第4章 1 城の地下迷宮
ひんやりとした薄暗い石造りの回廊・・・天井も壁も床も全て石で出来ている。窓はなく、明かりと言えば壁に等間隔に取り付けられている松明のみだった。
辺りに良く響く足音を立てながら私の前を歩くオスカーが声を掛けてきた。
「アイリス。大丈夫か?」
「は、はい・・・大丈夫です・・・。」
息を切らせながらも、私は何とか返事をした。
今私達は王宮の地下回廊を歩いてる。ここの地下回廊は王族でも高い地位のある、ほんの一握りの人物しかこの場所の存在を知らされていない。また、仮に普通の人間が足を踏み込めば、途端に道に迷ってしまう迷宮になっているそうだ。そしてこの迷宮には王家の紋章が刻み込まれた者のみに出口を指し示すと言う。
「俺は生れてすぐに魔術師たちによって右腕に紋章を植え付けられたと聞いている。」
オスカーは自分の右腕をまくるとそこには不可思議な模様が描かれ、青色に光り輝いている。
それは・・・・とても美しい光だった。
「綺麗・・・。」
私はオスカーの腕を見て思わず呟き、慌てて口を閉じた。何故ならオスカーがぽかんとした顔で私を見つめていたからだ。
「も、申し訳ございません。このような緊急事態の時に妙な発言をして・・・。」
慌てて謝罪するも、オスカーは怒った素振りもなく、フッと笑みを浮かべると言った。
「そうか・・・アイリス。やはりお前は青い色が好きだったのだな。選んだドレスも青だったし、今も俺の腕の光を美しいと言って・・・。」
「は、はい・・・。青は好きです・・。海の色だから・・・。」
「海か・・・。」
するとオスカーは何を思ったか、私の頬に両手を添えて顔を近づけた。
「な、何をするのですか?」
今迄オスカーの方から、これ程の至近距離で近付いてこられた事のない私は戸惑ってしまった。
オスカーは私の瞳を覗きこみ、よく通る声で言った。
「アイリス・・・お前の瞳はコバルトグリーンだが・・・海にもそのような色があるな・・。お前は・・海が好きなのか。俺と・・・一緒だな。」
オスカーの瞳には戸惑った私の顔が映りこんでいる。そして・・私を見つめるその瞳は・・・酷く優し気だった。
「あ、あの・・・オスカー様。先を急ぎませんか・・?いつ追手が来るか分かりませんので・・。」
私はオスカーの手から逃れるように言った。
「ああ、そうだったな。急ごう。」
そして私たちは再び、黙々と歩き始めた。
どれくらい歩き続けただろうか。突如、オスカーが足を止めた。そこは行き止まりとなっている。
「そんな・・・行き止まりなのでしょうか・・・?」
私は絶望的な気持ちになった時、オスカーが言った。
「いや。これは行き止まりでは無い、着いたんだ。」
「え・・?」
着いた・・?でも何処に出入り口は見つからない。すると、何を思ったかオスカーが自分の光る右腕を石の壁に近付けた。すると・・・。
ゴゴゴゴゴ・・・・・
鈍い音を立てて、目の意前の石の壁が左右に開いていくでは無いか。
「こ、これは・・・・。」
私は息を飲んだ。壁は何処までも開いていく。そしてついに大人がゆうに3人は並んで通り抜けられる程の大きさに開いたのである。
出口が開いた先には、青空の下で緑豊かな自然が広がっていた。遠くには美しい白亜の城が見える。
私達は無言で迷宮から外に出た。
「あれが・・・城だ。」
オスカーは指さすと言った。
「お城があんな遠くに・・・!」
私が思わず呟いた瞬間・・・
ゴゴゴゴゴ・・・・
低く鈍い音を立てながら、石の壁は閉ざされた―。
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