第1章 11 流れ込む思考
「でもここへ連れて来てくれたのは貴方ですものね。ありがとう、レイフ。」
私はニッコリ微笑んでレイフを見た。
「あ、ああ・・。幼馴染として当然だからな。」
何故かレイフは耳まで真っ赤にしながら横を向いた。すると今まで黙って様子を見ていた白衣の女性が言った。
「どうするのかしら?まだ入学式は終わっていないけど・・今から行けば一番後ろの席なら参加できるけど?」
それを聞いて私は少し考えた。そう言えば70年前の入学式でタバサ・オルフェンと出会ったのだっけ・・・。そしてタバサは式が終わった直後にオスカーと初めて顔を合わせて・・。
「出ます。」
私は答えた。
「え・・?お前まだ顔色が悪いけど・・大丈夫なのか?」
レイフが心配そうに声を掛けてきた。
「ええ、大丈夫よ。それに大事なアカデミーの大事な入学式を欠席するわけにはいかないもの。」
私はベッドから起き上がると足元に揃えられていた靴に足を通した。立ち上がった時、一瞬グラリと身体が傾いた。
「おいっ?!大丈夫かっ?!」
咄嗟にレイフが正面から身体を支えてくれ、私はレイフの腕にしがみつき、思った。
レイフ・・・貴方は何所まで私の見方でいてくれるの・・?さっきはオスカーの事をあんな風に言っていたけど・・貴方はいつまで私の見方でいてくれるの・・?
すると直後に頭の中に声が流れ込んできた。
<アイリス・・こんなに顔色が悪いのに本当に入学式に出るつもりか?休んでいればいいのに・・。本当に生真面目だな。>
「え?レイフ。今何か言った?」
私はパッと身体を離し、顔を上げてレイフを見た。
「ん?大丈夫かって尋ねたけど?」
「ううん、その後よ。」
「いや?別に何も言っていないが?」
レイフは心底不思議そうに私を見ている。
「え・・?聞き間違いかしら・・・?」
私はその時夢の中の話を思い出し、右手の指輪を見た。そう言えば夢の中で誰かが言っていた。指輪をはめた手で心の奥を知りたい相手に触れると、相手の思考を読めるようになり、物に触れるとその物の過去の記憶を見る事が出来る不思議な指輪をプレゼントしたと。
まさか今の声はレイフの心の中の・・・?
私が黙り込んでしまったのを見てレイフが声を掛けてきた。
「どうしたんだ?アイリス。入学式に行かないのか?」
そこで初めて我に返って私は改めてレイフを見上げた。
「い、いえ。行くわ。入学式・・。」
「そうか、よし。行こう。」
言いながらレイフは笑顔で手を差し伸べてきた。
「・・・?」
戸惑っているとレイフは一瞬妙な顔つきをしたが、私の右手を握りしめてきた。
「え?な、何を・・?」
戸惑っているとレイフが言った。
「何って、お前まだ顔色が悪いから連れて行ってやるんだろう?ほら、行くぞ。どうもお世話になりました。」
レイフは白衣の女性にお礼を言ったので、私も慌ててお礼を言った。
「どうもありがとうございました。」
「お大事にね。」
そして私とレイフは医務室を後にした―。
「ね、ねえ。レイフ、手を放して。1人で歩けるから。」
このまま指輪をはめている手を握りしめられていればレイフの思考が読めてしまうかもしれない。人の思考を知るのは・・怖い・・・。
だが、不思議と今はレイフの言葉が頭に流れ込んでこない。そう言えば夢の中で声の主はこう言っていた。心の奥を知りたい相手に触れると相手の思考を読めるようになると・・・つまり私が知りたいと願わない限りは指輪の手で触れても心の中を読めないと言う事なのだろう。
「なら・・・なるべく願わないようにしないとね・・・。」
小さく呟くと歩きながらレイフが振り返った。
「うん?アイリス。今何か言ったか?」
「いいえ、何も言ってないわ。」
「そうか。俺の空耳か。」
そしてレイフは私の手を引いて再び歩き出した。
これから私は入学式へ出席する。私を貶める火種の元を食い止める為に―。
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