると言う事なのだろうか?


「アイリス様、お疲れでしょう。あちらの奥の部屋に長椅子がありますので、そこで休まれた方が良いでしょう。」


アルマンゾが声を掛けてくれた。


「ありがとうございます。お心遣い感謝いたします。」


助かった・・口に出せずにいたが、本当は立っているのも辛いくらい疲労困憊していたのだ。


「ではご案内しますね。」


アルマンゾが壁に掛けてある明かり取の為の松明を1本抜き取ると言った。

私たちはアルマンゾを先頭に通路を歩き始めた。そこで私は驚いた。外から見た時は小さな建物にしか見えなかったのに、いざ地下に入ってみれば、そこは入り組んだ迷路のようになっているのである。そして各通路には松明が等間隔にともされている。


「すごいですね・・地下にこんな隠れ家があったなんて・・」


私はあたりを見渡しながら言った。


「ええ、ここは・・・私たちが何年もかけて作り上げた隠れ家・・アジトです。ここは緊急事態時に使用するために用意したのですが・・・まさかあの集落が陥落してしまうとは思いもしませんでした。」


溜息をつきながらシモンが説明してくれた。

その直後、アルマンゾが足を止めると、目の前にはドアがあった。アルマンゾはノブを回すとドアを開けた。


キイイ・・・


地下通路にドアの開閉音が響き渡る。


「アイリス様。どうぞお入りください。」


アルマンゾに促され、部屋の中へ入ると、そこには大きなテーブルが置かれ、長椅子が向かい合わせに2脚置かれている。まるでちょっとした客室の様であった。

部屋の中へ足を踏み入れた私は、長椅子に座ると、向かい側の席にアルマンゾとシモンが座る。


「アイリス様、今お茶をお持ちしますね。」


ヘルマンはにっこり笑うと部屋を出て行った。


「フウ・・・。」


ようやく座ることが出来た私は思わずため息をついてしまった。


「大分お疲れのようですね。アイリス様。この部屋以外にオスカー様の寝室として用意しておいたお部屋がございます。お茶を飲まれたら、今夜はその部屋でお休みになられた方が良いでしょう。」


シモンが気づかわし気に声を掛けてきた。


「ええ・・・ですが・・。」


私はアルマンゾとシモンを交互に見つめた。

どうしても・・彼らに尋ねたい事が私にはあった―。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る